【Deep Emotion】ハッピーエンドなJ-MMA、行く年暮に――忘れてはならないことを胸に新たな1年へ
【写真】10カウントはなかったけど――9月17日、FORCE18.MMA Zジムの皆は笑顔だった (C)MMAPLANET
永遠に記憶に刻まれる名勝負や、忘れることができない悔しい敗北、2023年も本当に色々なことがあった。堀口恭司のプロポーズ成功で大団円を迎えたJ-MMA界、選手や関係者、そしてファンの間でも悲喜こもごもが見られた。
そんな2023年、忘れられない――ではなく、忘れてはいけない出来事が起こった。7月23日に開催されたプロ修斗公式戦に出場予定だったCHAN-龍こと岩本龍弥さんが亡くなった。CHAN-龍選手は前日計量に姿を見せず、「無断で計量を欠席した」という理由で参戦中だったインフィニティ・リーグ戦の出場権剥奪という処分が前夜に発表されていた。
処分の発表から、9日後に日本修斗協会から彼の死が明らかにされた。
それから約2カ月後、9月17日。CHAN-龍選手がデビュー戦を戦った修斗公式戦高松大会=FORCEの会場で、所属していたMMA Zジムの面々が彼のポートレイトを首に下げ、ケージに足を踏み入れていた。勝てば天に掲げられたポートレイト、そのストラップや幾人かは髪の色を鮮やかな赤色とし、亡きチームメイトを偲んだ。そして笑顔で見送った。
人の死、残された家族や友人。様々な想いがあり、いたずらに記事にできるものではない。ただし、彼の死が徳島で確認された前日に処分が下っていた計量及び減量問題をこの国のMMA界に生きる者は風化させてはならない。
MMAは競技であり、スポーツ。決まりが守られないと、成立しない。それでも計量失敗はついて回る。決してなくなることはない。出場停止や罰金というペナルティでは、抜本的な解決には決してならないだろう。だからといって、処罰は必要ないとは決していわない。選手が手にするファイトマネーに対して、論外な多額な罰金でない限り。
何よりペナルティを受けるのは選手個人であっても、計量失敗は決して選手個人の問題ではない。もちろん、落とせる努力をせずに体重を創らなかった場合は倫理的にも論外だ。と同時に自分が知る限り、そんな例はごくわずかだということ。
決して無くなることがない計量失敗を少なくするのは、計量失敗の責を選手にだけにおしつけないこと。そういえば選手とジムの指導者の問題だ――という論調になりがちだが、プロモーションも含め、業界全体で取り組むべき問題だ。
理想は他の地方からやってくる選手に関して、計量当日の移動をなくすこと。ファイナンシャルの問題が付きまとうが故に、簡単に解決できる問題ではない。ただし、その理想を持ち続けること。その意思を業界として持てるのかどうか。
加えて大会当日だけでなく、計量会場でのドクターの同席。ここはハードルも随分と低くなるのではないだろうか。
それも難しいというのであれば、計量ミスをした選手、ジム関係者がその要因をレポートしプロモーターだけでなく、他のジムとも共有すること。失敗した、罰金だ。出場資格停止だ――だけでは、その苦い薬を次に生かすことはできまい。この失敗例が可視化できる数ほど、選手、ジムは対策を練ることができる。しかも個々の意思のみで、支出にはならないはず。
交通事故の原因は、何もドライバーだけでない。だから砂利道は舗装され、水はけが悪いようだと排水設備を整える。ミラーや道路標識もそうだし、車も常にマイナーチェンジを繰り返している。計量失敗も同じだろう。選手だけに責任を押し付けるのではなく、この世界に住む全員が他人事でなく自分も関係していると(メディアも含め)捉えること。この真っ赤なストライプを目に焼き付けて、夢半ばにして――などという状況を再び生まないために、そして老弱男女が夢を見て、夢を託せる業界に近づくことを願いつつ、MMAPLANETの2023年を終えたいと思う。
読者の皆さん、良いお年を!!