【Special】月刊、青木真也のこの一番:7月─その壱─マスヴィダル✖アスクレン「飛びヒザ被弾は税金」
【写真】僅か5秒、そしてコーナーマンの脚光の浴び方に視線を持っていけるのが青木真也だ (C)Zuffa LLC/Getty Images
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2019年7月の一番、第一弾は6日に行われたUFC239からホルヘ・マスヴィダル✖ベン・アスクレンの一戦を語らおう。
──7月の青木真也が選ぶ、この一番。最初の試合は?
「ホルヘ・マスヴィダル✖ベン・アスクレンです」
──衝撃の飛びヒザ、05秒KOとなった。
「ハイ。まぁ、アレしかないといえばアレしかないんですよね」
──モロに走ってきた相手に、あのまま頭が入っていったアスクレンというのは?
「税金ですよ、アレはもう」
──税金?
「グラップラーが飛びヒザを貰うのは、もう何かを得るために支払いが生じるのと同じで。あれはついてくることです。僕もそうで、長島☆自演乙(☆雄一郎)にやられたのとか。組むから仕方ないじゃないですか?
行けば貰って、行かなくても貰うんです。そして倒れるほどのヒザを貰うときと、そうでないときがある。アスクレンとしては、触ってテイクダウンするという商品を買うために、支払う必要がある税金です」
──なるほど、そういう見方ができるのですね。
「だから、貰ったことを悔いるとダメになる」
──次の試合で組めなくなると。
「ハイ。だから税金払ってんだよっていうメンタルで良いんじゃなかと思います。もう組めなくなるベン・アスクレンなんて見たくないじゃないですか」
──ハイ。
「自分に置き換えると、もうアレを貰うのは税金で……割合として存在することなので仕方ないと捉えています」
──非常に面白い見方ですね。と同時にUFCウェルター級のストーリーラインとして、アスクレンが勝ち続けて、どうなるのかというコトも見てみたかったです。
「そこがUFCなんですよ。マスヴィダルが勝てば、次があってマスヴィダルのストーリーになる。BJ・ペンとフランキー・エドガーだとBJが勝つ方が面白かったじゃないですか、あの当時は?」
──ハイ、その通りですね。
「でもエドガーは成しあがってストーリーができた。それはもうUFCですよ。UFCという強大な枠のなかで、起ったことはストーリーになる」
──プロ野球やJリーグと同様に、勝てばストーリーラインが作られると。
「ハイ。これがマスヴィダルが勝って、Bellatorに行かれるとグチャグチャになってしまいますけど、UFCという最強を争う場所で行われているからストーリーが生まれます。当然、無敗のアスクレンを見続けたいという気持ちはあっても、そうじゃない現実はUFCには存在しています。
ウェルター級にはカマル・ウスマンがチャンピオンで、ロビー・ローラーがいて……」
──週末にコルビー・コヴィントンと戦います。
「そう、コヴィントンとか強いですよ。そっちの方がアスクレンと見たかったかも。だから、今回マスヴィダルに勝っていたとしてもアスクレンは、タイトル戦線でいえばどうにもならない、僕は案外そう思っていました。
ウスマンとかレスリングができて、あれだけ打撃もあると鉄板ですよ。アスクレンは言うても、ローラーに負けかけているし。UFCはそこまでリアルで、強い人間が集まっています。コヴィントンとか、ウスマンとか。ONEで戦っていて、マニラ大会に来ていて身も蓋もないことを言ってしまうと、あの帝国は半端ないってことなんです」
──そんなONEマニラ大会で岡見勇信選手と戦うジェイムス・ナカシマは、カマル・ウスマンにも勝てると豪語していました。
「それは言った方が得だから(笑)。でも、ジェイムス・ナカシマで言うとLFAで2階級制覇して、無敗で来ている。でLFAっていえばRIZINとDEEPみたいに、UFCの傘下みたいなイメージなのにUFCは取らなかった。そういうことなんですよ、分かりますよね?(笑)」
──いやぁ、厳しいタフファイトになりそうです。
「あとマスヴィダルの飛びヒザでいえば、ちょっと飛んでしまうんですけど、あのヒザを生かしたのはコーチのマイク・ブラウンだっていう伝説が流れて(笑)。マルヴィダルはちゃんと仕事をしているのですが、それをコーチとして貰っていく。米国っぽくないですか?」
──そのような指示があろうが、あそこでヒザ蹴りが当たることが凄いことなのですが……。
「ですよね。でも、何日か前に飛びヒザが良いと思うと提案したみたいな。要は誰でも言えますよ、ソレは。パソコンでやっているヤツでも、言えることなんですよ。飛びヒザなんてリスクが凄く高いし、簡単に当たるモノじゃない。
でも、コーナーマンとして、しっかりと仕事をしている……と存在感を際立たせる。こういうのって日本人の好まない価値観ですよね。そんな注目のされ方は」
──縁の下の力持ち、黒子ではないと。
「ちゃんと自分の仕事をしているという誇りはあったとしても、それだけでなく自分の価値にしていく。もちろんマイク・ブラウンは優秀なんですけど、その優秀さをコーチとしてブランディングし、彼の名前が立っていくのが面白くて。くましいですよね」