【Special】月刊、青木真也のこの一番:8月─その壱─ハニ・ヤヒーラ×ルーク・サンダース「多様性」
【写真】青木によるとヤヒーラの外ヒールが極まった裏には、右手でサンダースのヒザを押し込みタイトにしたことが大きいとのこと (C)MMAPLAET
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ8月の一番、第一弾は8月25日に行われたUFN135からハニ・ヤヒーラ×ルーク・サンダースの一戦を語らおう。
──8月の青木真也が選ぶ、この一番。まず1試合目はどの試合になるでしょうか。
「ハニ・ヤヒーラがルーク・サンダースに勝った一戦ですね」
──おお、ハニの試合ですか!!
「ハニ・ヤヒーラは第1試合に出ていて、外ヒールというフィニッシュもそうだし絶妙ですよね。3試合連続で一本勝ちしている実力派で。廣田(瑞人)選手、金原(正徳)選手、田中(路教)さんに勝っている。そのうち2人はスプリットで。
日本人ファイターの扱いが厳しいってUFCではよく言われるけど、そこが表れていますよね。下のカードで門番的みたいな。排除ではないですけど、ハニを越えられるかどうかで……越えられないならお暇してもらおうかと」
──今のUFCであのスタイルで勝てるのが、また魅力的です。
「フィニッシュが実は多様化している。バックチョークもあるし、お家芸のノースサウス、ついには足関節まで極めてしまった。しかも外ヒールですからね。今だと足関節は内ヒールやヒザ十字になると思うのですが、ハニはアウトサイドで普通に取っているのが凄いです」
──北米MMA、UFCは極端な言い方をすると求められているモノがダナ・ホワイト・コンテンダーシリーズに集約されていると思います。打撃のフィニッシュ至上主義。しっかりよりもガチャガチャ。LFAなどフィーダーショーの試合も、その傾向が強くなっています。
「MMAの技術的な流れがそうなっているのと同時に、選手の数が増えていて──あそこに対応できない選手も増えているのかというもありますよね。UFCクラスになっても。UFCでソレが行われてしまっている怖さ、プロモーションの強さを同時に感じます。結果、メインストリームでないプロモーションで映える人が、メインストリームで映えている」
──凄く分かります。
「ハニが極めきれないで根性とスタミナ勝負になっていたところが、相手が対応できなくて極めることができるようになった。それもあるかと思います。この前の対戦相手を見てみても。
パイが広まったからこそ、多様なスタイルが認められている。もっと狭い世界だと排除されていくスタイルが、逆に生えているんです。カウンターカルチャーですよね。メインストリームがあるからこそ、映えてくる。
まさにMMAPLANET的というか、マニアックな僕たちのような格闘技好きにはたまらない勝利です。ただし、それもハニ・ヤヒーラの技術力が物凄く高いからです。普通の潜りから、アレをやってしまうわけですから」
──ハニがああやって勝つことで、あの技術形態を練習しようという傾向は必ず出て来ると思います。
「ハイ。そこで勘違いしちゃいけないのは、ハニが足関節を極めることができるのは、普通にパスが強く、ノースサウスが強いからなんですよ」
──いきなりの足関ドカーン!!ではないと。
「下になっても返すことができる技術。モダン柔術でない、グラップリング。例えばゲイリー・トノンとかはコンペティション柔術が確立していて、その柔術なんです。対してハニは、バーリトゥードの名残がある柔術の技術を教わり、ADCCでもレオジーニョに勝ってしまう。
ちょっと異常ですよ(笑)。イヴォルブMMAのレアンドロ・イッサが同じ世代で『ハニ・ヤヒーラには勝てなかった』と言っていました。イッサも茶帯でムンジアルのチャンピオンだけど、『1年、ハニのほうが先だった』と。
ハニ・ヤヒーラの試合はやっぱり希望であり、僕からするとアイドルのようなものです。泥臭さも含めて(笑)」