Column 「花の都のDREAM TEAM」前篇
【写真】寝技に制限があっても、相手が打撃の専門家でも、道着を着ても、マッハは真っ向からゴールデン・トロフィーのルールで戦える総合格闘家だった
※本コラムは「格闘技ESPN」で隔週連載中の『10K mile Dreamer』2010年11月掲載分に加筆・修正を加えてお届けしております
文・写真/高島学
今でも、ふと思い出す忘れがたい光景がある。
一つは1994年、初夏のスイス・ルツェルン郊外、ユースホステル近くのバス停。もう一つは、2001年4月早朝のパリ。この仕事を始める前も、始めた後も同じ、朝靄に包まれたヨーロッパでの出来事――なんていえば、ちょっとキザすぎるか。
齢43を迎え、ノスタルジック厳禁、思い出に浸らないことを信条にしつつ、そんな朝靄の光景とともに、言葉に書き記すことが困難なほど、懐かしさがこみ上げてくる出来事が今も自分の支えになっている。
01年4月、パリで行われたグラン・トロフィー2001という大会名に覚えがある人は、もう10年来の格闘技ファンに違いない。この大会の取材、そしてパリ滞在期間中に起こった数々の出来事は、今も甘く、そして苦い記憶とともに、深く胸に刻まれている。
袖なしの道着、オープンフィンガーとは名ばかり、ふわふわの緩衝剤が入っているだけで、全く拳を守る役割を果たさないテコンドー用グローブ着用、寝技ではパウンド禁止、リングでもケージもない、四角形の舞台の上で戦う。
それが、MMAが禁止されている武道大国、フランス生まれの総合格闘技、いやコンバッ・リュブレの大会ゴールデン・トロフィーだった。
アマチュアでの普及活動と並行して、オルレアンで年に1度、プロ大会が開かれていたゴールデン・トロフィーが、この年、パリ進出を果たし、ベルシーという多目的アリーナで開催されることとなった。
15歳で柔道を始め、23歳になった1976年から2年間、日本で生活。柔道だけでなく日本拳法や太気拳を学ぶと、その後は韓国へ移り、テコンドーとハップキドーに嗜んだという経歴の持ち主クリスチャン・ヒベールが、ゴールデン・トロフィーの主催者だ。
【写真】98年3月に日本人として初めてゴールデン・トロフィーに出場した須田匡昇。強豪ムエタイファイターのオヘリアン・デュアルテを飛びつき十字で下したことで、日本人ファイターの連続参戦が成った
01年より遡ること3年、98年より須田匡昇、桜井マッハ速人&桜井隆太、和田拓也&竹内出という日本の総合格闘家をゴールデン・トロフィーに招いていた。
とはいっても、ヒベール氏は日本の総合格闘技界に人脈を持っていない。そんな日本を崇拝する彼を偶然、知り合いのフランス人記者から紹介を受け、取材したことがあった縁で、日本人ファイターのセレクト&コーディネイトを依頼され、現地の大会にも足を運ぶようになった。
99年から01年、当時の総合格闘技界といえば、その技術は日進月歩とはいえ、しっかりとした寝技が攻防の軸となっていた時代だ。
グラウンドのブレイクが異様に早く、組んでも場外に落ちると、スタンドの打撃戦から再開するという、ゴールデン・トロフィーのルールで日本人総合格闘家が戦うことは生易しいものでない。しかも、対戦相手はホームのフランス人ファイター。フランス格闘技界はオランダに並ぶキック王国であり、同時に日本を凌駕しようかという勢いを持つ柔道先進国でもあった。
投げと打撃、パウンド禁止で制限が多い寝技は、日本人ファイターとは対照的に、フランス勢にとってうってつけのルールといえた。00年参加の竹内、99年出場の桜井隆太は、フランス勢の打撃と組みにしてやられた。
世界的に無名、打撃に長じている相手、加えて対戦相手に有利なルールのなかで戦う日本人ファイターに、ヒベールが求める戦いの要素は、上から順に関節技に強い、投げができる、道着の経験がある、そして打撃ができるというものだった。
この全ての条件を満たしているのは桜井マッハ速人、ゴールデン・トロフィーを苦にもしない、日本人総合格闘家は彼しか考えられなかった。そんなマッハでも、5分×1本勝負、無名の相手の得意分野で戦う異国の戦いは非常にリスクが高い。
ましてや、他の選手となれば、その危険性はさらに高まるが、PRIDE 武士道もUFCライト級もない時代、どこか無敵感を漂わせていた日本の若き総合格闘家たちは、多少不利な条件などお構いないしに、フランスの地に赴いた。
2000年、秋。翌年・春にパリ進出を決めたヒベール氏から、スペシャルマッチ&日仏6×6対抗戦、実に日本人選手7名の出場依頼が、ファックスから通信手段のトップの座を奪ったメールで届いた……。
※続く
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