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【UFC301】展望。パントージャ×アーセグ、粗い打撃&バック奪取の王者と綺麗な打撃=ランク10位の挑戦者

【写真】スラッピーでも組みにつなげる王者の立ち技に対し、綺麗な打撃の持ち主の組みの防御力は?!(C)Zuffa/UFC

4日(土・現地時間)、リオデジャネイロのファルマージ・アリーナにて、UFC 301が開催される。コメインにて地元の英雄ジョゼ・アルドの復帰戦も組まれているこの大会のメインイベントは、王者アレッシャンドリ・パントージャに豪州の新鋭にしてランキング10位のスティーブ・アーセグが挑戦するフライ級タイトルマッチだ。
Text by Isamu Horiuchi

王者パントージャは昨年7月、ブランドン・モレノと大激闘の末に2-1で勝利して悲願のベルト奪取に成功。試合後涙ながらに「これまで全てを賭けてやってきた。お母さんがたった一人で僕と2人の兄弟を育ててくれたんだ。(僕らを置いて出て行った)お父さん、これで僕のことを誇りに思ってくれるだろ?」と心揺さぶるスピーチを行なった。


続いて12月にブランドン・ロイヴァルとの初防衛戦に挑んだ新王者は、さながら挑戦者のように1R開始から拳を振るって突進。被弾上等で前に出ては捕まえて組み伏せる戦い方を貫いて3-0で完勝している。

対するアーセグは、元Eternal MMAフライ級王者にして、9勝1敗の戦績をもって昨年UFCと契約した28歳のダウンアンダーだ。UFC契約直前の試合では、日本の平井総一朗に1Rチョークで圧勝している。強力な柔術のバックグラウンドを持つパントージャとは対照的に、アーセグは19歳の時に地元の小さなジムにてはじめて経験した格闘技がMMAだという。

そしてそのジム(ウィルキスMMA)を離れることなく、地域に根を張るスモールチームで世界トップまで上がってきたという点でも、米国に移住してメガジムATT入りした王者とは対照的な道を進んでいる。

UFC初登場は昨年7月、マット・シュネルの代打として当時ランキング10位のダヴィッド・ドヴォルザークに挑んだ試合だ。2Rに綺麗な右ストレートをクリーンヒットさせ、さらに右ハイでダウンを奪ったアーセグは、3R終盤の勝負所でも相手の右に合わせて見事なタイミングのテイクダウンを決めて背中に付くことに成功。わずか8日前のオファーを受けてなお、打撃、組技、その両方の融合、勝負勘といずれもワールドクラスのものを見せつけて判定3-0で完勝し、鮮烈なUFCデビューを果たした。

11月のUFC二戦目ではアレッサンドロ・コスタに判定で競り勝つと、今年3月にて当時9位のマット・シュネルと対戦、2Rに右ボディからの左フックで沈めた。ベテラン相手に教科書の如きパーフェクトショットを決めてみせたアーセグは試合後「次はぜひトップ5と対戦したい」と語り、元王者ブランドン・モレノの名前を挙げた。

実はこの時、フライ級上位ランカーの中から王者パントージャへの次期挑戦者を選ぶことが困難な状況にあった。1位のロイヴァルにパントージャは昨年末の前戦にて完勝したばかり。2位のモレノは2月にロイヴァルとの接戦で敗れたところ。3位のアミル・アルバジは首の負傷で長期欠場中。4位のカイ・カラフランスは2連敗中。5位のマテウス・ニコラウは前戦でロイヴァルに敗戦。7位のマネル・ケイプは予定されていたニコラウ戦を体重超過と負傷により2度連続で飛ばしたところ。

8位のアレックス・ペレスは3連敗中、そして9位のティム・エリオットは年末に下位ランカーのスムダーチーに勝利して連敗を逃れたところだった。

ということで、唯一相応しい挑戦者は7位にしてプロデビュー以来無敗のムハマド・モカエフかと思われた。が、そのモカエフは3月のUFN238でペレスに再三テイクダウンを切られて大苦戦。試合終了寸前の数秒でスイッチからバックに付いて薄氷の勝利を挙げたものの、強い印象を残すことができなかった。

そこで同日に鮮烈なKO勝利を収めてランキング10位につけたアーセグが、UFCデビュー僅か4戦目にして──本人でさえ要求していなかった──フライ級タイトル挑戦権を得ることとなったのだ。

パントージャはこの件について「僕は映画『ロッキー』で、王者のアポロ・クリードがやったのと同じことをした──つまり、奴に世界タイトル挑戦のチャンスを与えてやったのさ!」とちょっと上手いことを言っている。

これに対してアーセグは苦笑混じりに「彼は映画をちゃんと観たのかな? 結局アポロはロッキーに負けたんだよ」と軽妙に切り返している。

そして一連の流れに誰よりも不満を抱くモカエフは「奴(パントージャ)は自ら(下位ランカーの)アーセグを選んだんだってよ!(爆) 」とSNS上で哀しく笑ってみせたのだった…

それはさておき、この試合の下馬評は当然のように大きくパントージャ有利と出ている。おそらくその主な理由は──実績や経験値において大きな差があること、王者の地元ブラジルでの開催ということ以上に──近年パントージャが見せてきた鬼気迫る戦いぶりにある。

テクニカルストライカーとは言えないパントージャだが、相手のパンチを顔で受けながら拳を振るい前進を繰り返す恐るべき心身の強さを持つ。この戦い方で、ボクシング技術の洗練度でははるかに上をゆくモレノからダウンを奪い、キレ味鋭いジャブを持つサウスポーのロイヴァルを金網に押し込んでは、幾度となくマットに組み伏せた。

