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お蔵入り厳禁【RIZIN46】鈴木千裕が振り返る金原正徳戦「倒すために必死だったらミリ単位の隙も逃さない」

【写真】鈴木が対戦相手を仕留められる理由には様々な要因が隠されている(C)RIZIN FF

4月29日(月・祝)、東京都江東区の有明アリーナで開催されたRIZIN46でRIZINフェザー級王者・鈴木千裕が金原正徳を1RKOで下し、王座初防衛に成功した。
Text by Takumi Nakamura

昨年11月にヴガール・ケラモフに勝利して、第5代RIZINフェザー級の座に就いた鈴木。初防衛戦となった金原戦では序盤に金原のテイクダウンをディフェンスし、最後は持ち前の強打で金原をマットに沈めた。細かい技術はもちろん鈴木の“倒しどころ”を逃さない嗅覚や試合の流れを読む力はどうやって磨かれたのか。


──今回はRIZIN46の振り返りを中心に話を聞かせていただければと思います。鈴木選手は試合が終わると、自分の試合を何回も見る方ですか。

「試合が終わったその日に見て、反省点と良い点を見つける感じですね。SNSで(ダイジェスト映像が)勝手に流れてくるじゃないですか。なんか恥ずかしいなみたいで感じで(笑)、そこまで見ないです」

──金原戦に関しては、鈴木選手のイメージしていた通りの展開でしたか。

「やりたいことがバチッと100%ハマりました。頭で考えて、それを形にすることがちゃんとできたという確信を持って終わることができたので、またこれと同じことを試合でやろうと思いました」

──鈴木選手は試合が決まって、どのタイミングで相手と戦うイメージが出来上がるのですか。

「試合が決まって対策を練って10%、15%、20%、50%となって、試合当日に98%ぐらいまで持っていく。それでリング上で向かい合った時に相手の体の仕上がりや体調が分かるので、そこでバチッと100%になる感じです」

──しっかり事前準備をしつつ、最終的に対戦相手と向かい合った時のフィーリングや相手を見た感触も大事にしているのですね。

「はい。例えば相手がヒザにテーピングしていたら『ヒザを故障しているんだ』と思うし、もしヒザ蹴りが得意な選手だったら、戦い方も変わってくると思うんですよ。そういうことも分かりますよね。あとは前日計量と当日で印象が変わることもあるし、そこばかり意識するわけではないですけど(当日見た印象は分析する)一部ではありますよね」

──金原戦で言えば、組んでくるであろう金原選手のコンタクトを切って、どれだけ自分の得意なスタンドを長くするか。そこを一番イメージしていましたか。

「そうですね。相手がやってくることに付き合う必要はないし、そこで自分の得意なカードを切れる状態に持っていくことが総合格闘技における強さなんで。なので、相手の特技を消して、自分の個性を活かす戦い方、それがやっぱり今回バッチリハマったんじゃないですかね。周りが見ていても『鈴木が打撃主体で行けるのか?』というシチュエーションになった時に、僕が打撃で持っていった。逆に金原さんは序盤で寝技に持っていけなかった。だからそこで勝敗がついたのかなと思います」

──鈴木選手を取材させてもらうようになって、試合の流れを読む力というか、ここが勝負どころだというところを逃さない力に長けているなと思いました。それは野生の勘なのか、それとも経験から来るものなのか。ご自身ではどう思っていますか。

「みんなが必死に戦ってないんじゃないですかね。例えばですけど、山で猪を刈ることになって、猪の足を狙って撃ち抜いたら、あとは仕留めるだけじゃないですか。どう考えても勝負をかけた方がいい状態なのに、みんなそこで『あれ…まだ走れるのかな?』『走り出したら、仕留められないかな?』みたいなことを考えちゃうんですよ。顎とボディを殴って効いていると思ったら、相手は反応も鈍っているしテイクダウンにも行きにくい。そういうチャンスが来たと思ったら一気に勝負を懸ける。

僕がやっていることはそれだけだし、本当に必死に戦っている選手はミリ単位の反応や隙も見逃さないと思うんで。結局、そうやって倒すチャンスを逃すのは判定に媚びてるんですよ。倒しに行くのは労力がかかるし、集中もしていないといけない。そこを妥協して『このチャンスを逃しても俺の判定勝ちだな』『ここまで優勢だから、このラウンドを凌げばポイントを取れるな』という甘い考えでいるから倒せないんです。本気で勝負にかけている選手は一分一秒でも早く勝負を終わらせることにこだわっているというか、本気で相手を倒すことに固執する人は一瞬の隙も逃さないはずです」

──昔からその考えで戦っているのですか。

「だって判定に行くより、KOした方がどう考えても楽じゃないですか(笑)。もちろん僕だって判定まで行っちゃうことありますよ。でも極力倒した方がいいと思うし、僕は格闘技の魅力は自分の力で試合を終わらせられることだと思うんですよ。プロ野球はどれだけ点差がついても9回までやりますし、サッカーも90分やる。格闘技は唯一最後までやらなくていい競技なんです」

