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【Fight&Life & ADCC Asia & Oceania Trial】ADCC予選へ、森戸新士「家族や仲間の存在が自分の力に」

【写真】競技として柔術とグラップリングは別モノであると思いますが、グラップリングを修めようといういう姿勢は生き方として柔術家だと感じます(C)MMAPLANET

現在発売中のFight&Life#99で11月25日(土・現地時間)にシンガポールはジュロンイースト・スポーツセンターで開催されるADCCアジア&オセニア予選に出場する森戸新士のインタビューが掲載されている。

岩国と広島に柔術道場を持つ。経営&指導でありながら、毎月のように道着&ノーギ、プロ&アマ・トーナメントに数多く出場する森戸にとってADCC出場の意義と、柔術家として取り組みを尋ねた同インタビューを全文掲載したい。


──昨日の全日本柔術選手権、ライト級と無差別級で3位でした。

「階級別も無差別も初めて試合をした大浦マイケ選手、グラント・ボクダノフ選手に準決勝で負けてしまいました。マイケ選手は茶帯で勝ちまくっていた選手で、自分の形を創る前に崩されてしまいした。素直に完敗でしたので悔しくて、やり返したい気持ちでいっぱいです(苦笑)」

──無差別の準決勝はポイントを取り合って同点でレフェリー判定負けだったと。マイケ選手もグラント選手も年下です。国内において下の世代が上がってきたことに関しては、どのように捉えていますか。

「そういう年齢になってきたな、と(笑)。僕が黒帯になったのが2018年、あの時には『やっと黒帯の強い選手を倒しにいける』と思っていました。思ったことを実現してきて、今は茶帯から上がってきた強い選手を倒す立場になった。でも今回は倒されたから、やり返したいです」

──それにしても1週間前にグラジエイターで暫定王座決定戦を戦い、世羅智茂選手を破って王者になったばかりでした。ケージ・グラップリングと畳の道着、もう完全に別モノかと。強行スケジュールで、どちらに比重を置いていたのですか。

「今回はノーギの方でした。ただ普段からノーギの試合前でも道着の指導をしていますし。そのままスパーにも加わっているので、どちらも練習しています。ただフォーカスしていたのはノーギですね。道着の方は3、4回ほど練習しただけでした。なので全日本は出場するかどうか迷ったんですけど、これでは来年のムンジアルで勝てないと思い知らされたので、出て良かったです」

──たまたまグラップリングの試合が前だったから、比重を置いていたのでしょうか。

「今回はタイトル戦で、世羅さんにはノーギで1度負けているので。ちゃんと取り返しておきたいというのがありました」

──4-2でしっかりと確実に勝った。そういう印象の試合でした。

「ルール的に上の取り合いになると分かっていましたし、そのつもりで準備もしていました。しっかりと勝てたことは良かったです」

──それにしてもグラジエイター、FINISHというグラップリングのプロマッチ、プロ柔術でもKITとART。そして全日本やアジア、全日本ノーギともの凄い数の試合に出場していますね。

「基本的には月に1度は試合をしていると思います。でも僕は試合が終わると、もう過去のことになっちゃうんです(笑)。次のことしか考えないので」

──現役生活と指導者生活、これだけ試合に出ていてなお、バランスが取れているのですね。

「基本、オファーがあったら断らないようにしています。呼ばれているうちが華なので。大きな舞台で活躍したいですし、その過程でもあるので数もこなしていきたいです」

──そういうなかで旅費、出場費を払うトーナメントと足代が出てファイトマネーのあるプロの試合では、捉え方は違ってきますか。

「試合は始まれば同じなので、あまり違いとかは考えないです。エントリー費用で1万円払うのも経験値を積んで、実績を創るためです。それにトーナメントは試合数が多くて、その分練習で取り組んできたモノを試せて成長できます。勿論、ファイトマネーが少しでも多い方が良いですけどね(笑)。それにプロの試合は旅費の負担がないのも助かります。そこに呼んでもらえていることが、有難いです。そういう舞台で戦うと名前も売れますし、ジムの宣伝にもなるので。プロマッチは相手が強い人しかいないのも良い点です」

