この星の格闘技を追いかける

Column 「いつかシカゴに立ち寄らないと……」

2011.06.13

Richie
【写真】UFC人気が爆発する直前、リッチーは確かに米国MMA界で確かな足跡を残していた

※本コラムは「格闘技ESPN」で隔週連載中の『10K mile Dreamer』2011年3月掲載分に加筆・修正を加えてお届けしております

文・写真/高島学

米国に取材へ行くたびに、いつも『シカゴに立ち寄って、彼に会わなければならない』という思いに駆り立てられる。そんな時は決まって、シカゴからエヴァンズビルまで片道9時間もドライブした時に、リッチーの言った言葉が思い出される。

リッチーと僕は、確か3歳ほど年齢が違ったが、格闘技の話題に疲れると、決まって政治・経済、もしくは映画や音楽など、多くの話題が共有できた。カー・ラジオから80年代から90年代の米国のロックが流れると、二人して口ずさむことも少なかった。

『ホワイトホースは修斗だ。It’s My Lifeは名曲だけど、ボン・ジョヴィはRINGSだ。分かるだろう?』と言って、リッチーは大笑いした。


リッチーと初めて会ったのは、2000年のアブダビコンバットだった。ファイトワールドという会社が、この大会のDVD発売権を持っており、彼は撮影クルーの一人だった。ただし長身で笑顔が、ちょっとチャームなリッチーは、映像畑の人間ではなかった。

ハップキドーを習っていた彼は、MMAにのめり込み、中西部のグラスルーツ大会フックンシュート(HnS)の運営に関わるようになった。HnSの活動母体が、ファイトワールドだった。「UFCはケージを使っている限り世間に認められない。PRIDEはビッグプロモーションだけど、スポーツ性からほど遠い。理想は修斗だ。修斗ならスポーツとして発展できる」。目を輝かせて話すリッチーを見て、修斗勢を引率していたサステインの北森大樹君が、『なんですか、このマニアックなアメリカ人は』と目を丸くしていた。

2カ月後、HnSの地元インディアナ州エヴァンズビルでWEFが開催され、視察に訪れていたサステインの坂本一弘氏に、リッチーの上司(とはいっても、本職はシカゴに持っていたが……)にあたるHnSのプロモーター、ジェフ・オズボーンと、その片腕でマッチメイク担当のミゲール・イトゥラテが、プロ修斗公式戦開催を打診した。

6月には北森君が、エヴァンズビルを訪れ、修斗を理解するマット・ヒュームの指導の下、非公式戦としてプロ修斗ルールマッチがHnSで行われた。その年の11月から北米大陸でプロ修斗公式戦が行われるようになり、いつの間にかリッチーはファイトワールドのバイトではなく、USA修斗の一員として、修斗公式戦の運営に関わるようになっていた。

ジェフやミゲールも、心の底からMMA好きだが、競技性という観点においては、リッチーが最も修斗のプリンシプルを理解できる競技頭を持っていた。自分を登用してくれた恩人のミゲールの「パンク(小僧)」扱いに対し、不満を抱えていたリッチーは、修斗らしくある大会作りを目指し、ミゲールとことごとくぶつかり合うようになる。結果、HnSと修斗、リッチーとHnSは決別するに至った。

その後、リッチーはハワイのウォリアーズ・クエスト、インディアナのアイアンハート・クラウンとミッドウェスト・ファイティング・チャンピオンシップ、テネシー修斗など、マッチメイクや競技運営面で七面六非臂の活躍を見せた。

Richie in Hawaii【写真】2004年7月、ハワイで行われたソルジャーナイト。ルールミーティングで熱弁を振るリッチー(右端)。サステインの坂本さん、コミッションの鈴木さん、サステイン渉外だった小林忍嬢。ビデオを回す若林太郎さん。先人たちの苦労を蔑にする組織に未来はない――と敢えて、ここに記しておきたい(※2011年3月某日)

ジェイク・シールズをハワイで登用し、日本に送り込んだ。ミゲール・トーレスのアメリカス王座戦、ルイス・ブスカペの米国デビュー、ギルバート・メレンデスの初来日、みんなリッチーの仕事だ。オウアノで修斗グローブの製造という隠れたファインプレーも、彼の仕業だった。

個人的にも中西部の取材の際には、いつも宿を提供してくれ、ザッツ・アメリカン・パーティー的な隣人との付き合い方や、教会礼拝など、コンサバな古き良き米国人のあり方を教えてくれた。

しかし、余りに修斗に夢中になりすぎ、本職を失い、3人の子供を持つ家庭内にヒビを入れてしまったリッチーは、奥方の意見を最終的に聞き入れ、格闘技よりも家庭を取った。その後は、日・米全ての格闘技関係者との連絡を絶ってしまった。理想の追求の過程で、途中下車してしまった後ろめたさからだろう。リッチーは、みっともないもめ事を起こした本家よりも、よほど修斗っぽい人間だった。

僕は今も家庭をかなり顧みず、格闘技に染まった人生を送っている。だらこそ、オヘア空港から乗継便でなく、レンタカーに乗り換え、リチャード・サントロに会わなければならないと思っている。

<MMA情報モバイルサイト=格闘技ESPN>
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