【Gray-hairchives】─05─Aug 7th 2010 Michael McDonald
【写真】19歳、何も行く手に塞がるモノなどない──無敵感を持つことができる時代のマイケル・マクドナルド(C)MMAPLANET
1995年1月にスタートを切った記者生活。基礎を作ってくれた格闘技通信、足枷を外してくらたゴング格闘技──両誌ともなくなった。そこで、海外取材のうち半分以上の経費は自分が支払っていたような取材(いってみれば問題なく権利は自分にあるだろうという記事)から、最近の時事に登場してくるファイターの過去を遡ってみようかと思う。
題してGray-hairchives。第5弾はGONG格闘技220号より、15日(金・現地時間)にBellator191=ロンドン大会でベラトール初陣を迎えるマイケル・マクドナルドのインタビューを、まず後記から振り返りたい。
【後記】
ベイエリアから車で90分ほど内陸部に入った小さな街にあるオークデイルMMAで会ったマクドナルドは、元カジュケンボー・マスターのトム・セオファノポロスを師としており、本当に初々しい少年だった。取材の3カ月後にWECと契約し1試合を経てUFCへ。そこまでは──このインタビュー通りのMMAファイター人生を送っていた。
マイケルとローリー、2人のマクドナルドが自分にとってはMMAがMMAとして成立してからの生粋のMMAファイターの代表格なので非常に印象に残っている。
インタビュー翌日にUFC117のメディアルームで、当時WECのマッチメイカーだったショーン・シェルビーが「マイケル・マクドナルドのマネージメントとコンタクトを取っている。それからブラックハウスに、凄いティーンエイジャーがいるんだ」と話しかけられたが、ブラックハウスの10代の選手とは誰……。ひょっとして──。
■『僕は正しい条件の下なら、どこでも戦うよ』
――なぜ、MMAファイターになろうと思ったのですか。
「子供のころから体を動かすのが好きだったけど、別にファイトに夢中だったことはないんだ。ボクシングには興味が少しあったけど、ビデオゲームで遊ぶ方がずっと好きだった(笑)。そんな時にアニキにキックをやらないかと誘われたんだ。ボクシングならやってみたかったけど、まぁキックでもいいかなって思ってついて行った。
それが、このジムだったんだよ。すると、またアニキから『一度、キックの代わりに柔術をやってみないか』って言われてね。柔術はやりたくなかったけど、しぶしぶ始めて3カ月後に初めて腕十字を極めることができた。それからもうやめることができなくなったよ。柔術とキックの練習をし、14歳の時アマMMAの試合にでるようになったんだ」
――14歳? 中学生じゃないですか。
「そうだよ。僕らはみんな、アマMMAで戦っていた。でも、テレビで見たMMAの試合で、僕でも出来るディフェンスができないファイターが戦っていた。『なんで、あんなことができないんだ』って思い、『僕にもできる』って分かったんだ」
――資料によると、17歳になる直前にプロMMAにデビューしていますね。
「そう、16歳のときにチームからロナルド・ベラスコがグラジエイターチャレンジに出場して、会場の雰囲気や試合を見て、僕が戦えることをあの場で証明したいと強く思った。そして、その年の終わり──2006年12月にグラジエイターチャレンジで戦ったんだ。実際はイリーガルだよね。ただプロの試合で戦うには、どこが足りないだろうって考えながらトレーニングしていたから、十分にやっていける自信があったんだ」
――プロの試合に出て、しばらくの間は高校生だったわけですよね。
「そうだよ。今は高校を卒業して、モデスト・ジュニアカレッジに通っている。時間は取られるけど学校には通っていたい。経済学、心理学、哲学、応急救護に興味があるし、学問でも自分を磨きたい」
――なるほど、それでいて19歳でこの強さですか、大したものです。マイケルの試合を見ていると打撃、テイクダウン、寝技と、全ての要素がメルトダウンしているように感じます。
「ハハハハ、そう僕はMMAファイターだからね。以前はスタンドで戦ってKO勝ちすることだけを考えていた。そういう僕のことを生意気だという人もいたけど、実際に強く殴ることができたし、KO勝ちを続けていたからね。ただ、コール・エスコヴェドに初めて負けて、色々気付かされたよ。右のパンチだけで勝ってきたから、他のことを試す必要がなかった。腕が二本ついているのに、ね。打撃だけで勝てるからって、レスリングや寝技を使わないなんて馬鹿げている。ホント、バカだったよ」
――プロで3年戦ってきて、今ではどのようなトレーニングをしているのですか。
「トレーニングは毎日、1時間のキックボクシング、1時間は柔術、そして残りの1時間はMMAの練習をしている。ただ、MMAクラスでは多くの時間がレスリングに割かれているといってもいいよ。キックボクシングと柔術、レスリングのトレーニングを積んでいれば、どんな状況になっても戦うことができる。結果、それがMMAになっているんだ」
――柔術は道衣を着ているのですか。
「着ているよ。柔術では青帯で1度、紫帯で2度、USオープンで優勝した。今は茶帯だよ。多くのファイターがギを着たトレーニングは必要ないって言っているのは知っているけど……う~ん、そうだね。僕は今バンタム級で戦っていて、いきなり体を大きくしようとは思わない。自然に大きくなっていけばいい。それと同じで、何事にも段階を踏む必要がある。ギを着て柔術のトレーニングをするのは、今の僕に必要なんだ」
――19歳8カ月のマイケルは、日本のMMAにどのような印象を持っていますか。
