【2017~2018】橋本知之─01─「人の目に触れられ、自分の柔術を評価されたい」
【写真】2017~2018、ファイター達の足跡と一里塚。4人目は橋本知之に話を訊いた(C) TERUTO ISHIHARA & MMAPLANET
まもなく終わりを告げる2017年。情報化社会の波のなかで格闘技の試合も一過性の出来事のように次々と生産&消化されている。
しかし、ファイターにとってその一つの一つの試合、ラウンド、一瞬は一過性のモノでは決してない。大袈裟でなく、人生が懸っている。
試合に向けて取り組んできた日々は何よりも尊いはず。そんなMMAファイター、そしてブラジリアン柔術家がこの1年をどのように過ごし、そして来るべき2018年を如何に戦っていくのか。
MMAPLANETでは9人の選手達に2017年と2018年について語ってもらった。4番手は6月のムンジアルでルースター級3位に輝いた橋本知之に話を訊いた。
橋本はムンジアル3位、ノーギワールド2位という結果のみならず、ロシアの新風=ACB JJとプロ契約を結んだという快挙も成し遂げた。結果を求めつつ、その結果は試合のリザルトに留まらず、自己の柔術の昇華に通じている。そんな日本ブラジリアン柔術界のトップランナーの世界観とは────2017~2018、橋本知之の足跡と一里塚。
──米国、カイオ・テハのところで練習中にロシアのACB JJワールドGPノーギ60.95キロ出場、そしてノーギワールドのルースター級で準優勝という実績を残して帰国となった橋本選手ですが、まずは6月のムンジアルで表彰台に立った。この結果を今、改めてどのように感じていますか。
「今年はムンジアルにしても、トーナメントに出た結果はそれなりに良かったと思います。残念だなと思う内容の試合もありましたけど、トータル的には悪くなかったです」
──1月のアブダビ・グランドスラムからムンジアル、全日本、アジア、ノーギワールド、そしてACBが2度。リザルトとして残る結果に関して、優勝は全日本のライトフェザー級のみでした。
「優勝は逃しているけど、試合前にある程度の予想はつくじゃないですか? 自分がどこまでいけるのかなというのは。その点でいえば試合で負けても、優勝しても想像の範囲内なのでトーナメント結果によって一喜一憂することはないですね。
負けてもそれほど落ち込むことはないですし、優勝しても想定した中の結果なので。優勝だけを考えると、これだけトーナメントも多いので優勝できる大会はありますし。だから勝ったからといってテンションが上がるということもなかったです」
──では試合に関して、橋本選手が求めているモノは何なのでしょうか。
「う~ん……そうですね、良く分からないです(笑)」
──ハハハハ。
「良く分からないんですけど、選手をやっているので試合結果を出すこと。それと試合は人の目に触れるモノなので見てもらって、自分の柔術を評価してもらえることですかね。自分の柔術を高く評価してもらうために出ているのかと思います。色々とある目的のなかで、それは確実にあります」
──では、その評価を最も得たいトーナメントは何になりますか。
「人に見てもらうということにおいて、注目度はムンジアルですから、ムンジアルは価値があると思います。実際にレベルも高いですし、評価もされます」
──誰々に勝ちたい。誰々には負けたくないということはあまり思わない?
「それもあります。でも、自分の柔術を評価されたい方が大きいです。勝ちたい、負けたくないというのはソレはソレで、楽しみの一つですけど」
──なるほど。2017年は橋本選手の柔術の評価は上がりましたか。
「ACBとかにも呼んでもらえて……勝てなかったですけど、あの場にも出られたので一定の評価はされたかとは思います。ただ実力的には僕はあそこに出させてもらうまでは、いっていないです。それでも出ることができたので……ラッキーでした」
──ACB、アブソリュート・チャンピオンシップ・ベルクトはMMAでも色々な意味で怖い大会で注目されています。とにかくロシア人ファイターが強い。そして、やはり西側社会と違うベクトルで動いているのではないかと。
「へえ、僕はMMAのことは分からないので……そうなんですね。柔術の方もロシア人はトーナメントに出たり、ロシア人同士のスペシャルマッチとか組まれています」
──柔術でもロシアは勢力を拡大しているのですね。それは驚異です。
「レベルは高いです。ただルールが特殊なんです。こないだのノーギは5分×3Rで最初の1分は引き込むと2点失うというモノでした。だから1分間はレスリングをしないといけない。1分が過ぎると引き込んでも良いのですが、ダブルガードだと上を取った方に2点が入ります。
どちらかというと立ちの技術も求められるし、ヒールとかも全てあります」
──7月に出場したトーナメントはどうでしたか。
「7月は柔術、道着を着て外掛けはなかったです。ただ、まだ新しい組織なのでルールはチョコチョコと変わっていますね。引き込みの減点も、前はなかったです。あとポイントもラウンド毎の計算で、一本決着でないとどちらがラウンドを取っているかで勝敗が決まります」
──それは斬新ですね。
「MMAっぽいですよね」
──では橋本選手がACBで戦うにあたって、何を求めているのですか。
「それは一番はお金じゃないですか。優勝すると400万円ぐらいになりますし。やはり賞金が出る大会は柔術界ではまだまだ少ないので」──試合に出るだけでも、ファイトマネーは支払われるのですか。
「ハイ、僕の場合は1試合で20万ぐらいですね」
──柔術の試合に出て20万円を手にでき、優勝したら400万円というのは素晴らしいことだと思います。そういう大会が頻繁になれば、コンペティションに出て収入を得るケースが増えるわけですし。ACBはMMAの方では世界規模でイベントを開いていますからね。
「僕が出た時は60.95キロ(優勝はアウグスト・メンデス・タンキーニョ)と95キロ(同フィリッピ・ペナ・プレギーサ)でしたが、10月には65キロ(同パウロ・ミヤオ)と85キロ(同ヴィトー・オノリオ)の大会をリオデジャネイロで開いていました。また1月にもブラジルでやるようです。
トーナメントも2階級でやって、ワンマッチも組まれているし、プロとは別に優勝したら賞金のあるトーナメントがあって、キム・テハが参加していたんです。
だからセコンドとかはキム・テハにやってもらったのですが、あまり詳しくは分からないですけど、キム・テハは招待選手でした。本当に凄い規模でしたよ。食事もホテルのビュッフェで3食ともついていましたし」
──なるほど。ロシアによって柔術界も変わって来るかもしれないですね。そうなるとIBJJFのムンジアルの価値はどうなっていくのか。
「スーパーチャンピオンはプロの試合だけに出ていくようになるでしょうけど、他の柔術家はIBJJFの大会で結果を残してプロマッチへの出場権を得る必要があると思います」
──橋本選手も目指すところは、プロファイトで食っていける柔術家ですか。
「どちらを目指すということではないですけど、プロファイトで収入があることは良いことですし、ファイトマネーも賞金もなくてもIBJJFのトーナメントで評価されたいです。
強さという面で、プロマッチだけでやっていけるような評価を受ける柔術家になりたいとは思っています」
<この項、続く>