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【UFC207】ドミニク・クルーズ×コディー・ガーブラント。誰も真似できないドミニク、進化の軌跡(憶測)

dominick-cruz【写真】手足に小脳が存在し、全てが連動しているかのようなドミニク・クルーズ。その動きは誰も真似ることができない(C)MMAPLANET

30日(金・現地時間)、ネヴァダ州ラスベガスのTモバイル・アリーナで開催されるUFC 207「Nunes vs Rousey」。同大会ではアマンダ・ヌネス×ロンダ・ラウジーのUFC女子世界バンタム級の前にドミニク・クルーズ×コディー・ガーブラントの世界バンタム級選手権試合が組まれている。


度重なるヒザの手術、その他の負傷もあってタイトル返上こそ経験しているが、ドミニクは過去9年9カ月に渡り敗北を経験していない。一方、挑戦者のガーブラントは2012年12月の21歳でプロMMAデビューし、4年で世界の頂点に挑むことになる。レスリング、ボクシングに続き18歳でMMAのトレーニングを始めた彼が、プロとして戦うようになった時点でドミニクは負傷欠場期間に入っていた。

この間に台頭したTJ・ディラショーを今年の1月に下し、世界の頂点に返り咲いたドミニクは、6月にユライア・ファイバーを破り、WEC時代から数えると7度、世界戦で勝利している。

シャッフルと呼ばれるようになった左右の構えを頻繁に変え、小刻みにステップを踏みつつ、大きく踏み込み、スッと離れるドミニク独特の動き。自らの攻撃を散らし、対戦相手を混乱させてテイクダウンに持ち込む彼のスタイルは、多くのファイター、指導者が研究し、『真似ができない』という結論に至る。

もちろん、誰もがドミニクの真似をする必要はないし、修得する必要もない。ただし、あの相手の攻撃を被弾しないスタイルを研究しない手はない。その一方で、今のドミニクの戦いぶりだけを見ても、『なぜ?』が増えるに過ぎないだろう。まるで左右の手足に小脳が存在し、個々が相手の動きを頭部の脳に伝達するかのような2017年のドミニク・クルーズのMMAは、2005年から積み重ねてきた進化の結晶だ。

アライアンスMMAのオーナーでドミニク・スタイルを二人三脚で構築してきたエリック・デルフィエロがプロモートに関わっていたトータル・コンバットからWECにステップアップを果たした頃から、ドミニクは独特なスタイルの持ち主だった。現在のような左右混在ではないが、前足の左右は問わない。そして、大振りのような左右のパンチを前進しながら打ち込んでいく。当時はその後のWEC&UFC初期と比較すると蹴りも多用していた。

その後、さらに左右の入れ替えが激しくなり、左右両方の拳とヒザ、そして蹴りにテイクダウン狙いとどこからでも攻撃を出すようになる。WEC世界バンタム級王座をジョセフ・ベナビデスと争う頃には、相手を追い詰めるだけでなく、脇をすり抜けるような動きや、見せパンチの数が増え、最終的にテイクダウンに結び付けてポイントメイク。同時に相手の攻撃を受けるシーンが極端に減っていった。

WECがUFCに吸収されたからは、ドミニク&デメトリウス・ジョンソンを破る負傷前まで、正常進化しより速く、相手を惑わすようになった。その後、水垣偉弥戦を挟んでディラショー、3度目のユライアとの対戦時まで、試合数こそ極端に少ないもののドミニクはさらなる進化を見せつけた。

以前のような見せパンチが減り、軸足の変化はより通常化、さらに近い距離で戦いつつも、極端に肩を入れ、体を傾けることで全くパンチを被弾しなくなった。

思うにパンチを当てに行っていた時代から、見せパンチ&より大きなステップインを繰り返していた時代にかけて、ドミニクは拳がアンテナとなり、自分の距離と相手の距離を頭にインプットするセンサーの役割をしていたように思える。

そして、この頃の実戦経験やトレーニングにより、今のドミニクはさほどアンテナを張ることなく、相手のパンチが届く境界線が分かるようになったのではないだろうか。

加えて、自分の攻撃が当たり、相手の攻撃を被弾する距離になると、絶対的に正面を向かない。ただし、その直前まで頭も視線も対戦相手を捉えているので、そのまま前に出てくると誰もが誤解する。

前述したように肩を入れ、体を倒した状態で相手のパンチを空を切るが、ドミニクはそのパンチを振るう相手の位置を把握し、無理に映るような態勢からパンチを打ち出す。顔も上げないケースまであるので、対戦相手には打ち始めが見えない。ドミニクの動きを確認できた時には、パンチを当てられ、さらにテイクダウンの態勢に入られている。

「KOすると言っている時点で、もうそいつは敗北が始まっている」と言うドミニクの言葉の真意。倒しにくるからこそ、ドミニクは経験で身につけた絶妙のセンサーが働き始め、制空権を創り上げ、目視で確認した時には自身の拳や足は対戦相手を捉えている。

これこそが、ドミニク・クルーズのスイッチ、ステップを超えたMMAだ。日進月歩のMMA界誰もが進化しているが、誰もドミニクの前はできない。常にその一歩先を進んでいるドミニクに対し、ガーブランドの強味は一体どこになるだろうか。

<この項、続く

■UFC207対戦カード

<UFC世界女子バンタム級選手権試合/5分5R>
[王者] アマンダ・ヌネス(ブラジル)
[挑戦者] ロンダ・ラウジー(米国/1位)

<UFC世界バンタム級選手権試合/5分5R>
[王者] ドミニク・クルーズ(米国)
[挑戦者] コディー・ガーブラント(米国/5位)

<ヘビー級/5分3R>
ファブリシオ・ヴェウドゥム(ブラジル/1位)
ケイン・ヴェラスケス(米国/2位)

<バンタム級/5分3R>
TJ・ディラショー(米国/1位)
ジョン・リネケル(ブラジル/2位)

<ウェルター級/5分3R>
ジョニー・ヘンドリックス(米国/6位)
ニール・マグニ―(米国/8位)

<ウェルター級/5分3R>
キム・ドンヒョン(韓国/9位)
タレック・サフィジーヌ(ベルギー/12位)

<ウェルター級/5分3R>
マイク・パイル(米国)
アレックス・ガルシア(カナダ)

<フライ級/5分3R>
ルイス・スモルカ(米国/12位)
レイ・ボーグ(米国/13位)

<ウェルター級/5分3R>
ティム・ミーンズ(米国)
アレックス・オリヴェイラ(ブラジル)

<ミドル級/5分3R>
アントニオ・カーロス・ジュニオール(ブラジル)
マーヴィン・ヴェットーリ(イタリア)

<ウェルター級/5分3R>
ブランドン・ザッチ(米国)
ニコ・プライス(米国)

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