【WJJC2018】展望─01─ルースター級、二大巨頭がいてなお日本人柔術家にとって頂点が一番近い階級
【写真】10度目の世界の頂点を目指すマルファシーニにとって、カイオ・テハと橋本知之が最大の難関か (C) MMAPLANET
31日(木・現地時間)から6月3日(日・同)にかけて、米国カリフォルニア州ロングビーチのカリフォルニア大ロングビーチ校内ピラミッドにて、IBJJF主催のブラジリアン柔術世界選手権が行われる。今年度における各階級、そして無差別級における競技柔術世界一を決定するこの大会。まずは日本人の活躍がもっとも期待できる最軽量級の見所をお届けしたい。
【ルースター級】
日本人がもっとも金メダルに近いと思われる最軽量級。今年は3月のパン大会にて、昨年世界3位の橋本知之(カルペディエム:本大会はブラザCTA所属で出場)と芝本幸司(トライフォース)の2人が日本人同士の決勝戦を実現させたことで、より大きな期待がかかる。
勝者の橋本はジョアオ・ロドリゲス、ルーカス・ピニェーロ、そして芝本という世界的強豪を連破してのパン大会制覇だった。どの試合もポイントは僅差だったが、相手の片足を固定する独特の型のオープンガードと強固なクローズドガードを使い分けてペースを支配。攻撃の際にも防御の際にも柔軟な体を存分に活かすこの橋本スタイルが、世界トップレベルの戦いをも制する完成度にあることを示した。
そんな橋本は現在、尊敬する師にして越えるべき高き壁でもあるカイオ・テハの下で仕上げに入っているようだ。今大会テハ門下として出場する以上、師弟対決が実現するのは決勝の舞台のみ。その前に準決勝まで勝ち上がり、昨年やはり準決勝で対戦し一本負けを喫した絶対王者──ブルーノ・マルファシーニ戦を実現させたいところだ。25歳の橋本が練り上げる独自の戦いが、世界の頂点にどこまで通用するか、大注目だ。
この大会に賭ける気持ちという点では、37歳のベテラン芝本も負けてはいまい。1月のヨーロピアン準決勝のイアゴ・ガマ戦、3月のパン決勝の橋本戦といずれも新鋭との競り合いに敗れてしまった。しかし、どちらの試合においても、相手が良いポジションを取りに来た時に瞬時にスクランブルから上を取り返すなど、敗れてなお強さを見せつけていた。
この2試合について、「相手との勝負よりも大会で優勝したいということに気持ちが向いてしまっていた」と反省し、世界大会ではあえて優勝ではなく目の前の相手との勝負に集中することを目標にするという芝本。
今回初戦を突破すれば、準々決勝でガマ相手にヨーロピアンの雪辱戦を迎えることになりそうだ。そしておそらく準決勝ではテハが、決勝ではマルファシーニと橋本の勝者が芝本に立ちはだかることとなる。世界の超強豪を3タテすることが優勝の条件となる過酷な組み合わせだが、世界の誰とでも互角に渡り合える技術と、勝負所で相手をねじ伏せるフィジカルを併せ持つ芝本だけに、精神面が万全なら大仕事をやってのける潜在能力は十分に秘めている。
さらに芝本の同門トライフォースからは、澤田伸大が出場する、1月のヨーロピアン大会では初戦敗退したものの、澤田バーと呼ばれる独特の腕十字を極めかけて確実に爪痕を残している。今回初戦でアレクシス・バラガン(ヘンゾ・クレイシー・メキシコ)と当たる澤田。ポイントゲーム全盛の最軽量級の世界の舞台にて、澤田バーによる一本勝ちをぜひ見てみたい。初戦を突破すると、絶対王者マルファシーニへの挑戦が実現する。
そしてすでに触れてきたように、今大会には3人の日本人精鋭に立ちはだかる世界的超強豪が3人エントリーしている。まずはいわずと知れた絶対王者、現在世界4連覇中のブルーノ・マルファシーニ(アリアンシ)。2007年に世界初制覇して以来10年以上世界のトップに君臨し続けているが、まだ31歳。去年の本大会の準決勝では終盤、橋本のガードをパスしてバックを奪うと、腕十字で一本勝ち。
決勝ではカイオ・テハとの頂上対決を僅差で制している。今年はまだ表舞台に出てきていないが、年齢からしてもその脅威の瞬発力と反応速度に衰えがあるとは考えにくく、優勝候補大本命と考えるのが妥当だろう。
そんなマルファシーニの宿命のライバル、カイオ・テハ(ブラザCTA)も出場する。昨年の決勝戦では、アキレス腱固めグリップを駆使して終了寸前までマルファシーニを封じ込めることに成功。最後のエスケープを場外逃避と取られてしまい涙を飲んだが、マルファシーニの身体能力に対抗できる唯一無二の存在であることを改めて見せつけた。この究極のテクニシャンは、橋本が師と仰ぐ存在でもある。この大会はテハと橋本の師弟が、絶対王者相手に雪辱を目指すストーリーとして見ることもできる。
加えて今年は、長年軽量級に君臨している二大巨頭に割って入る可能性を秘めた実力者が、マルファシーニの所属するアリアンシから現れた。昨年の茶帯世界王者のイアゴ・ガマだ。今年1月のヨーロピアン大会準決勝にて芝本とのポイントゲームを僅差で制し、決勝は一本勝ちで優勝して力を見せつけたガマ。テハや橋本を抑えてマルファシーニとのワンツー・フィニッシュを決める可能性も決して少なくないだろう。
この他ルーカス・ピニェーロ(アトス)、ジョアオ・ロドリゲス(ソウルファイターズ)といった強豪を含め、総勢17名がエントリーしているこの階級。かつてのように層が薄いという印象は微塵もなく、その頂きへの道は険しさを極めている。