「日本はファイターへの心配りが凄く良い国だっていうイメージがある。米国は違う。ファイターって、最も地位の低いビジネスだと思われている。この国では、ファイターはなんでもない。プロモーションはファイターをゴミ扱いする。日本のファイターのように周囲から尊敬される存在になるべきだ。僕は正しい条件の下なら、どこでも戦うよ。日本はファイターに正しい価値を持って接してくれると聞いている」
■『アンデウソン・シウバ、BJ・ペン、GSPに僕はなれるはず』
――う~ん、果たしてそうなのか、明言は避けさせてください。日本には多くの軽量級の人材が残っています。日本人ファイターで気になる選手はいますか。
「正直言って、あまり知らないんだ。実は格闘技界のことは分かっていない。試合の交渉はマネージャーに任せっきりだし。練習している以外は、勉強しているから(笑)。MMAは弟の方が真剣になって見ているよ。試合映像をダウンロードたり、インタビューもチェックしているけど、僕はそういうことはしないんだ。
時間があれば、友人たちと一緒に過ごしたい。試合前に対戦相手を研究するときぐらいだよ、ビデオをチェックしまくるのは。だから、多くのMMAファイターとは違い、僕は日本人ファイターのことは分かっていないんだ」
――なるほど。オークデイルMMAジムはリング、ケージ、マットもある十分に素晴らしい設備が整っていますが、このベイエリアには有名ジムが点在しています。トップが集まるジムに興味はないのですか。
「ホント、試合のたびに色んな人から『一緒に練習しないか』って誘われるんだ。でも、僕はここでの練習に満足している。多くの人が出稽古をするけど、僕には必要はない。ここでの練習で十分だ。面白いことにさ、出稽古をしているファイターは、そこで何が行なわれているか、色んな人に話すじゃないか。
でも、そういうファイターは、このジムまで足を運ばない。他のジムのことは誰もが知っているけど、このジムのことは誰も知らないんだ。これは大きなアドバンテージだよ。僕たち以外は、誰も僕たちのことを知らないんだから」
――なるほど。ところで次の試合は決まっていますか。
「ハッキリとした日付は分からないけど、11月か12月になると思う」
――それはTPFで?
「WECと交渉しているだろうけど、マネージメントに任せているから、分からない。ただ、TPFの防衛戦の可能性もある。つまり、何も正式決定していない状態さ」
――TPFが山本KID徳郁選手を招聘に動いているという確かな情報があります。具体的な提示額もあり、ただ、TPFはKID選手をフェザー級で組みたいようです。彼の体格はバンタム級なので、対戦相手がマイケルになるかもと期待しています。
「KIDヤマモトかぁ。フフフ、彼は僕が唯一、名前を覚えている日本人ファイターだよ。一度しか試合は見ていないけど、小さな体なのにノックアウト・パワーを持っていた。KIDヤマモトは良いレスラーで、パンチが強い、凄くエキサイティングな試合をする。軽量級のハードパンチャー、一番戦いたいタイプだ。僕らは数少ない、軽くて強いパンチが打てる者同士だよ」
――逆にハードパンチャーが少ないからか、スピーディかつトリッキーな戦法も目立ってきました、同時にポイントメーキング的な攻防も多いです。
「どんなスタイルの持ち主が、どのような戦術を駆使しようが、全てを尊重しないといけない。以前はパンチ力がなくて、寝技で戦おうとするファイターを軽視していた。でも、彼らは僕のようなパンチ力はないけど、僕にはない一本を取る力を有している。パンチやエルボー、キックがタイミング良くヒットすれば、誰だってKOできる。
スコアリングしようが、どんな風に戦うかは個人の自由だけど、僕はいつだって試合を終わらせることを考えているよ。アグレッシブ過ぎると指摘されたこともあるけど、今、ビッグネームとして活躍している選手の多くが、若い頃はキラーであり、フィニッシャーだったはずだ。それが戦う舞台が変わり敗北も経験して、成熟していった。僕は感情をコントロールできるし、フィニッシュを狙わないなら戦う意味はない」
――現在TPFという登竜門大会の王者ですが、次のステップはどう考えていますか。
「ネクストステップを考えるのは、マネージメントの仕事だから、僕は関与していない。ただし、個人的にはファイトスタイルを進歩させたい。真剣にレスリングを強くしたい。打撃を使う比率を下げて、カウンターのテイクダウンを織り交ぜ、対戦相手を惑わせたいんだ。前に出て戦ってばかりいると、カウンターのテイクダウンで倒されることがある。
前に出ながら、カウンターを狙いたい。今、持っている良さを失わないようにして、可能なかぎり幅を広げたいんだ。もちろん、グラウンドゲームだって上達したいよ。ただし、次のステップは手の届きそうな部分を伸ばすこと。僕の右は強い。倒す力を持っている。そのことを知られた上で、右で倒すにはいつ打つのか分からないようにしないといけない。そこの部分を上達させたい。そのためにはレスリングの向上は欠かせないよ」
――なるほど、では戦いを続けていくうえで、最終目標は?
「何て言えばいいのかな……、最低でも一人の人間にベスト・ミックストマーシャルアーティストだったと記憶される存在になりたい。このスポーツにはとんでもない実力の持ち主が、今も存在する。でも、僕は彼らに勝てる。まだ19歳だけど、一部の30歳のファイターと同じぐらいの経験があるし、まだまだ強くなれる時間が残されている。
アンデウソン・シウバ、フランキー・エドガーに敗れる前のBJ・ペン、GSPに僕はなれるはずだ。だからといって今すぐに、そんな舞台に立てるとは思っていない。時間を掛けて鍛えていくよ」