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【RIZIN50】井上直樹、元谷との防衛戦を振り返る。「2Rの後半にはほとんど見えなくなっていた」

【写真】完全に右目が塞がっていた(C)RIZIN FF

3月30日(日)、香川県高松市のあなぶきアリーナ香川で開催されたRIZIN50で、井上直樹が元谷友貴をスプリット判定で下し、RIZINバンタム級王座の初防衛に成功した。
Text by Takumi Nakamura

取材時もまだ完全に腫れは引いていなかった(C)TAKUMI NAKAMURA

鋭いジャブで制空権を支配する。

1Rを終えた時点で試合は完全に井上のペースになったかに思われた。しかし2R終盤から井上の右目は視界を奪われ、3Rには元谷の猛反撃を許す展開になる――。防衛戦の重圧、そして試合中に負傷するアクシデント…井上がいかにそれらを乗り越えてベルトを死守したかを振り返った。


──試合直後は右目もかなり腫れていましたが、だいぶ腫れも引いてきたようですね。

「4月の中旬くらいまでは充血がひどかったのですが、だいぶ落ち着いてきましたね」

──元谷戦を映像でもチェックされたと思うのですが、改めて試合の感想を聞かせてください。

「元谷選手のことを警戒しすぎてしまって、もっと出来ることがあった試合だったと思います」

──試合序盤から左のジャブが冴えていましたが、ジャブを多用することは事前の作戦だったのですか。

(C)RIZIN FF

「そうですね。

しっかりジャブを当てて、距離感が掴めてきたらストレートを狙ったり、元谷選手がパンチを返してきたところにカウンターを当てようと思っていました。ただ元谷選手がそこまで自分から出てこなくて……僕としてはもう少しコンタクトが多い展開を予想していました」

──左ジャブそのものはかなり当たっている感覚や手応えがありましたか。

「めちゃくちゃ手応えがありましたね。むしろ手応えがありすぎて、元谷選手の反撃がなくて逆に困ったというか(苦笑)。元谷選手とは2度目の対戦だったし、今回はタイトルマッチだったので、僕がジャブを当てて右ストレートを打った時に何か狙っている技があると思っていたんです。そこを必要以上に警戒してしまい、なかなか右ストレートまでつなげられなかったですね」

──前回のスーチョル戦もそうですが、井上選手は昔からジャブや左のパンチの使い方が得意ですよね。

「そうですね。2017年のUFC日本大会を右肩の怪我で欠場したのですが、リハビリも含めて1年くらい右のパンチを打てなかったんです。その時にひたすらシャドーとミットでジャブを練習していて、それでものすごくジャブの技術が伸びて、それからジャブが自分の武器になりましたね」

──井上選手のリーチや体型的なことを考えると、左ジャブが武器になったことは大きかったのではないですか。

「MMAは立ち技から始まる競技なので、どんな展開を作るにしてもジャブは必要になると思うし、そういう点でジャブが当たると試合は組み立てやすいですね」

──1R終盤にギロチンの攻防がありましたが、あの場面はいかがでしたか。

(C)RIZIN FF

「あれは多分向こうもそんなに力を使ってなかったと思います。

僕も首を狙ってきた瞬間に上手くディフェンスできたので、そんなに危ないという場面はなかったですね。むしろあそこからひっくり返されないように気をつけていました」

──1Rが終わったあとのインターバルではセコンドとどのような会話をかわしたのですか。

「結構セコンドも慎重で、そのままジャブを突いていこうという指示でした。絶対に向こうはカウンターを狙っているから、そこには気をつけろという感じでしたね」

──井上自身は2Rからもっと手数を増やしていこうという考えはありましたか。

「僕もまだ警戒していたというか、僕のジャブに対して元谷選手がアクションを起こしたら、そこに合わせた方がいいなと思っていました。それで1Rと同じような流れで試合が進んだ感じですね」

──そして右目の腫れについてですが、どのタイミングでパンチを被弾したのでしょうか。

「僕自身、このパンチをもらったから右目が腫れたというのが全然分からなくて、あとで試合映像を見返しても……分からないんですよね(苦笑)。1Rが終わったあとのインターバルでセコンドの安田(けん)さんから『少し目が腫れているな』と言われたので、もしかしたら1Rに何かあったのかもしれないですし。ただ目の状態で言うと、2Rの後半にはほとんど見えなくなっていて、距離を取らずに組んでヒザを蹴ったりして戦い方を変えました」

──井上選手としては自分のペースで試合が進んでいるなかで、思わぬ形でアクシデントが発生して緊急事態ですよね。

「そうですね。ガツンとパンチを喰らった感覚や脳が揺れた感じもなかったですし、強いて言うなら1Rにバッティングがあったのかな。でもそのくらいのものだったので、今でもどの攻撃で右目が腫れたのかは分からないままです(苦笑)」

──2Rが終わったあとのインターバル中はセコンド含めて、状況が変わったのではないでしょうか。

「指示を聞く余裕もなくて、完全に右目が塞がっていたので、それを何とかしなきゃいけないと思って色々とやっていたら、いつの間にかインターバルが終わっていました(苦笑)」

