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“毎試合がGP戦”マーカス・アウレリオ インタビュー

2008.07.03

 (C) MMAPLANET いよいよ今週末、5日(土・現地時間)に迫ったUFC86「JACKSON vs GRIFFIN」。ネバダ州ラスベガスのマンダレイベイ・イベントセンターで行われる同大会のメインは、TUFシーズン7のコーチ対決でもある王者ランペイジ・ジャクソン×挑戦者フォレスト・グリフィン。ともに前述したTUFの収録、中継という待ち時間があったため昨年9月以来のファイトとなる。

【写真】いよいよUFCの水にも慣れてきたマーカス・アウレリオ、柔術家らしい試合でタイソン・グリフィンを迎え討つ (C) MMAPLANET

「グリフィンはタフだ。でも、テクニシャンじゃない」
Interview by Manabu Takashima

このメインを筆頭に、9試合のラインナップは、最近の充実マッチメイクと比較するとやや小粒な感もしないでもないが、そこはUFC、TUF視聴者のライト感覚な目だけなく、しっかりとハードコア層が注目するカードを用意した。


それがミドル級のパトリック・コーテ×ヒカルド・アルメイダの一戦や、ライト級のジョー・スティーブンソン×グレジソン・チバウ戦、そして同じくライト級のタイソン・グリフィン×マーカス・アウレリオというマッチアップだ。

特にライト級は、今やウェルター級をしのぐ混戦状態となっており、日本でいえば多くの試合がDREAM GP戦のレベルにある。MMA PLANETでは今回、日本でもお馴染みのマーカス・アウレリオにスポットを当てインタビューを行った。

「王座奪取」へ向け、毎試合が負けられないタフなUFCライト級戦線で、ようやく本来の姿を見せるようになったアウレリオの口から、戦う当事者ならではというべき日本マットとUFC、繊細な相違点が語られた。

――前回、4月のライアン・ロバーツ戦では素晴らしい腕十字でタップを奪いました。これだけレベルの上がったMMA、しかも寝技は避ける戦いが主流になっているなかで、本当に見事な動きでした。

「テクニカルなファイトが重視されていないことは、僕も感じているよ。実際に体力勝負の殴り合いが多い。けれども、今でも少しはサブミッションを狙っているファイターがいる。テクニックで勝ちたいと思っているファイターがね。

それはやはり、柔術家だ。良い柔術家は、一本勝ちを今も狙い続けているんだ。僕の人生は柔術とともにある。つまり、僕はいつも一本を狙っている。サブミットすることこそ、僕が柔術から授かったもの。

相手がミスをしなければ、自分から仕掛ける隙をいつも伺う。動き続ければ、絶対に隙を見つけることができるからね」

――まさに前回の試合はそうでした。今のMMAにあってスタンドのパンチでダウンを奪い、パウンドを連打しつつ腕十字を極めたのが凄く新鮮に映りました。

「対戦相手がローリングをして逃げようとしていたからね」

――腕十字を失敗すれば下になってしまう、あのままトップキープで殴り続けるのが主流です。

「ガードになるのは、怖いことでも何でもない。腕十字で失敗してガードになる、それは僕が最も自信のあるポジションになるだけなんだ。失敗を怖がってトライしないのなら、戦っている意味がないと思う。仕掛けるチャンスがあるならトライする。そのために僕は戦っているし、トレーニングし続けているんだ。

勝つためにガードポジションが必要であれば、迷うことなくガードをとるよ。それに最近のMMAでは、まずパウンドのディフェンスを考えてくるファイターが多いから、実際は一本勝ちの機会は増えていると思う」

――なるほど、アウレリオ選手にとっては、極めるためのパウンドなんですね、今も。

「その通りだよ。相手が関節を極めるチャンスを与えてくれる、その瞬間を作るために殴るんだ。それが柔術家ってもんだろう? ギロチン、バックを奪う、腕を極めるという機会を作るために殴るんだよ」

――先日の試合が3度目のUFCの試合でした。初戦のクレイ・グィダ戦の判定負け、そして二戦目のTKO勝ち。4月の試合ではようやくオクタゴンに慣れたのか、アウレリオ選手らしい動きができたように見えました。

「そうだね、ケージでも十分に戦えるようになったと思う。最初のUFCはケージかリングかというだけでなく、日本とUFCの違いに戸惑ってしまい、それがファイトにも悪影響を与えてしまっていた。

日本で戦っているとき、観客席は試合に集中していたし、実際にファンが何かを叫んでも、それは僕には理解のできない言葉だった。それに日本にはキャットウォークがあり、リングに上がるまでに集中力を高めることができたんだ。

それがUFCで戦ってみると、観客席の相手を歩いてオクタゴンへ向かう。そのときにファンが体に触れてきて、叩くような輩もいる。彼らが話しかけてくる言葉が英語だから、何をいっているか分かるし、本当に戸惑ってしまったんだ。

