【on this day in】10月14日──2006年
【写真】ここまでの流血をケージやリングサイドで見たことは、これ以前もこれ以降もない(C)MMAPLANET
UFC64
@ネヴァダ州ラスベガス、マンダレイベイ・イベンツセンター
「何度か、いや何度も振り返っている試合だけど、懲りずに書かせてもらう。『血ってこんな匂いがするんや』と思った瞬間、経験したことのない異臭にむせ返りそうになった。上にある写真、ショーン・シャークの左上に赤い丸が写っているのが確認できると思う。そうカメラのレンズに付着した血しぶきだ。知ってのようにオクタゴンの周囲にあるランドガールやTVクルーが移動するスペースは決して狭くない。90ミリぐらいのレンズなら常にケージがうるさく入ってくるので、200ミリの望遠を使って反対側で戦う選手にフォーカスし、金網を消すのがケージサイドでの撮影・常套手段だ。それだけの距離を飛び越えて、何度も血しぶきが飛んできた。レンズだけでなく、メガネ、髪の毛、服にも赤い染みがつく。なんて細かいことが気にならなかったのは、ガードからのエルボーでこの大流血劇を巻き起こしたケニー・フロリアンのファイティングショーツが白から真っ赤に完全に染まってしまっていたからだ。UFCのPPV大会は流血の放送コードがないのか、出血で試合が止まることはない。そして、レフェリーも視界を遮っていないかだけをチェックして、ファイトは続行されるのが基本。にしても、なかったこの量は。よくシャークは5Rも戦い、勝負どころで豪快なリフトアップからテイクダウンを決めていたと思う。ケン・フロのガードからの仕掛けは血で滑るけど、シャークはしっかりとボディコントロールした。これ、今なら柔術とフォースタイル・レスリングの違い──なんて書いていたかも。そして……、本当の衝撃は試合後の会見で起こった。敗者ケン・フロが『いつ、僕はショーツを履き替えたか覚えていない』と笑顔がジョークを言ってのけた。ちょっと意味は違うかもしれないけど、どんなレベル、領域でこの人たちは戦っているのか。『敵わない』という感情が芽生えてしまった。そんな9年目の夜、実はMMAPLANETを始めるきっかけとなる人物と一瞬、僕の人生がクロスした非常に大切な日でもある……」
on this day in──記者生活20年を終えた当サイト主管・髙島学がいわゆる、今日、何が起こったのか的に過去を振り返るコラム。自ら足を運んだ取材、アンカーとして執筆したレポートから思い出のワンシーンを抜粋してお届けします。