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【ADCC2015】堀内勇・特別寄稿、スラムで負けたジェフ・グローバーに寄せて

Jeff Glover【写真】ジオとの戦う前にも、らしく動きを見せていたジェフ・グローバー(C)GLEIDSON VENGA

8月29日(土・現地時間)と30日(日・同)の両日、ブラジル・サンパウロのジナーシオ・マウロ・ピンヘイロにてアブダビコンバットクラブ(ADCC)主催の、世界サブミッション選手権が行われた。66キロ以下級の準々決勝でジオ・マルチネスに屈したジェフ・グローバーを青帯の頃から見続けてきた堀内勇氏。自らもカリフォルニアに10数年に渡り滞在し、彼の地で柔術黒帯を巻いた氏は、ジェフ・グローバー&ビル・クーパーのパラゴン勢の活躍を誰よりも先んじて日本に伝えてくれた。まだティーンエイジャーだったグローバーがスラムで負けた試合を知る堀内氏が、今回のADCCの彼の敗北に際し、万感の想いを綴ってくれた。

叩き付けられると分かっていてほぼ無策のままやられてしまったグローバー。思えば今を遡ること12年前の2003年、驚異の十代青帯としてグローバーが脚光を浴びるきっかけとなった第1回国際グレイシー・オープン大会でも、同様のシーンが見られた。

ホリオン・グレイシーによって主宰され、一本か12ポイントの差が付くまで試合続行、スラムOKというこの大会にて、秒殺を重ねて勝ち上がった童顔のグローバーは、階級別決勝でやはり当時頭角を現し始めた青帯のナム・ファンと対戦。1分も掛からずにバックを奪ってのチョークで完勝して、観衆を驚かせた。

さらにグローバーは、一階級上の優勝者にしてマチャド柔術のデニス・アッシュとの特別試合に臨んだ。同時期、日本からカリフォルニアに修行に来た花井岳文を激闘の末下すなど、当時マチャド柔術最注目選手だったアッシュのパワフルな攻撃に、3周り程小さいグローバーが技術で対抗。両者一歩も譲らぬ攻防が延々と続いたこの試合は、青帯同士にもかかわらず、トーナメントのどの試合よりも観客を魅了したのだった。そして40分程経過した頃、グローバーはついにアッシュを三角絞めに捕らえることに成功する。

ここで勝負あったかと思われたが、グローバーを高々と持ち上げたアッシュは、この大会ルールならではのスラム一閃!! 華奢な少年が頭から叩き付けられた衝撃に観客席が静まり返るなか、動けなくなったグローバーからパスを奪ったアッシュが勝利した。敗れたグローバーだったが、南カリフォルニアのグラップリング界はこの日、その技の見事さと、問答無用で見る者を惹き付けるスター性を発見したのだった。

まもなく彼は盟友ビル・クーパーとともにシーンを席巻し、その活躍は日本でも伝えられるようになった。

あれから12年後、叩き付けられることが明らかな状況にて、またしてもスラムでやられたグローバーには呆れてしまいたくもなる。が、この姿にこそ、この天才の柔術の本質が見て取れるのだろう。スラムに対処できないことを嘆くという発想は「柔術=護身術」という前提があるが故のもの。しかしグローバーの柔術においては、そもそも「護身」というもの理念がほとんど重要性を持っていない。相手に尻を向けさらに三点倒立までしてみせるなど、護身を考えたら言語道断な戦い方だ。

そしてそれは、護身を捨てて競技での勝ちに徹するベリンボロ等のモダン柔術の発想とも違う。勝敗を争う競技会に出場しつつグローバーが求めるのは、天賦の才と発想力を活かし、ひたすら自分がやっていて楽しく、同時に観客を驚かせ喜ばせるムーブの数々だ。それを、競技における勝負から逃げていると批判することもできる。

だが、グローバーは基本的に自分の欲しいものを求めているだけなのだろう。叩き付けられる危険を省みず三角で極めようとして、多大なダメージを受けたのも、ただ自分に対して忠実に欲しいものを得ようとしたからだ。だからこそグローバーはシーンを牽引する人気者として輝いたし、同時にあれだけの才能を持ちつつも、世界最高峰の競技選手にはなれぬまま今に至るのだろう。

今やすっかり大人の顔と体を手に入れ、左右の頭髪のラインもだいぶ上がってきているジェフ。しかし、中学生にしか見えない華奢な体と童顔だった12年前のあの頃から、その柔術の本質はなにも変わってはいない──

あの日初めて彼とマット上で出会い、十数秒後には何が起きているかも分からず締め落とされていた人間が、万感の念とともにそんなことを思ったジオ・マルチネス戦だった。

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