【a DECADE 10】10年ひと昔、2003年10月10日 ROTR04
【写真】攻め込まれ続けた五味。ここまで圧倒される五味は、後にも先にもこの一戦以外で見たことはない。
MMAPLANET執筆陣の高島学が、デジカメにカメラを変更し取材するようになってから10年が過ぎた。そこでMMAPLANETでは、10年周期ということで高島が実際に足を運んだ大会を振り返るコラムを掲載することとなった。a DECADE、第10回は、10年前の10月10日。ハワイはホノルルのブレイスデール・アリーナで行われたRumble on the Rock 04を振り返りたい。
Text & Photo by Manabu Takashima
BJ・ペン×五味隆典は、何の団体名もイベント名もつかない、ただ世界ライト級選手権試合と銘打たれて行われた。イベント名=ROTRの名称もつかない、ただワールド・チャンピオンシップを戦う日・米無冠の帝王。この1年11ヵ月前に修斗ウェルター級(=70キロ)世界王者になった五味は、次の目標をUFCに据えていた。いや、正確にはBJ戦をターゲットにしていたといっても良いだろう。非ブラジル人として初めてブラジリアン柔術世界大会の黒帯の部で優勝を果たした彼は、MMAデビュー戦をUFCで飾ると、打撃でもその天才ぶりを如何なく発揮、誰もがすぐにUFCライト級の頂点に立つモノと思われていた。
しかし、2002年1月にジェンス・パルバーの王座に挑んだBJは、ベルト奪取に失敗。それでも、五味にとってBJは倒すべき強さの象徴だったように感じられた。だが、宇野を即・世界王座に挑戦させ、佐藤ルミナにラブコールを送り、須藤元気をロンドン&フロリダ大会で登用したズッファは、五味にはオファーを掛けなかった。当時、彼らが求める日本人ファイターはボクシング+テイクダウン&パウンドの五味ではなく、サブミッション・アーチストだったからだ。モチベーションが試合のデキに大きく左右する五味は、UFC参戦が実現しないまま修斗のリングで勝利を重ね続けたが、ついにこの2カ月前にヨアキム・ハンセンに判定で敗れ修斗王座を失った。プロMMA14戦目で初黒星を喫した五味、一方でBJもまた、UFCのライト級ファイターへの待遇に不満を募らせるようになり、閉塞感のなかで次なるステージを模索していた。
結果、両者はハワイで雌雄を決することとなった。前述したように両者揃って無冠だ。それでも、五味もBJも強さ&怖さという部分で、これ以上ない信頼感を持ち続けていた。UFCでも修斗でもない、BJと五味が戦うからこそ、勝者は世界一の称号を名乗ることができる――戦いだった。ただし、この一戦を能動的に欲したのはBJ陣営。ROTR自体が、BJの兄JD・ペンが主宰する大会だ。五味のホテルは3人同部屋、練習場所も確保されていなかった。そして、BJが打撃の練習を行うジムからジャッジが派遣されていた。本当の意味でアウェイ決戦だというのに、五味陣営は少し呑気過ぎた。いや、五味の強さに純粋に自信を持ち過ぎていたのだろう。
【写真】フィニッシュはリアネイキドチョーク、五味の右腕がBJの体を叩いた。
初めてのケージ、初めてのヒジ有りの試合。五味はダウンカウントがないことも斟酌せず、計量の日を迎えていた。どんなルールでも、真っ向からやり合って勝てるという揺らぎない自信を持っていたのだろう。結果、試合は序盤からバックを奪われ、打撃戦でも圧倒されると、スタンドでも大振りばかりが目立つようになり、3RにRNCで一本負けを喫することとなった。テイクダウンを簡単に取られる五味、打ち負ける五味、バックからヒジを撃ち落とされる五味、全てが初めて目にするシーンばかりだった。
これ以上ない完敗。この試合の2週間前に宇野薫がUFCとの契約が切れ、日本に戻ることとなっていた。その後、UFCはライト級の活動を一旦、打ち切ることとなり、BJがコーチ役となった2007年のTUFシーズン5まで長い休息に入る。ハワイでBJのジャブ、レスリングと柔術が融合したグラップリングに敗れた五味は、あの時点で現代MMAの入り口を垣間見ていたが、その後はご存じのように、この敗戦から学んだ部分を補う稽古など必要ない、4年間の王道を歩むことになる。
【写真】ゲストとしてケージに上がったダナ・ホワイト、相当若い。
BJもヘビー級挑戦など彷徨える武道家振りを発揮しながら、PRIDEには上がることなく、2005年末にUFC復帰を決意。五味はPRIDE活動停止後、戦極を経てようやく2010年3月にオクタゴンに足を踏み入れた。当時BJはライト級チャンピオンだったが、五味には北米MMAにアジャストする時間が必要で、その間、BJは王座を失うこととなった。ウェルター級転向に失敗し、ダナ・ホワイトから引退勧告を受けていたBJだが、TUFシーズン19のコーチに就任することが決定している。フェザー級でフランキー・エドガーと3度目の試合を行うBJと、拳の負傷が原因で半年以上ケージを離れている五味。どうやら、2人のレジェンドはオクタゴンではすれ違いに終わりそうだ。
BJ×五味から10年――、義妹の結婚式をドタキャンしハワイ取材を敢行してから、10年。やっぱり、五味にもBJにもこのままでは終わって欲しくない。そんな気持ちでいっぱいになる。
【写真】無名だったギルバート・メレンデスが、当時のフェザー級トップファイター、ステファン・ボーゾー・パーリングをマウントからのパウンド&エルボーで破った。
■2003年10月10日Rumble on the Rock 04@ ブレイスデール・アリーナ、ホノルル:ハワイ州 試合結果
<71キロ契約/5分5R>
BJ・ペン(米国)
Def.3R2分35 秒by RNC
五味隆典(日本)
<ライト級/5分3R>
デニス・ホールマン(米国)
Def. 1R0分43秒by ギロチンチョーク
レイ・クーパー(米国)
<ヘビー級/5分3R>
ポール・ブエンテーロ(米国)
Def.1 R2分09秒by KO
アンディ・モンタナ(米国)
<ウェルター級/5分3R>
ヘナート・ベリーシモ(ブラジル)
Def.2R終了時by TKO
ギル・カスティーリョ(米国)
<ウェルター級5分3R>
ロナルド・ジューン(米国)
Def. 2R3分05秒by TKO
シェーン・テイラー(米国)
<フェザー級/5分3R>
ギルバート・メレンデス(米国)
Def.2R4分59秒by TKO
ステファン・パーリング(米国)
<ウェルター級/5分3R>
ロス・エヴァネス(米国)
Def.2R終了時by TKO
ガブリエル・カシージャス(米国)
<ライト級5分3R>
サンチノ・デフランコ(米国)
Def. 1R4分35秒by DQ
ディジャーン・ジョンソン(米国)
<バンタム級/5分3R>
アントニオ・バヌエロス(米国)
Def.3R2分39秒by TKO
ヨビー・ソン(米国)