この星の格闘技を追いかける

【Metamoris06】ヒーロン・グレイシー参戦、バーネット戦へ。めくるめく格闘浪漫!!!!!!

Ryron Gracie【写真】ヒーロン・グレイシー参戦、 アベルーには申し訳ないがメイン変更は、イベント自体への興味を倍増させる(C)MMAPLANET

9日(土・現地時間)にカリフォルニア州ロサンゼルスで開催されるMetamorisのメインが変更されることが、6日(水・同)に主催者より明らかとなった。ヘビー級王者のジョシュ・バーネットに挑戦予定だった、13年ADCC無差別級王者のホベルト・アベルーが負傷欠場。代役としてホリオン・グレイシーの長男にしてメタモリスを主宰するハレック・グレイシーの兄でもあるヒーロン・グレイシーが、急遽バーネットと対戦することとなった。

12年10月のメタモリス1でのアンドレ・ガルバォン戦を除き、近年まったく大きな大会で戦っていないヒーロン。ノーギ・グラップラーとしての実績においては、13年のADCC無差別級王者アベルーにはまるで及ばない。にもかかわらず、この試合は当初のバーネット×アベルーよりはるかに興味深い。これは、対極にある二つのグラップリング哲学の激突だからだ。

ヒーロンは、祖父エリオ・グレイシーの伝えた「力無き者のための護身術」としてのグレイシー柔術を伝えることに身を捧げる柔術家。競技柔術の中での勝ち負けに一切価値を見出さず、力を使わず身を護ることを最優先とする。試合中には下になることどころか、相手にサイド・マウントを取らせることすら厭わない。サイドを取られたらチャンスが来るまでは力を抜いて下で護っていればいいと語るヒーロンは、必死でガードに戻すなり返そうとする他の柔術家たちの戦い方を「大いなる間違い」とまで言い切る。

ガルバォン戦前にも「勝つことなど目指していない。身を護れればそれでいい」と語っていたヒーロンは、宣言通りにこの作戦を実行。あっさりサイドポジション許したまま、要所でうまく守って極めさせず。後半は、疲れたガルバォンに対して攻撃に転じる場面まで作って引き分けている。

当然、このヒーロンの戦い方は、勝ち負けを争う競技の場に置いては大いなる疑問符をつけざるをえない──のも事実。競技の場で勝つことを放棄するような姿勢は評価できるのか、サイドを取られても平然としていて果たして護身と呼べるのか……。大いに批判されたヒーロンだが、同時に世界最高峰の柔術家相手に極めさせなかったことで、一部、彼と肌を合わせた者にしか分かりえなかった防御力の高さが本物であることを証明した。「誰も極められることのない、世界一のサバイバル・マスター」としてのヒーロン・グレイシー神話が、この試合を経てより強固なものとなったことは否めない。

対してジョシュ・バーネットのキャッチレスリング哲学は、ヒーロンのまさに真逆を行く。常に上のポジションを狙い、激しく攻め続けることこそキャッチレスリングの信条だと語るバーネット。ひとたび上を奪ったら、体重を掛けて呼吸を制限し、ヒジや前腕や膝を総動員して相手の顔面を痛めつけ、エスケープを試みざるを得ない状況に相手を追い込む。そこでその逃げ道を塞いでライドし続けて相手をさらに疲弊させ、とどめを刺す。実際にこの方法でバーネットは、昨年8月のメタモリス4にてディーン・リスターに圧勝し、ヘビー級王座に就いたのだった。下で脱力するヒーロンの闘い方についても、バーネットは「それは僕らキャッチレスラーには通用しない」ときっぱりと言い切っている。

果たしてヒーロンは、バーネット相手にも平然とサイドを取らせるのだろうか。そうなった時に、ヒーロンのグレイシー柔術には、キャッチレスラー・バーネットの上からの激しい攻撃を無効化する手だてがあるのだろうか。ガルバォンをも返したグレイシー柔術の最基本技・マウント返しや、ヒーロン十八番のサイド下からの鉄砲返しは、ライドにおける体重の掛け方を極めたバーネットに通用するのか。逆に言うなら「サバイバル・マスター」ことヒーロンの鉄壁の防御を、「ウォーマスター」バーネットはいかに打ち破るのか。

もちろんこの試合を、以前日本のPRIDE等で行われたグレイシー×U系プロレスラーの延長線上に見ることは可能だ。またさらに歴史好きのファンならば、今から100年以上前、グレイシーに柔術を伝えたコン・デ・コマ(前田光世)が、ロンドンのキャッチレスリングの大会に出場したこと、また1934年にエリオ・グレイシーが、高名なプロレスラーのウィダレック・ズビスコと戦って引き分けたことに思いを馳せるかもしれない。

プロレスラーであり同時に歴史マニアであるバーネット本人も、この種の物語を背負ってこの試合に望むことだろう。また、この2人には巧みな話術を用いるという共通点もある。ヒーロンがグレイシー柔術ではなく、エリオ・グレイシー柔術の優位性を説く際に用いる「my grandfather created」というフレーズは、一部の柔術愛好家の強い支持を得ている。その話術も攻撃的なバーネットに対し、受け身の態勢から理論を展開していくヒーロンという風にファイトスタイルにも共通する違いが見られる両者。ヒーロンとしては、僅か3日前の対戦決定も、気構えと日々の修練という準備しか持てない護身の神髄をいく戦いであり、ジョシュとしてはいつ何時、誰の挑戦でも受ける──というストロングスタイルの実践の場でもある。

プロレスラー/キャッチレスラー×柔術家という過去の因縁、理論武装、テクニック面などなど、興味の尽きない2人の偉大なるグラップラー&フィロソファーの激突は、現在進行形で人々を魅了するに違いない。

■ Metamoris06対戦カード

<無差別級/20分1R>
ジョシュ・バーネット(米国)
ヒーロン・グレイシー(ブラジル)

<ノーギ/20分1R>
チェール・ソネン(米国)
ヘナート・ババル(ブラジル)

<ノーギ/20分1R>
ディロン・ダニス(米国)
ジョー・ローゾン(米国)

<道着/20分1R>
シャンジ・ヒベイロ(ブラジル)
キーナン・コーネリアス(米国)

<ノーギ/20分1R>
クラーク・グレイシー(米国)
ホベルト・サトシ・ソウザ(ブラジル)

<ノーギ/20分1R>
ジェフ・モンソン(米国)
TBA

PR
PR

関連記事

Movie