【Bu et Sports de combat】武術の叡智はMMAに通じる。四大要素を学ぶ組手と極真セミコン大会─02─
【写真】武術空手と極真セミコン・ルールの導入の話を聞くと、岩崎氏からクリッカーなる言葉が聞かれた(C)MMAPLANET
武術の四大要素──『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた』状態が存在し、無意識な状態で使える次元、レベルを高めるために型稽古が必要だ。
そして、剛毅會では型の理を学ぶべき手段として直突きと前蹴りのみが許された、顔面は当てない組手をプロMMAファイターから、子供達までが実践している。
そんな顔面を直接殴らずに、ポイントとなる部分で共通項のあるセミコンタクト空手ルールを採用した競技会、I.K.Oセミコンタクトルール2018全国交流大会が6月3日(日)にエディオンアリーナ大阪で、国際空手道極真会館によって開催される。
極真が用いたセミコン・ルールは、これまでMMAでプロ選手が戦ってきてはいたが、空手競技会に出場することがなかった剛毅會の面々にとって、将来的に初めて出場する空手トーナメントになるかもしれない。
なぜWKFのポイント制ではなく、またフルコンタクト空手でもなく顔面を当てないセミコン・ルールが武術空手にとって、なぜ鎬を削る場となるのか。岩﨑達也氏に尋ねると、クリッカーなる英国・極真會が用いた組手&競技の存在が明らかとなった。
<四大要素を学ぶ組手と極真セミコン大会Part.01はコチラから>
──ただし、その組手もWKF、かつてのWUKOと呼ばれた世界的な空手組織の競技会で、現在も見られるポイント空手とも勿論別モノになっています。
「勉強不足になってしまうのですが、WKFという空手組織の競技会を未だに見たことがないので、何とも言えないです。ただし、全日本空手道協会の空手からはリョート・マチダ選手やシンゾー・マチダ選手が育っていますよね。
よくは分かっていないのですが、協会と全空連(全日本空手道連盟)の空手が違うから、伝統空手にあって協会からはリョートやシンゾーさんのような空手家が出現した。WKFで見られる空手の試合は全空連の空手ということなのでしょうね。
ただ国内でMMAの試合を見ていると、伝統派のような打撃を使う選手が、時折り見られるようになってきました。それは何も伝統派空手の競技会に出ていたという選手ではなく、MMAを戦うための打撃がそちらに近づいていっているということだと思います」
──MMAで勝つために、技術的には伝統派空手に近づいている向きがあると。
「ハイ。ただ、剛毅會で取り入れている組手は、MMAの選手だけでなく、武術的なことを学ぶ人にも役立つと思っています。痛くなくて真剣にできることで、数もこなせますからね。
MMAの選手が小学生にスピードで負けることがあります。そうすると選手はもっとスピードを上げる必要がでてきます。選手も子供も女性も老人も等しく、あり方を問うことできる組手が……当てないということだったんです」
──巷に数多く存在する空手競技会は、武術空手の叡智を駆使し競い合うモノではないと捉えて良いですか。
「そうですね……、手段が目的化してしまったのです。各流派で捉え方は違ってきますが、組手とは剛毅會においては型の理を学ぶ手段でしかないです。
ただし、選手も人間です。頑張っている子ほど、勝つためにどうするのかという風に、手段が目的化してしまうのです。それはルールある競技会を開くことで、どうしてもなってしまうものです」
──本質が変化するという側面が見られた一方で、競技会があるから広まる。ただし、競技会があることで、本質が変化してしまうというのが、剛毅會から見た現状の空手界であるわけですね。
「そうなった時に……私も選手をやっていたので、競技会の良さも理解しています。MMAを戦う選手は元々はレスリングの選手だったらテイクダウンが強くて、柔術の選手なら寝技が強いです。そしてキックボクシングやボクシングの選手は打撃が強い。
ただし、打撃といっても明らかに剛毅會とは技術系統が違ってきます。ボクシングやキックボクシングの基本と、剛毅會の空手の基本はまるで違います。その剛毅會で育って人間が競い合う場がなかったんです」
──剛毅會の選手はMMAで戦うばかりだったと。
「空手なんですけどね……それこそが。ただ、MMAで戦えない人はたくさんいるわけです。それは目指すところが違うので。そういうなかで、剛毅會で空手を理を学んでいる子たちにとって、鎬を削ることができる競技会が存在しなかった」
──その状況こそが、松井館長が開くセミコンタクトルールによって変わって来る可能性が出てきたわけですね。
「今回、先輩方が開く大会は人数の都合で参加はできなかったですか、しっかりと見せてもらい将来的には参加させていただこうという気持ちはあります」
──おぉ。
「ただ、今回の試み以前に英国という国の極真會では1960年代や1970年代から、当てない空手をやってから当てる空手をするという風に段階を踏んで組手をしてきた歴史があります。
その結果、組手のスタイルが英国と他の国では全然違っているんです。英国の極真會ではクリッカーというスタイルの試合形式──強い打撃は反則で、正確でスピーディーな蹴り技でポイントを取り合う試合形式を用い、稽古でも同様にクリッカーを取り入れていたんです」
【英国極真會による、クリッカーのイントロダクション(要約)】
『クリッカーは男性、女性、そして子供たちの全てに活用されるスコアリング・ファイトです。
なぜ、このスタイルで稽古を積むのか。それはバランス、コーディネーション、スピード、テクニックを身につけるためです。結果、どのような体格、レベルの相手と向き合っても、より有効な動き、技術を習得できます。
何より経験豊かな相手と相対した時に経験の少ない空手家でも、より安全な環境で稽古ができ、自信を深めることができます』
──極真のクリッカーとは別なのですが今、英国で一番注目すべきMMAファイターのマイケル・ペイジはセミコン空手出身で、彼が試合経験を積んでいたフリースタイル・キックボクシングのルールが、顔面パンチはセミコンで、ローは禁止。蹴りは直接殴打制を用いているんです。
「ペイジの動画は見ました。そして、今は蹴りだけではなくパンチでKOしていますよね。武術空手の理とは違いますが、ノンコン空手にしろ剣道、フェンシングにしろ、努力だけでなくスポーツ的な時空の駆け引きが存在します。彼はそこに秀でているようです。
その一方でフルコン空手というものは努力と根性で、上達していくモノだったのです。そして、英国の極真會にはクリッカーが存在した。
今回、先輩方がセミコンタクトのルールを採用した大会を開きますが、私が段階を踏んで行きついたところに、フッと行きついた。その経緯は違うのですが、至った結果が似通っているということに、正直唸りました。
なぜ、その結果に至ったのか。松井館長も増田師範も、ご自身であり方を問うて来たからです。それが武術かどうかは知りえないですが、武術的な視点でモノゴトを捉えることがあり、現状に満足されていなかった。そして、根本的に見方を変えるという潔さまで持っている。いや、唸りましたよ(笑)」
──下段蹴りを認めないというのは、下段蹴りに頼ってしまうからでしょうか。
「極真会館がノンコンタクトとはいえ、上段の突きを認めたのです。こんな画期的なことはないです。そして、上段突きでポイントが入ることで、下段は有効にならないのです」
──ならば下段蹴りを禁止せず、上段突きがあっても、有効な下段蹴りを磨けば良いのではないでしょうか。
「これは松井館長から直接聞いたのですが、あくまでも試験的に開くということです。第一歩、つまりは段階を踏んでやっていく、そういうことだと思います」
<この項、続く>