【Special】月刊、青木真也のこの一番:6月編─その壱─ジョン・タック×五味隆典 「やはり寂しいです」
【写真】腹を効かされた五味は、タックのRNCで下った(C)Zuffa LLC/Getty Images
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ──作業の都合でかなり遅くなってしまいましたが──6月の一戦=その壱は6月17日のUFN111からジョン・タック×五味隆典戦を語らおう。
──6月のMMA、取材の日時を決めるなかで青木選手はいの一番に五味選手の試合を挙げられました。
「試合時間も短かったし……でも、何だろうな……よくやっている感はありますよね。佐藤ルミナ的現象、試合に出ている──動いていることに価値があるというような」
──しかし、五味選手が戦っているのはUFCという場です。しかも、シンガポールでの試合でしたが。
「う~ん、一曲当てた人が歌い続けている。ルミナ選手の入場を見に来るファンがいたように、五味は戦い続けることでファンを惹きつけ続けているんですよ」
──五味選手は一曲ではなく、ベストアルバムを出すだけの功績を残したファイターではあると思います。
「うん、だから僕は五味とは戦うことがあると思ってずっと見ている選手でした。日本でやることに意味のあるカードだという考えでしたから。なので、ずっと気にかけて試合は毎試合チェックしていました」
──日本で戦うかもしれないという気持ちは、今も持っているのですか。
「いや、さすがにもうないですね。一昨年の年末に桜庭(和志)さんと戦った後はひょっとしたらあるかもしれないと思っていましたけど、もう気運的にもないですよね。うん、もうないでしょう……。
戦極時代からもうあの五味ではなくなっていた。でも、どうしても試合のたびに期待が高まる。そういうファイターなんですよ」
──タック戦ですが、五味選手は殺気を纏って戦っていた選手。なので、あの前蹴りのような蹴りが入ってしまって効いたのはショックでした。
「やっぱり2005年前後の彼は凄かった。ただ単に凄いと感じることができる選手だった。だから、あの組むために出している打撃が効いちゃっているのは、寂しいですよね。ジョン・タックは組みたくて、あの蹴りを出していたわけだから」
──タックは寝技にいけば何とかなるという想いで戦い、五味選手はやはり寝技にいきたくない。そこで、あの蹴りが入ってしまうのがまたMMAですね。
「妙ですね。そして、五味は頑固。あれだけ柔術の練習をしなかったのは、本当に凄い」
──まだ日本大会で五味選手の試合はある可能性も残っています。
「UFCと日本人選手の契約は分からないですね。ただ、五味と僕を語るうえで加藤(浩之・元DSE専務)さんはやっぱり外せない。日本の格闘技界において、加藤さんがいて五味ができて、加藤さんがいて青木ができた。
同じ父親から生まれた。同じ血統のなかで、同じような役割を求められていた。そして、五味の方が僕より凄い仕事をやり抜いていた。だから、僕は五味を意識していたので、やはり寂しいです。それでも、ここに至ってもこれからどうしていくのかが気になる選手なんだと思います」