──3Rも変わらず完全に右目が見えていない状態でしたか。

「少し(右目が)開いてはいるんですけど、それも二重に見えるような状況でした。だから全く距離感が掴めなくなって、打撃で行くのは無理だなと思いましたね」

──ジャブで試合を支配していた展開から距離感が狂うとなるとゲームプランもガラリと変える必要がありますよね。

(C)RIZIN FF

「めちゃめちゃ変わりましたね。

3Rになると元谷選手も中に入ってきてくれたので、本当だったらそこに右ストレートを合わせたかったんですけど、いざそうなったら右目が見えずに距離感が分からないという(苦笑)」

──昨年3月に佐藤将光選手とやった時も3Rに相手が二重に見える状況でした。

「そうですね。あの時はすぐに自分からテイクダウンに行きました」

──結果的に3Rに組みの攻防が増えたことは井上選手からすると不幸中の幸いでしたか。

「あのまま打撃が続いていたら、元谷選手のパンチをもらって印象が悪かった可能性は高かったと思います。だから組みの攻防になって、ある意味よかったです」

──元谷選手の寝技、グラウンドの攻防はどう感じていましたか。

「極められる心配はなかったかなと思います。元谷選手の方もしっかり抑えてパウンドを打つ感じだったので。抑えられている間も、このまま相手が何もしてこなかったら判定にもそこまで響かないだろうなと思っていました。逆に元谷選手が疲れたタイミングで動けばいいかなと思って、そのチャンスを狙っていた感じですね」

──トップキープされていても慌てることはなかったですか。

「そうですね。テイクダウンを取られそうになってもすぐ振り向いたり、エスケープは出来ていたので焦ることはなかったです。ただ3Rの後半に自分でもいいポジションを取り返さないといけないと思ってバックを取りに行ったんですけど、そこで上を取られてしまったのはよくなかったです(苦笑)」

──あそこでは最終的に下になってしまいましたが、バックを取られかけた状態からエスケープするのは得意だったような印象があります。

(C)RIZIN FF

「そうですか?」

──僕は井上選手はバックを巡るスクランブルの攻防が強い印象があります!

「ありがとうございます(笑)。バックを取られて逃げるというより、バックを取られる前に動くという感じで、そこの攻防は気をつけるようにしています」

──最後は元谷選手が肩固めのクラッチから身体を起こして殴り続けて、井上選手が立ち上がる形で試合終了となりました。井上選手自身は判定を待つ間はどんな心境でしたか。

(C)RIZIN FF

「正直、どちらにつくかは分からなかったです。

3Rの最後の印象、パウンドの時間がもう少し長ければ元谷選手になったかもしれないですし。ただ1~2Rは特に元谷選手が何かしてきたわけではなかったですし、自分が取っている可能性が高いと思っていました。ただ判定を待っている間はドキドキしていたので、自分の勝ちが告げられた時はホッとしました」

──結果的にはスプリット判定で王座防衛となりました。今回はRIZIN初の香川大会ということで、井上選手も王者として色々な事前PRにも参加していましたが、ああいったPR活動は新たなモチベーションになりましたか。

「地元香川の高校(高松北高校)に行った時、あれだけの人たちが盛り上がってくれて、逆に元気とパワーをもらって、改めて頑張らないといけないなと思いました。ただ試合が近くなるに連れて、元谷選手のベルトにかける思いも考えたりして、気持ちが持っていかれそうになったこともありました」

──我々が見ている以上に試合に向けて気持ちを作る作業がハードだったのですか。

「初めてのことが多くて、試合に対して必要以上に警戒してしまった部分はありますね」

――それを乗り越えてベルトを防衛できたことで自分のどこが成長できたと感じていますか。

「同じ相手と2回やったこと、自分が防衛する立場で勝てたこと……色々なことが重なった上で、それを乗り越えたことは本当に大きかったですし、かなり成長できたと思います」

──ノンタイトル戦と防衛戦では精神的なプレッシャーは違いますか。

「そうですね。今思うと元谷選手のことを警戒しすぎたところがあったので、もっと自由に戦えたらよかったなと思いました。本来であれば自分から攻めることが出来たと思うので、次からそこは意識したいと思います。今回の試合をクリアしたことで色々と吹っ切れた気がするので、もう次からは問題ないかなと思います」

──次の試合は少し先になると思いますが、もっと思い切りのいい自分を見せたいですか。

「元谷選手に勝ったと言っても、最後は追い上げられる試合展開でしたし、僕自身も悔しい終わり方だったので、気持ち的にはすぐにでも試合をやりたいです。ギリギリで防衛したという印象を変えるためには試合でいい勝ち方をするしかないと思うので」

──今後の展望として井上選手はどんなことを考えていますか。

「相手がいれば防衛戦になるでしょうし、ノンタイトル戦になっても自分の戦い方で試合を作って、最後は倒せるような試合、盛り上がるような試合をしたいです」

──男祭りには元Bellatorのダニー・サバテロも参戦しますが、そういった海外の強豪たちを迎え撃っていきたいですか。

「そこは変わらないですね。海外の強豪選手がRIZINに来ることはすごく楽しみにしています」

――チャンピオンとしての初陣や初防衛戦など、井上選手が得たものも多かったと思うので、次戦を楽しみにしています。

「ベルトを獲ったからと言って全然満足していないですし、まだまだ頑張らないといけないという気持ちの方が強いです。これからはチャンピオンとして自分らしい試合を見せていきたいと思います」


■視聴方法(予定)
5月4日(日)
午11時30分~ ABEMA、U-NEXT、RIZIN LIVE、RIZIN100CLUB、スカパー!

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