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【Special】月刊、青木真也のこの一番:5月編─その弐─田中半蔵ー×日沖発

Hioki KO'd by Hanzo【写真】格闘幸福論的な要素が強くなってきた青木真也の今月の一番──水と油の日沖発の敗北について(C)KAORI SUGAWARA

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ──作業の都合でかなり遅くなってしまいましたが──5月の一戦=その弐は5月28日のPancrase287から田中半蔵×日沖発戦を語らおう。

同い年、格闘技観は違っても、その強さを追及する姿勢でシンパシーを感じていた日沖はKO負けに青木は何を想ったか。


【同じ仕事をしていると切なさは感じます】

──アンジェラ・リーの知られざるストーリーに続き、青木選手が5月の試合で印象に残った試合は?

「日沖の負けですね。日沖の試合は、気になっていました。格闘技観は違ってもずっと一緒にやってきた世代だし。だからぁ……正直、今回の負けに関しては、こういう試合を戦う必要はなかったんじゃないかって思います。

そう思ってしまうんですよね……どうしても。切なさもあるし、試合前のインタビューとかで絶対に口にはしていないけど、新しくジムを開いて練習なんて、前のようにできていないんだろうなって思ってしまうし。

よしんば練習時間は変わらないとしても、それ以外にやることが増えると、自分の時間のなかで練習に費やす時間は減る。そして、回復が遅れる。疲れちゃっているように見えました──僕には」

──この試合も青木選手にとっては日沖選手がサウスポーに構えて、半蔵選手が左でその顔面を打ち抜いたということが焦点にはならないのですね。

「う~ん、何か日沖らしいですよ。田中半蔵に負けても、田中半蔵が日沖のやってきたこと引き継いでやっていくとは思えないし、引き継ぐ必要も彼にはない。でも、業界には日沖のようなファイターが必要で。

彼は興行やイベントを全く背負うことなく、勝ち上がることでこれまでの地位を築いてきた。それが、あの場でああいう負け方をしてしまうと、彼のやってきたことが何の意味もないように消費されてしまっているように映って……切ないです。

でも、それがまた日沖発というMMAファイターらしくて。言い方は悪いけど、僕にとって日沖発は強い人、強いだけの人だったので」

──青木選手が今、イヴォルブMMAの仲間に囲まれてチームでいることに感謝しているように、日沖選手の強さの裏にはALIVE、そしてstArtとの仲間たちとの日々が存在しています。

「それをいうと、きっとデビューの頃からそういう感じで戦ってきているので、幸せ度……幸福感は高いんでしょうね。小さくても自分のコミュニティを持っているので」

──ディファ有明という東京の会場に、名古屋のALIVEの会員さん達がstArtのTシャツを着て、あれだけの人数がいる。それが日沖発という人が歩んできた人生、そしてこれまで結果を残せてきた要因かと自分は感じました。以前はなぜ、東京に出てこないのか、海外のジムに所属すれば良いのにと思っていたのですが……。

「それが日沖の幸福度の高さ。そういうのも含めて、彼の現役生活。そして、この敗北が節目になる。でも、頭が良い人だからちゃんと考えていますよ。刹那的になることなく。

勝ち負けでない……自分とは違う生き方だし、それはそれで良いと本当に思う一方で、ファイターという同じ仕事をしていると切なさは感じます。

でも、日沖は格闘技をやって良かったと思えるように生きていく力を十分に備えている。だから、僕に対して『お前なんかにそんなこと語れる必要ない。大きなお世話だ』って思えるし。口には出さなくても(笑)。

だから心配とか、僕も言える立場にないですし、とにかく気になる試合だったんです」

──半蔵選手が日沖に勝ったファイターだということで、フィーチャーされることが、MMAが普通に成長していくことだと思います。

「MMAファイターとしては、あのハーバート(エウベウ・バーンズ)と3Rやったのを見て、あの時からコイツは強ぇなあって思っていたので。

逆にガタイの強い田中半蔵を相手にあの試合をしたハーバートはやっぱり強いんだって感じましたからね」

ロータスのプロ練習を終え、帰り支度をしていた北岡悟 あれは衝撃だったなぁ。あの選手のこと知らなかったから、こんなに強いのかって。半蔵選手は一緒に練習していて、その強さを知っていたから。バーンズは衝撃的でした。

「でしょ? 田中半蔵に関しては、日沖に勝ったことを自分の力に変えていけるのか。そこを期待して良いのかどうか……ですね」

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