【K-1】ジャオ・フーカイに訊く中国キック界 「散打が基本。タイ人の首相撲のようなもの」
【写真】漢字では焦富开という表記となるジャオ・フーカイ。散打では2008年に全国散打擂台争霸赛65キロ級、2009年に全国青少年散打擂台争霸赛65キロ級、そして2010年に全国青少年散打擂台争霸70キロ級を制している中国格闘技界のエリートだ(C)TAKUMI NAKAMURA
3日(月)、東京都渋谷区の国立代々木競技場第二体育館で行われた「K-1 WORLD GP 2014 ~-65キロ初代王座決定トーナメント~」にて、注目の中国人ファイター=ジャオ・フーカイが初来日を果たした。中国のビッグイベントKunlunFightで行われている70キロ・トーメントで元It’s Showtime世界王者クリス・ンギンビとTOMOYUKI(西川智之)を下し、準決勝まで勝ち進んでいるフーカイ。そのスケジュールの合間を縫ってのK-1参戦で、松倉信太郎に僅差の判定負けとなったものの、左ストレートで松倉の顔面を破壊し、テレビ解説を務めた魔裟斗に「この選手は強い」と言わしめるなど、その強さを存分に発揮した。
大会翌日、帰国直前のフーカイにインタビューを申し込み、フーカイのキャリアを振り返るとともに急速に拡大している中国のキックボクシングイベントと躍進を続ける中国人キックボクサーの進化について訊いた。
Special thanks to Mr. Hiroyuki Iwakuma
――K-1 WORLD GP 2014 ~-65キロ初代王座決定トーナメント~」で初来日を果たしたフーカイ選手です。昨日はお疲れ様でした。まず初めに日本で試合をした感想、K-1のリングで感じたものを聞かせてもらえますか。
「初めての日本に来て、初めてK-1のリングに立つことが出来て、本当に嬉しかったです。初来日にも関わらず、中国人ファイターの私を暖かく迎え入れて、特別な感情を持つことなく接してくれたこともうれしく思います。試合の話をすると、私自身、純粋なK-1ルールは初めてで、そこまでK-1ルールには慣れていません。ただその中でも自分の良さを出すことは出来たのかなと思います」
――フーカイ選手は2週間前にKunlung Fight11に出場しています。この試合に向けた準備はどのくらい出来たのでしょうか。
「試合と試合の間隔が短かったことは確かです。クンルンファイトでの西川智之(TOMOYUKI)戦も厳しい試合でしたし、この試合に向けての準備期間は2週間ほどしかありませんでした。今回に限って言えば、短い間隔で試合をすることに身体が順応していなかったと感じます。そういう部分で悔やまれるところもあるので、もう一度、K-1で試合をするチャンスがいただけるなら、その時は完璧な準備をしてリングに上がりたいと思います」
――試合は1R、2Rにフーカイ選手が有利に試合を進めたものの、2R後半から松倉選手に盛り返されて、判定2-0で敗れてしまいました。しかし勝利した松倉選手は鼻を骨折し、顔も大きく腫れていました。逆に敗れたフーカイ選手は綺麗な顔をしています。自分の強さを見せられたと思いますか。
「個人的には1R後半に自分の重いパンチが入って、ここでKO出来るかもしれないという手応えもありました。2Rに入ると松倉選手は鼻からも出血していましたからね。ただ松倉選手は本当に気持ちが強くて、その状態からでも盛り返してきました。あれだけ顔が腫れて鼻から出血しているのに下がるどころか向かってきて…あんな経験は初めてでしたし、松倉選手の気持ちの強さを感じました」
――今回が初来日のフーカイ選手ですが、私はクンルンファイトでクリス・ンギンビに勝った試合を見て、フーカイ選手の存在を知りました。フーカイ選手にとってンギンビ戦はどんな試合でしたか。
「クンルンファイトはアンディ・サワー選手も出場した非常に大きな国際大会で、ンギンビ選手も強敵でした。ンギンビ選手に勝つことが出来たのは、一つは20歳という若くて強靭な肉体と経験がないことがプラスに作用したと思います。経験がないからこそ対戦相手のことを過剰に意識することなく、何も考えずに思い切って自分の気持ちと技術をぶつけていったことが功を奏したと思います」
――ンギンビ戦の勝利には日本のファンも驚きました。フーカイ選手は散打出身ということですが、格闘技のバックボーンを教えていただけますか。
「まず私は2004年に中国の伝統武術で型を練習する套路(とうろ)を学びました。それから2007年に散打、2012年からキックボクシングに対応するための練習を始めました」
――套路や散打をやっていることからキックボクシングには興味があったのですか。
「はい。小さい頃からやってみたいと思っていました」
――それはK-1の影響もあるのでしょうか。
「散打を始めた頃からK-1を見るようになり、特にブアカーオ(・バンチャメーク)が大好きでした。彼の戦い方はもちろん、(少し照れながら)彼の入場シーンを見て心を躍らせていました(笑)」
――確かにブアカーオは入場も派手でしたからね(笑)。少し前の散打出身の選手といえば、クリンチを多用したり、打撃で打ち合わないスタイルの選手が多かったと思います。しかしフーカイ選手をはじめ、最近の散打出身選手はパンチ・蹴りで打ち合える選手が増えました。中国人ファイターにどのような変化があったのでしょうか。
「私たち自身がK-1やムエタイの練習に取り組んでいるのはもちろん、中国全体でキックの国際大会が行われるようになったことが大きいです。私たちの練習そのものが大きく変わったというよりも、キックの国際大会に出るために、私たちがK-1やムエタイルールに適応できるように戦い方を変えざるをえなかったと表現した方が正しいかもしれません。
K-1ルールで試合をする時にはK-1ルールの練習をするし、ムエタイルールで試合をする時にはムエタイルールの練習をする。もちろん散打の試合に出る時には散打の練習をしますし、私たちの基礎になっているのは散打です」
――第1回S-cup世界王者で、現在はチーム吉鷹で多くの選手を指導する吉鷹弘さんは『組技をやっている人間の方が、軸が出来ているので打撃が強い』という考えを持っています。それと同じように投げがある散打出身の選手だからこそK-1やムエタイルールでも強さを発揮できるという側面はありますか。
「おっしゃる通り、散打は日本でいう柔道や相撲のような要素があります。そういった組みや投げの練習をすることで背中の筋肉が強くなり、腰も重くなるので、身体の軸がぶれずにどっしりと構えることが出来る。そのおかげでパンチも蹴りもどちらも重くなっていると思いますね。私たちが散打の練習を基本に考えているのは、ムエタイの選手がルールに関わらず首相撲の練習をするのと同じことだと考えてください」