【ADCC2013】66kg級。執念のコブリーニャ、ハファを下し初優勝
19-20日(金~土・現地時間)、中国の北京でアブダビコンバットクラブ(ADCC)主催の世界サブミッション選手権が開催された。2年に1度、世界最高峰の組業師たちを集めて行われるこの大会。その大会レポート、まずは66キロの戦いからお届けしたい。
日本人選手も3名参加した66キロ以下級は、決勝で優勝候補大本命のハファエル・メンデスと、コブリーニャことフーベンス・シャーレスの宿命のライバル対決が実現。この数年メンデスの後塵を拝し続けてきたコブリーニャが、悲願の打倒メンデスと初優勝を果たした。
【66キロ以下級】
優勝 フーベン・シャーレス(ブラジル)
準優勝 ハファエル・メンデス(ブラジル)
3 位 ジャスティン・レイダー(米国)
三連覇を狙う絶対的な優勝候補、ハファエル・メンデスは今回も圧倒的な強さで勝ち進んだ。1回戦で日本の吉岡崇人と対戦したメンデスは、吉岡がシッティングガードを取ると、左右に揺さぶった後に脇を差してあっさりクロスニーパスを決める。さらに上四方の体勢から両足を三角に組んで吉岡の首と左腕を固めたメンデスは、孤立した吉岡の右腕をキムラロックに極めて圧勝した。
メンデスは2回戦、再び日本から参加した徹肌ィ郎(この9月より羽田徹ィ郎とリングネームを改名)こと鈴木徹と対戦。07年の大会で4位優勝している鈴木は、1回戦でフィンランドのティモ・ヒルヴィカンガスと戦い、互いに体勢を入れ替えサブミッションを狙い合う攻防の中、バックを取られたところからのキムラロックや、小内刈りでテイクダウンを奪ってポイント勝利している。
開始早々、アームドラッグで鈴木の体勢を崩すと、襲いかかるように背後を取りに行ったメンデス。逃げる鈴木をグラウンドに持ち込むと強烈なプレッシャーをかけてマウント奪取し、さらにバックを奪って四の字ロックを完成し、完全に鈴木の動きを止めてしまった。ここからのチョーク狙いを鈴木が辛抱強くディフェンスすると、メンデスは腕狙いに移行。たちまち鈴木の腕を伸ばして準決勝進出を決めた。
別ブロックでは、兄レオジーニョとともに柔術界のレジェンドであるヒカジーニョことヒカルド・ヴィエイラと、注目の若手ジョアオ・ミヤオが順調に勝ち上がる。ヒカジーニョは1回戦、前修斗環太平洋フェザー級王者(現在は返上)の佐々木憂流迦こと佐々木佑太と対戦。ポイントの合図と同時にテイクダウンを仕掛けた佐々木を、たちまちギロチンで捕獲し絞め落とし強さを見せつけた。
<準々決勝>
ジョアオ・ミヤオ
Def. by 内ヒール
ヒカルド・ヴィエイラ
いつものようにシッティングガードで相手に迫り、ベリンボロ等の攻撃を仕掛けて行くミヤオ。ヒカジーニョも凌いではダイビングしてのパスなどを仕掛けてゆくものの、ミヤオはそれを防いでは座ったまま前進。ヒカジーニョが下がって距離を取る場面が増えてゆく。
やがて、通常のベリンボロやリバースベリンボロ(スパイラル・ガード)とは逆の足を抱えて内側に回転したミヤオは、ヒカジーニョを前方に崩してスイープする。そのままヒカルドの左足を捉えて内ヒール一閃! 大舞台にてレジェンドから一本勝ちを収めた。かつて、兄レオジーニョと並んでダイナミックな動きで柔術界に新風を巻き起こしたヒカジーニョを、ベリンボロ等下からの最新技術を駆使して倒したミヤオ。柔術、グラップリング界における技術革新を象徴した一戦だった。
トーナメントもう一方の山を順当に勝ち上がったのは、ここ2大会ハファの後塵を拝しているコブリーニャと、米国ロバト柔術所属のジャスティン・レイダーだった。レイダーは1回戦で今年ムンジアル王者のタンキーニョことアウグスト・メンデスと対戦。レスリング力で勝るレイダーは、タンキーニョの下からの仕掛けを切り続けて失点を回避し、下になったタンキーニョのマイナスポイントによる優勢勝ちという番狂わせを演じて見せた。
<準決勝>
ハファエル・メンデス
Def. 2-0
ジョアオ・ミヤオ
いわゆるモダン柔術(ベリンボロ、50/50、レッグドラッグ・パスなどの技を多用する風潮)新旧対決とでも言うべきこの対戦。ミヤオはいつものようにシッティングガードからベリンボロ等を仕掛けてゆくが、さすがにメンデスはミヤオになかなか足のフックを許さず、逆に両足担ぎでパスを狙う。しかしミヤオは柔軟な身体を活かして体勢を戻す。
得点が入る時間帯になると、すかさずテイクダウンでポイントを奪ったメンデス。ミヤオは下から50/50を狙うが、ハファはそれも潰す。しかし、ミヤオも最後までメンデスにパスを許さず、結局2-0でメンデスの勝利。パスガードをめぐる攻防における技術において決して劣ることのなかったミヤオだが、メンデスがフィジカルとレスリング力の差を見せた形となった。