そこで今回の試合の一番の注目点は、端正にして精度の高い打撃を使いこなすアーセグがいかにしてパントージャの強引な前進を捌くかだ。美しいフォームのワンツーを用いて距離の制御に長けているアーセグ。相手の拳を華麗なバックステップ&スウェイでかわすことも得意とする。全くの初心者だったアーセグを一から育て上げたウィルキスMMA主催のデイヴィッド・ウィルキスは「パントージャがスティーブを詰めようとしてくるのは分かっている。でもスティーブはそこを殺して距離を保つよ。イージーナイトになるはずさ」と自信を覗かせる。

が、アーセグはこれまでの試合で、強引に入ってきた相手の拳を避けきれずもらってしまう場面を何度か見せている。下がる時に左のガードが落ちることや、UFC初戦で解説のダニエル・コーミエに指摘されたように、ヘッドムーブメントをあまり用いないことが被弾が少なくない理由だろう。過去の両者の試合を見る限り、いくら序盤にアーセグがうまく戦い有効打で上回っても、どこかでパントージャの暴力的なまでの圧に飲み込まれ強打をもらう可能性が高いことは否めない。

この大一番において、アーセグはスタンド戦でこれまで見せてきた以上の空間支配と被弾回避のスキルを見せられるのか。それができた時、シュネルを一撃で沈めた拳が不倒王パントージャの顎をも撃ち抜く可能性が見えてくるだろう。

が、当然パントージャの武器はスタンドの強打だけではない。むしろその打撃の有効性は、強豪揃いのフライ級にて頭一つ抜けたグラップリング力に支えられたものだ。特にそのバック奪取とキープ力、極め力は圧巻だ。対するアーセグもテイクダウン対処時の流れるような体捌き、キレのあるギロチン、バックチョーク等組み技でも非凡なものを見せている。

しかしコスタ戦では金網に詰められて倒されて抑え込まれる場面もあり、王者の絶対的な体の圧から逃れるフィジカル&技術を持ち合わせているかは疑問だ。ケージ側でのテイクダウン回避や下からのスクランブル等でも、アーセグはこれまで披露してきた以上のスキルを発揮する必要がある。

両者のこれまでの戦いぶりを考えるなら、パントージャ有利は否めないこの試合。さらに王者には地元開催という地の利も加わることになる。10年以上前の修斗ブラジル大会以来のリオでの試合となるパントージャは「アンデウソン、ミノタウロ、ヴァンダレイ、ショーグン、テイシェイラと続くブラジルのヒーローの系譜に、今こそ僕が名前を並べる時がきた」と気合十分だ。

が、挑戦者はそこに付け入る隙を見出しているようだ。「パントージャは地元の人々の前でフィニッシュを見せようとして、いつもよりもさらに向こうみずな戦い方をしてくるだろうね」とにこやかに語る。8日前のオファーでランカー相手にUFCデビューという状況でもきわめてリラックスし、見事に力を出し切った強靭なメンタルを持つ豪州の新鋭は、リオの大観衆を凍りつかせるようなアップセットを引き起こせるのか。ブラジルで繰り広げられる両者の戦いは平良達郎、鶴屋怜というJ-MMAの未来が在籍するUFCフライ級戦線の頂点争いだけに日本のファンにとっても絶対に見逃せないファイトとなる。

■視聴方法(予定)
5月5日(日・日本時間)
午前7時00分~UFC FIGHT PASS
午後11時~PPV
午前6時30分~U-NEXT

■ UFC301対戦カード

<UFC世界フライ級選手権試合/5分5R>
[王者]アレッシャンドリ・パントージャ(ブラジル)
[挑戦者]スティーブ・アーセグ(豪州)

<バンタム級/5分3R>
ジョナサン・マルチネス(米国)
ジョゼ・アルド(ブラジル)

<ライトヘビー級/5分3R>
アンソニー・スミス(米国)
ヴィトー・ペトリーノ(ブラジル)

<ミドル級/5分3R>
ミシェル・ペレイラ(ブラジル)
イホール・ポティエリア(ウクライナ)

<ミドル級/5分3R>
ポール・クレイグ(英国)
カイオ・ボハーリョ(ブラジル)

<フェザー級/5分3R>
ジョアンデウソン・ブリト(ブラジル)
ジャック・ショアー(英国)

<女子ストロー級/5分3R>
カロリーナ・コバケビッチ(ポーランド)
イアズミン・ルシンド(ブラジル)

<ライト級/5分3R>
エルヴィス・ブレネウ(ブラジル)
ミクティベク・オロルバイ(キルギス)

<フェザー級/5分3R>
ジアン・シウバ(ブラジル)
ウィリアム・ゴミス(フランス)

<ライト級/5分3R>
ジョアキン・シウバ(米国)
ドラッカー・クローズ(米国)

<ライト級/5分3R>
マウリシオ・ルフィ(ブラジル)
ジェイミー・マラーキー(豪州)

<女子フライ級/5分3R>
ジオニ・バルボーザ(ブラジル)
エルネスタ・カレクカイト(リトアニア)

<ライト級/5分3R>
イズマエル・ボンフィム(ブラジル)
ヴィンチ・ピチェル(米国)

<フライ級/5分3R>
アレッサンドロ・コスタ(ブラジル)
ケヴィン・ボルハス(ペルー)

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