【Pancrase298】ヴィヴィ戦の敗北から、1日を経て藤野恵実─01─「まさかアウトボックスで来るとは」
【写真】気持ちは折れていない。倒れるパンチも貰っていない。しかし、藤野はヴィヴィの攻撃を被弾し続けた (C)PANCRASE
5日(日)、東京都台東区の新木場スタジオコーストで開催されたPancrase298。そのメインで藤野恵実はストロー級クイーン・オブ・パンクラシスト王座を賭けて、ヴィヴィアニ・アロージョと対戦し3RTKOで敗れた。
気持ちは折れなかった。ダメージもなかった。しかし、ヴィヴィのパンチで左目が塞がった。BBAなめるな──発言で、このタイトル戦を大いに盛り上げ、J-MMA界において間違いなく時の人となっていた藤野。キャリア15年の意地を賭けて戦い、敗れた彼女はこの試合をどのように想い、これからを如何に考えているのか。
敗北から1日経った月曜日の夜、彼女の話を訊いた。
──ヴィヴィアニ・アロージョ戦の敗北から1日が過ぎました。左目の周囲の腫れが酷かったですが、症状の方が如何ですか。
「大会終了後に病院に行き、診てもらいました。全く問題はなかったです。自分の感覚的にも折れていないのは分かっていました。腫れやすい性質なので、こんな風に膨れ上がってしまっていますが、ダメージはなくて。ピンピンしていたので大丈夫だろうとは思いつつ、今日も仕事があったので昨日のうちに病院へ行っておきました(笑)」
──いや、笑いごとではないかと思うのですが、頭痛や吐き気といったこともなかったですか。
「全然大丈夫です。食欲もあって、バンバンご飯も食べました。顔がマンガみたいになっているだけです(笑)」
──ではストップは視界が塞がれているからということだったのでしょうか。
「最初はなぜブレイクが入るのかも、自分では分からなかったです。だから、『なんで止めるの?』って思っていて。カットもしていないし、そんなに何度も止める必要ないでしょって。
貰っているけど、いつもぐらいだ。ヴィヴィの打ち方なのか、ダメージというか倒されるパンチでなくて、表面を当てて来るようなパンチで。立ち続けたのが凄いと言って貰えたのですが、倒れるというパンチではなかったです。まぁ、打たれているからしょうがないですけど。そういう作戦だったのかもしれないですね」
──腫れたから、そこを狙ったのではないでしょうか。2R終盤のテイクダウンからマウントを取った時は、左側を下に向けてもそこを殴っていましたし。頭もこすりつけてきましたよね。
「それどころか頭突きになっていましたから、勘弁してよって。あれは梅木さんも注意してくれて。ヴィヴィも謝ってくれましたけど、あの前のグリグリは凄かったです。腫れているのは、もう分かっていたので……あの攻撃されると、もっと腫れると思って怖かったです」
──3Rに一発パンチが当たったところで、試合がストップされました。あの瞬間、どのような気持ちでしたか。
「その前のストップで、またパンチを貰うようだと止めるという風に言われたような気がします。目も塞がっていたので止められるのは当然です。ただ、あの時は最後まで戦いたかったです。ダウンもしていないし、タップもしていない。連打でラッシュを掛けられたわけでなく、最後もジャブかなんかでしたよね?」
──サウスポーから右ジャブでした。
「一発だけだったから、戦っている方としては連打で効かされたわけでもなくて……ジャブだったから『なんで?』とはなってしまっていました」
──ただ傍で見ている人間は、ストップは致し方ないと誰もが思ったはずです。
「そうですよねぇ、これだけ腫れてしまっていたら」
──見えているのに被弾し続けたのだから、見えなくなったらどうなるのか。レフェリーは選手を危険に晒すことはできないです。
「ハイ」
──藤野選手からすれば、そんなことは百も承知だけど5Rまで戦っていれば、ヴィヴィがスタミナを切らしてチャンスが回って来るという気持ちだったかとは思います。
「短いラウンドで彼女に勝てるとは思っていなかったです。だから5R制というのが私にとってはチャンスでした。なんとか決定打を許さず、後半勝負というのが狙いでしたが……後半にいけなかったから……」
──ずっと格闘技をやってきた人に対し、負けたのに頑張ったとか凄い精神力というのは褒め言葉にならないと思っています。やはり勝利が一番重要で。
「頑張るのは当然ですからね」
──技量でヴィヴィが上回った。それ故の敗北になります。
「しっかりと研究されていましたね。これまでの試合を見ていて、ああいう風に戦った試合は一つもなかったです」
──ハイ。スタンドでは確かにもっとスラッピーな打撃で攻める試合が多かったです。
「まさかジャブを当てて、距離を取るという戦い方をしてくるとは思っていなかったです。それがセコンドも含めた、皆の一致した感想でした。ガツガツと前に出て来て消耗戦になると思っていたら、あんなアウトボックスをしてくるとは……。試合前のインタビューでも『アウトボックスが一番苦手』って話をして……」
──でもヴィヴィはそうではないから、根性マッチに持ち込めるという結論で。
「そうしたら、一番苦手な戦い方で来られました……」
──距離を取るだけでなく、自分のパンチは当てていた。そういうアウトボックスでした。
「私のことを研究してきたら、それが最善の策なんですよ。接近してグチャグチャするよりも、ずっと良い方法」
──連打という連打はなかった。そして、スイッチしながら確実にジャブを当ててきました。
「逆にヴィヴィの資料が少ないというのもあるのですが、最近は対策を練るということを私は余りしていなかったです。対策を練っても、それを実行できるかという部分で、それならば自分の試合をするということを第一でやってきました。対してヴィヴィには、見事なまでに私が出ようとするときにパンチを当てられましたね。
もともと強い選手が、しっかりと対策を練ってきた。でも、世界で戦うならクリアしないといけない部分なんですよね。これだけ映像が出ていると、いくらでも研究されるわけですから」
──つまり藤野選手は自分の試合をさせてもらえなかったことなります。
「負けも負け。あれだけ目も腫れて……気持ち的に続けたかったというのはありますが、負けは認めています。ヴィヴィが強かったです」
<この項、続く>