【ONE62】ベン・アスクレン戦後の青木真也─01─「自分にしか出来ない試合が出来た」
【写真】青木本人の発進以外で、ほとんど報じられていないアスクレン戦後の青木の声をインタビューという形でお届けしたい(C)TAKUMI NAKAMURA
11月24日、ONE62でベン・アスクレンに57秒で敗れた青木真也。
夥しい数のイベントと試合数が、毎週のように繰り返されるMMA界にあって未来永劫、記憶に留めておくべき試合は存在する。
9月の試合発表から2カ月半、そしてシンガポールから帰国して2週間の青木が何を想っているのか──中村拓己氏のインタビューにより、お届けしたい。
Text by Takumi Nakamura
――ベン・アスクレンとのONE世界ウェルター級(※83.9キロ)選手権試合を終えた青木選手です。日本に帰国して、改めてアスクレン戦を振り返っていただければと思います。
「今回、こうして取材を受けるのは2件目なんですよ。昔は媒体そのものの数も多かったし、もっと取材を受ける本数も多かったと思うので、日本の(格闘技)業界そのものが落ちているなって感じですよね。
だからこそ僕は自分で執筆して情報を発信して、試合前後に自分が考えていることや試合に対する想いは伝えてきたつもりです。取材がないならないなりに、日本の格闘技業界が落ちているなら落ちているなりに、自分がやれることはできたかなと思います。
試合については単純にアスクレンが強かったです……ちょっと強すぎた(苦笑)。でも彼が強いことは事前に分かっていて、それでも一発勝負で何とかなるんじゃないかと思って試行錯誤して、色んなことを考えて取り組んだ2カ月半だったから、それは何事にも変えられないですよね」
――その試行錯誤とシュミレーションの一つが引き込んで展開を作るということだったのですか。
「そうですね。結果は残念だったけど、それを考える時間が貴重で楽しかったですよ。こういう取り組みはアスクレンが相手じゃなかったら出来ないだろうし、この世界観、このクラスのファイターと試合できるのはもう何回もないでしょう」
――日本では五輪メダリストがMMAに転向するケースが多くて、もしかしたら感覚が麻痺しているかもしれませんが、五輪メダリストクラスの選手と真剣勝負の場で手合わせることは貴重ですよね。
「そんな機会ないですよ、普通は。アスクレンもフリースタイル・レスリングでオリンピックに出ていて、フォークスタイルでもNCAAを2回も獲っている超トップアスリートですからね。それを差し置いても、もう日本にいて海外のああいうファイターと試合をする選手はそういないだろうし、ああいったシチュエーションを作られる舞台はないでしょう。
そこは自分にしか出来ない試合が出来たと思うし、日本にないものをどうこう言ってもしょうがない。誰をくさすわけでもなく、僕自身が日本のマーケットに頼らず、日本の格闘技界に頼らず飯食えているので、誰からも何も言われたくないですね」
――そもそも最初にオファーを受けたのはいつ頃だったのですか。
「9月の最初ですね。チャトリから『アスクレンとやることに興味はあるか?』というメッセージが来て、オフコース!って感じですよね。
もう僕はオファーを受けた時に他人事になっていて『ベン・アスクレンと青木真也が並んでいると画になる』と思うんです。それで返事をしたら、タイトルマッチとしてやってくれるかという話になって、翌日には発表されていました(笑)」
――ということはアスクレン陣営もすんなりとOKだったんですね。
「やっぱりアスクレンも最後は注目されるカードをやりたかったんだと思います。詳しくは分からないですけど、向こうは向こうで青木が良いという話だったんだと思います」
――今回の試合は階級も違う二人の試合ですし、アスクレンの引退試合という形で、個人的には試合そのものよりも青木選手がどう試合に向けて取り組んで、試合が終わって何を感じたかが気になる試合だったんですよ。
「正直、青木真也は去年も今年もMMAで負けていて、辞めた方が良いんじゃないの?って声もありますよ」
――そのような声があるのですか。
「これからのことは考えた方が良いんじゃないの?とも言われました。でも僕はここからが面白いだろって思うんです。そもそもMMAをこれだけ長くやっていたら身体は壊れていくわけで、それは認めないといけない。
その上で今までやってきたことをどう収穫していくか?じゃないですか。魔裟斗みたいに登り詰めたところ、登り切ったところで辞めることも、それはそれでかっこ良いですよ。でもそれでは人間味が出ないし、僕が表現したいことではないです」
――とは言え「これからのことは考えた方がいい」と感じている人がいることも事実で、それはこれからのキャリアで周りに消費&消耗されるような試合は見たくないという意見でもあると思います。
「そこで言うと今の僕は成功なんじゃないですか。もし仮にONEが活動休止になっても、僕は日本の市場に頭を下げる気はないですよ。『ごめんなさい、仕事がないんで僕を使ってください』と言う気はないですから」
<この項、続く>