<準決勝>
フーベン・シャーレス
Def. 2-0
ジャスティン・レイダー
レイダーのレスリングを警戒してか、シッティングガードを取ったコブリーニャはそこから足を絡めてヒール狙い。レイダーが逃げようとしたところを捕獲し、膝固めの形をキープしたまま上を奪う。レイダーは膝のフックこそ抜いたものの、コブリーニャのパスから逃れようとしたところでバックを奪われてしまう。ここでレイダーは腰を上げてコブリーニャを前に落とし、強靭なフィジカルを見せつけた。
しかし、コブリーニャは再びヒールから膝固めにつないで上を取る。これまた逃れたレイダーだが、コブリーニャは代名詞的な大後方回転スイープまで炸裂させ試合をコントロール。終始強さを見せつけて決勝進出を果たした。
<3位決定戦>
ジャスティン・レイダー
Def. マイナスポイント2
ジョアオ・ミヤオ
いつものように座り込んだミヤオは、どんどん前進して回転系の技を仕掛けてゆく。対して下がって距離を取り、また凌いで距離を取ることを繰り返すレイダー。ミヤオは外回りベリンボロからレイダーのバックに付くが、準決勝でコブリーニャのバックグラブをも振り落としたレイダーは、ミヤオも前に落としてみせる。悔しがるミヤオ。
加点時間帯になっても、迷わずマイナスポイントを犠牲にして座って前進するミヤオ。ベリンボロから足関節を狙うがレイダーは逃げ、再びバックを奪いかけるがレイダーに振り落とされる。試合の大部分においてディフェンスとエスケープを余儀なくされているレイダーだが、ときおり豪快にダイビングしてのチョーク狙いなどを見せた。が、終盤はマイナスポイントを取られているミヤオが座ったまま前進し続け、レイダーがひたすら逃げて凌ぐ展開が続き、タイムアップ。3位入賞が決定したレイダーは咆哮した。
終始攻め続けたミヤオが、試合の大部分を後退と防御とエスケープに費やしたレイダーに敗戦――。自ら座った選手には自動的にマイナスポイントが付くが、以前は露骨に逃げている選手にはペナルティが与えられたが……、寝技に付き合わないレイダーにはマイナスは付かなかった。またテイクダウン、スイープ、バックなどを取りかけた選手に一切のアドバンテージは与えられないというADCCルールの問題点が浮き彫りになった一戦だった。
<決勝戦>
フーベン・シャーレス
Def. レフェリー判定
ハファエル・メンデス
実に3大会連続となる両者の対戦。ここ数年、ギあり、ノーギ合わせてメンデスに7連敗中のコブリーニャとしては、なんとしても雪辱を果たしたいところ。序盤は延々と立ち技の攻防が続く。両者ともに上を譲る気は全くないようだ。特にコブリーニャの気迫は凄まじく、延長戦に入ってからメンデスのバランスを崩すことに成功すると、そのまま場外、さらに隣のマットまでメンデスを追いかけてテイクダウンに成功!
しかし、下になったメンデスは瞬時に50/50の体勢を作ると、立ち上がって上下をひっくり返しすぐに同点に追いついてみせた。試合がスタンドに戻ると、コブリーニャはメンデスの片足を取ってテイクダウンも、メンデスがすぐに立つ。さらにコブリーニャが組みついてメンデスのバランスを崩すと、メンデスは飛び込むように前転しながらコブリーニャの足に自らの足を絡めて50/50に。テイクダウンポイントが付かないなか、メンデスはゆっくりとコブリーニャの股間に頭を入れてゆき、必殺のバック狙い。コブリーニャもメンデスの片足を抱え込んでそれを許さない。やがて体勢が50/50に戻ると、コブリーニャはメンデスの足を解くことに成功。するとメンデスは下からXガードのような形でコブリーニャを煽り、またしてもバックを狙うが、コブリーニャは凌ぎ切って離れる。
力の入ったグラウンドから、スタンドに戻った2人が、テイクダウンを狙い合う中で2度目の延長戦が終了。スコアは2-2の同点のままだ。すかさず両手を上げて勝利をアピールするメンデスと、それに続くコブリーニャ。レフェリーの判定はコブリーニャに。
スタンドの攻防で明確に上回り、なぜポイントが付かなかったのか不可解なテイクダウンも奪ったのだから妥当な判定と言えるだろう。2009年、2011年と決勝でメンデスに敗れたコブリーニャは、意外なことにこれがADCC初戴冠。歓喜にむせび、さらにカポエラのパフォーマンスを披露して喜びを全身で表現するコブリーニャの姿は、今大会もっとも印象的なシーン、ハイライトとなった。