『ぶち殺せ』だとか、『キック・ヒズ・○ス』だとか、僕が戦いに対して持っているイメージとは、全く違う言葉が頭の上から伸し掛かってきた。完全に集中力を失くしてしまったんだ。『なんだろう?この雰囲気は』ってね。

言い訳はしたくない。敗北は敗北、僕はグィダに負けた。あの夜、彼は僕より強かったんだ。ただし、あの試合の僕は本当の僕じゃない。クレイは本当に気持ちが良い奴で、僕らは友人のように話せる仲になったけど、もう一度彼と戦って、本当のマーカス・アウレリオを見せたいんだ」

――7月5日のタイソン・グリフィン戦で、アウレリオ選手が勝利すれば、ある意味、グィダ戦の敗北を払拭できるのではないですか。

「タイソンはタフ・ファイターだ。確かにクレイにも勝っている。そして、その勝利を含め、彼の勝ち方はいつも判定勝ちだ。微妙な判定勝ちも多いし、それだけ厳しい戦いで勝利を収める術を持っていると言えないこともないけど、クレイとの試合は、クレイの勝ちに見えた。そういう試合も多い。

とにかくコンディショニングに優れたファイターで、体力、爆発力が凄いね。あとはパンチ力、テイクダウンを避ける能力も特筆すべきものを持っている。とてもハングリーなファイターだよ。

ただし、テクニカルではない。僕は今、彼と同じように凄くハングリーだよ。コンディショニングだって、彼に負けないぐらい充実したトレーニングを積んでいる。試合中にガス欠することもないし、スタンドで倒すパンチも身につけた。

そして、グラウンドになればどこからでも彼を極める力を持っている。彼に対して劣る部分はない」

――UFCライト級の充実ぶりは凄いものがあります。一つの敗北が、タイトルショットを限りなく遠くしてしまいます。タイトルを狙う者であれば、絶対に落とせない試合です。

「その通りだ。タイトルショットにより近づくためにも、ここでは負けられない。今の僕の目標はUFCの世界王座、だから敗北は許されないし、タイソン・グリフィンに僕が負けることはない。タイソンに限らず、タイトルを取るためには誰にも負けられないんだ。だから、僕は誰とでも戦うし、誰と戦っても負けることはない」

――確かな事実として、8月に戦うケニー・フロリアンとロジャー・フエルタの勝者は、アウレリオ選手より先に王座挑戦の機会が与えられそうですが。

「2人とも強いけど、フロリアンが勝つだろう。彼には穴がない。ロジャーは気持ちのこもった試合ができる素晴らしい選手だ。一発のパンチで試合をフィニッシュできる。

ただし、彼もテクニカルな選手ではないんだ。フロリアンはテクニシャンで、柔術を理解している。ストライキングも問題ないし、フロリアンが勝つだろう」

――ズッファはランキングを作らない主義です。もし、ランキングがあればアウレリオ選手はライト級で何位ぐらいだと思いますか。

「トップ6、トップ7であることは間違いないね。つまり、僕より上に5人はいることも理解しているよ」

――そのライト級でナンバーワンのBJは、タイトル防衛よりもGSPへのリベンジ戦に興味を持っているようです。

「う~ん、彼がどうすべきか僕には分からない。ただし、BJは最強のファイターだ。彼がGSPと戦いたいと言っているなら、彼はその試合でも勝者になるだろう。2人とも、本物のなかの本物だ。前回の試合は非常に僅かな差でGSPが勝ったけど、試合後にBJはホテルにいて、GSPは病院にいた。僕はBJと戦いたい、彼の王座に挑戦できるなら最高だ。僕らは二人とも柔術家だし、柔術のテクニックが十分に活かせる試合になる」

――2人に共通しているのは、あの五味隆典選手を破っているという点ですね。

「僕は、負けてもいるけどね。確かにそうだ(笑)。ぜひともBJと戦いたいね。今、僕がUFCで戦っているのは、ここにファイターとして最高の環境があるからだ。でも、今も僕は日本のファンのことを忘れたことはない。

UFCで最高のファイターと戦い、またゴミと戦いたい。僕らは1勝1敗のタイスコアだ。決着をつけたい。UFCにはベストファイターが揃っているけど、タカノリ・ゴミがいないのも事実。僕が本当の意味でMMAファイターとしてのキャリアをスタートした日本、そのファンの前で彼と戦って勝ちたいと今も思っているよ」

マーカス・アウレリオ(Marcus Aurelio de Carvalho Martinz)
1973年8月18日ブラジル セアラ州出身
アメリカン・トップチーム所属
MMA戦績21戦16勝5敗

1995年にホイラー・グレイシーを柔術の試合で破り、強豪の仲間入り。その後、98年にブラジレイロで準優勝。フロリダに移住し、米国でMMAファイターに。2003年にZSTで鮮烈の日本デビューを飾り、ZST GPで優勝後、PRIDE武士道へ。

06年4月に五味隆典を肩固めで下す。7カ月後にはスプリットの判定でリベンジを許し、決着戦が望まれたがPRIDEが活動停止に。07年8月よりUFCをホームに戦うようになった。

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