【UFN34】菊野克紀 「強くなるために求めてきたものと出会えた」
【写真】なぜ倒すことができるのか。現代MMAや現代スポーツ競技の論点で探っても、答がでない強さを菊野克紀は持っている (C)MMAPLANET
来年1月4日(土・現地時間)、シンガポールのマリナベイ・サンズで開催されるUFC Fight Night34「Ellenberger vs Saffiedine」でクイーン・マルハーンと対戦することが決まった菊野克紀。
リョート・マチダ、グンナー・ネルソン、ライアン・ジモー、スティーブン・トンプソン、そして堀口恭司など空手をベースに置くファイターが存在感を増している。なかでも武道性という部分と実績で際立っているのがリョートであることは間違いない。そのリョートのMMAは理合いとタイミング、対して菊野の空手は重心移動。同じ空手ベースでも、誰も見せたことない戦いを実践する菊野にUFCで戦う理由、その理を尋ねた。
──凄く不躾な質問を最初にさせていただけますか。
「ハイ(笑)」
──私のなかで菊野選手がUFCで戦うという方向性を持っているとは、ずっと思えていなかったです。それは菊野選手は自己完結系、自己満足を求める格闘家だと感じていたからです。対してUFCは究極の対人スポーツ、みもふたもない勝敗の世界です。そこに武道的な浪漫は感じられない実社会。いつ頃からUFCで戦おうという気持ちが芽生えてきたのですか。
「UFCという舞台が世界で一番という認識が、世界でされるようになってから、UFCで戦いたいと思うようになっていました。僕はもともと強くなりたくて格闘技を始めました。そして、今も強くなりたくて格闘技を続けています。凄くシンプルなモノです。やるからには一番になりたいという気持ちを持ち続けています。
その一番という部分が以前はPRIDEであり、DREAMであった。それが今、現時点ではUFCになったということなんです。今、恐らくは世界で一番なのがUFCなのでUFCへ行くというだけのことなんです」
──格闘技にはコンペティションで勝つ強さ、格闘家自身が強くなる強さがあると思っています。そしてUFCで勝つには、UFCで勝つという部分での強さが求められます。UFCで強いファイターはUFCで強い。その部分、人間として強さを求めているように見える菊野選手は、どのように気持ちに折り合いを見つけているのでしょうか。
「まさにそういうことだと思うんです。UFCのチャンピオンはUFCのチャンピオンであって、世界で一番強い可能性はありますが、断言できるモノではないと思っています。それは全ての競技に当てはまることです。僕が欲している強さ、強くなりたいという想いは、ご察しの通りルールの外での部分でもあります。大切な人を守ることができる強さ、そういう強さへの憧れを持ち続けています。ただし、その強さは永久に証明できることができない強さです」
──そのような強さが発揮される場面がないほうが、人生にとって良いわけですからね。
「自分が死ぬ勇気もないし、殺す勇気もないです。一生ついてまわる怪我をしてまで、それを証明したいかというとそういうことでもない。いざとなったらやる――という気持ちを持ちつつ、そんな状況は来ない方がいい。そういう強さへの憧れを体現する場、強さを証明するにあたって限りなくストレスなく試すことができる場所、それがUFCです。
もの凄くレベルが高く、見返りも大きいところがUFCなので、自分の中でも納得がいくんです。打撃だけ、寝技だけでは僕はストレスが溜まってしまいます。『投げれば勝てるのに』だとか、『殴れば勝てる』という言い訳が格闘技にはつきものです。総合格闘技は制約が少なく、そういう言い訳が少なくなる。もちろん、それでも制約は存在しているのですが、一番ストレスが少ないルールが総合格闘技です。その総合格闘技で一番の場所がUFCなので戦ってみたいんです」
──身を守ることと、相手を制圧することはまた別次元でもあると思います。そして、今のMMAやUFCはどんどんと派手に相手を制圧する方向に向かっています。
「身を守ることと、相手を制圧するということを同時に求めると矛盾が生じるケースもありますが、競技の目的は勝つことだと思います。色々な価値観があるでしょうが、競技に出るからには勝つためにベストを尽くすことです。勝ち方云々というのは、それぞれの価値観に基づきますが、競技は勝つためにやるモノだと思います」
──強さを求めて、日々鍛錬してきたものを競技でぶつけるということですか。
「はい、そうです」
──その最高峰の舞台がUFCであると。いつから、本格的にUFC出場に向けてコンタクトを取り出していたのですか。自信がなければ、それもできないですよね。
「正直、オファーを頂いた時点ではまだ先かなと思っていました。出るのが目標ではなくて、出て、勝って、勝って、勝って、チャンピオンになることが目的なので。半端な力で出場だけ果たして、すぐにリリースされることは避けたいですから。自分がピークであれば、すぐにでも出てみたかったのですが、まだピークではないです」
──これからもっと強くなれると。
「幸い沖縄拳法に出会い、まだまだ強くなれる自分がいるので、もう少し後の方が良いかと思っていました。そんななか、最近は自分が勝ち続けたこととUFCのアジア戦略なんですかね、その辺りが相まってオファーを頂いて、来年の1月4日には……1月4日の試合には勝てる力を身に付けることができるという自信があったので、受けさせてもらうことにしました」
──菊野選手とワールドクラスMMAとのスケールとなる試合はエディ・アルバレス戦であったり、弘中邦佳戦、そして北岡悟戦になると思います。アルバレスと戦った当時と比較して、沖縄拳法の稽古をするようになったことで、強くなっているという実感はありますか。
「アルバレスと戦った時と比較して、僕のレスリング能力が上ったかといえば、恐らくそういうことはないです。ただし、当時と全然違うのは武器ができたということです。正直、UFCのトップ選手と戦ううえで、どれだけレスリングや柔術、ボクシングの能力を高めても、彼らに勝てるイメージは湧いてこないです。
彼らは僕よりも体が強くて、もちろん技術もあってメンタルも強くて賢いです。そういう彼らと同じことをやって争っても、勝つイメージが湧かなかったです。ある程度やれるかもしれないけど、一番になれる気はしない。だから僕は彼らとは違う部分で、彼らに優る部分を身に付けないといけなくて。それをずうっと探していたんです。
ずうっと、ずうっと、ずうっと探してきて、ようやく出会えたものが沖縄拳法空手だったんです」