──確かにプロ野球やサッカーはどれだけ点差がついても最後まで試合をやりますからね。

「それって地獄じゃないですか。格闘技はバンバン!と倒しちゃえば、そこで試合終了なんで。それは行くに決まっていますよね」

──もちろんそれが出来るのは、一つ一つの攻防に対する必死さ・集中力・労力がほかの選手とは桁違いだからだと思います。

「でもそれはフィニッシュできる選手には共通していて、(ヴガール)ケラモフ、クレベル(・コイケ)、(パトリシオ)ピットブル…この3人は全員そうなんです。例えばケラモフと朝倉未来選手がやった試合、普通は序盤のあのタイミングで極められないですよ。でもケラモフはあそこが勝負だと思って必死に極めに行くから一本勝ちできる。クレベルもどれだけ追い込まれていても、最後の最後で1本勝ちするじゃないですか。あれは必死に戦っているからなんですよ。それができない選手というのは、1VS1の戦いに勝つことに固執してない。それだけだと思います。そこを判定に委ねるというのは、1VS1の戦いに勝つ気がないというか。ゲームに勝ちたいみたいな感じなんだと思います」

──確かにKO・一本を狙うことはリスクがあるだけではなく、試合を途中で終わらせられる・相手に反撃する隙を与えないという意味では最良の勝ち方という考えもできます。

「そうです、そうです。もちろんポイントアウトの戦いを美学としてやる人もいますし、判定勝ちが悪いというつもりはないですが、僕はそれをやった(KO・一本勝ちする)方がいいという考えでKOすることに美学を持っています」

──それで言うと金原戦は最初のテイクダウンをディフェンスした、ボディブローを効かせたところが試合の流れを決めたポイントですか。

「そこが起点ですね。あとは金原さんコールが起きた後に、それを千裕コールが掻き消してくれたんですよ。それを聞いてやるしかねえだろうと。それで行きましたね。あのまま終わらせられるつもりで勝負を懸けましたし、逆襲されるのは怖いですけど、それが怖かったら格闘技なんてやらない方がいいですよ」

──やはり鈴木選手は試合まで緻密に準備する力と試合になった時に勝負をかける2つのスイッチを両方持っているようですね。

「僕も格闘技キャリアは長いですし、分かるんですよ。行かなきゃいけない時が。その時が妥協しないで行くだけなんで、そういう嗅ぎ分けは得意なのかもしれないですね。あとはチャンスじゃなくてもチャンスに変える力をつけるというか。どう考えてもチャンスじゃない場面でも、それを強引にチャンスに変える力を僕は持っているのかなと思います」

──ケラモフ戦の下からのカカト落としはまさにチャンスじゃない場面をチャンスに変えた瞬間でしたね。あと鈴木選手は解説も話題になっていますが、それを言語化できているし、格闘技において頭の中が整理されているんだろうなと思います。

「ありがとうございます(笑)」

──さて鈴木選手の次戦は6.23KNOCKOUT代々木大会での五味隆典戦です。この試合はKNOCKOUT特別ルール=パンチのみのルールとなります。鈴木選手にとっても初めてのルールだと思いますが、普段との違いはありますか。

「いや、ないですね。戦いの1つに過ぎないです。相手が誰であろうとリングの上では格上格下はないんで。五味さんと金原さんは年齢的には4歳しか違わないし、その金原さんがRIZINで勝ち続けてタイトルマッチまで来たわけじゃないですか。金原選手はテクニックがあるから勝ち続けることが出来て、五味さんには誰が相手でも試合を終わらせる1発がある。しかも当日は体重差も10kgくらいあると思うので、僕は五味さんのことを1ミリも舐めてないし、警戒しています」

──記者会見で五味さんの言葉を隣で聞いていて感じるものはありましたか。

「五味さんらしいなと思って安心しましたし、五味さんの覚悟も決まっているなと思ったので、あとはリングの上で答えが出ると思います」

――五味選手がそこまで覚悟を作ってきてくれたことは、嬉しい部分もありますか。

「そうですね。嬉しいです。先生と戦えるっていうのは一番の恩返しなんで、その時が来たなって思うと嬉しいです」

──先生や師を超えるというのは鈴木選手の中で一つのモチベーションですか。

「そうです、そうです。師を超えるっていうのは、なかなかできない、みんなができることではないんで。あとは“稲妻ボーイ”の名前をもらっておきながら、ずっと『五味さんの…』と言われることが嫌なんですよ。そこに俺がいないじゃないかよって。俺が五味さんの“火の玉ボーイ”を受け継いだんでしょって。僕は五味さんを超えた“稲妻ボーイ”にならないとずっと二番手のまま。格闘技は常に一番じゃなきゃいけないし『五味さんを超えた“天下無双の稲妻ボーイ”鈴木千裕だね』と言われたい。でも、五味さんが引退してしまったら、それが叶わなくなる。幻想で終わる五味さんの継承者じゃなくて、五味さんを超えた継承者にならないと。それができないと時代を引っ張っていけないし、それはカッコよくないと思うんですよね」

──思い出は美化されるもので、思い出に勝つことは難しいですからね。

「はい。五味さんが現役じゃなかったら戦うことはできないし、きっとみんな『五味さんには勝てなかった』って言うと思うんですよ。だから五味さんが現役でいるうちにやっておきたいと思いました」

──そういう想いがあるからこそ、鈴木選手にとっては大事な試合で、エキシビションマッチではなく勝ち負けがつく試合としてやりたいという想いも伝わりました。6月の試合も楽しみにしています。

「押忍!」

■視聴方法(予定)
6月9日(日)
午後12時30分~ABEMA、U-NEXT、RIZIN100CLUB、スカパー!、RIZIN LIVE

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