──森戸選手はいつ頃からグラップリングの試合に出て、ADCCを目指すようになったのですか。

「初めてグラップリングの試合に出たのは2019年のADCCアジア・オセニア予選でした。岩本健汰選手が66キロ級で代表になった時です。僕は77キロ級に出場し2回戦でラクラン・ジャイルスに内ヒールで負けました」

──ラクランはその年の世界大会では無差別級で3位になるなど、足関節で旋風を巻き起こしたグラップラーですし、初のグラップリングでは致し方ない結果かと。

「あの時は柔術の練習の時に道着の上だけ脱いで藤田(善弘。藤田柔術代表)先生とチョロッとやっただけで出ていました。で足関を創られて、逃げ方も分からず足首とヒザを少し鳴らされてタップしました」

──なぜ予選に出ようと?

「当時はまだ会社員で、仕事をしながらでも選手として活躍したいともがいていた時期で、大きな大会は全て出ようとしていました。それで、取りあえず出てみようと。振り返れば、まぁ……どうやって勝つつもりだったんだろうとは思います。同時にそれぐらいのマインドを持っていないと、ああいう舞台には出ていなかったでしょうし。僕は試合に出て、課題に直面して直していくようにしているので」

──柔術では禁止されている内ヒールで敗れて、これは別モノだから構わないという気持ちには?

「ならなかったです。あの後のラクランの活躍も見て、自分もグラップリングを頑張ろうというきっかけになりました」

──別モノだという考えにはならなかったということですね。

「別モノという考えもあると思います。ただADCCの入賞者を見ても柔術家が多かったです。コブリーニャ、ダヴィ・ハモス、2連覇のJT・トレスと。柔術家がADCCルールに対応するために練習をして結果を残している。つまり柔術はグラップリングで生きているということじゃないですか」

──ハイ。

「グラップリングを戦う上でも柔術の練習が無駄になるとは思わないので、それほど分けて考えることはないです。ただし、グラップリングに特化して練習した方がADCCでは結果を残せるとは思っています。ムンジアルとADCCの両方を狙うよりも、どちらかに集中した方が成果は出しやすい。それでもミカ・ガルバォン、ジオゴ・ヘイス、ファブリシオ・アンドレだとか、ルオトロ兄弟もそうですが、両方で活躍している柔術家も多くて。僕が目指したいのはそういう選手です」

──まさにその言葉通りの活躍を国内ではできています。両競技に出る利点はどこにあると考えていますか。

「利点……利点というか、両方とも楽しいです。道着もアジアの前に集中して練習していると、掘り下げる分だけ新しい技術が見つかって。その時は道着にハマります。でもノーギの大会前はレスリングもそうだし、新しい技術にハマります。一方に集中した方が、競技者としては上達すると思いますが、両方とも楽しいから、今のところは両方で頑張りたいという気持ちです」

──コンペティションに出る理由も楽しいからでしょうか。

「そこに対する取り組みも、ですね。もちろん、試合だから精神的に負担もあります。ただ挑戦していること自体は楽しいです」

──楽しめなくなる。それも競技者生活の一面ではあります。

「注目が集まり過ぎると、そうなるんじゃないでしょうか。マイナー競技だから、楽しめているのかもしれないです。ただゴードン・ライアンが楽しめているとは思えないですね(笑)。ウィリアム・タケットも『試合に出ることはストレスだから、ずっと競技者をやっていこうとは思っていない』と言っていました。弟のアンドリューは、ただ楽しいって感じですけど(笑)」

──なるほどぉ。これは絶対的に否定していることではなくて──。森戸選手が全日本柔術の週末に子供さんの運動会に行かれていたことは、正直驚きました。

「日程的に可能であれば、どんな大きな大会前でも娘の運動会には行きますっ!! 」

──かつかつに体重を落とすわけでないですし。そういえば、MMAでも計量後に運動会に駆けつけている選手もいました。

「僕は減量を余りしないのですが、そりゃあ娘の運動会は大切です。むしろ、そこから活力を得ないといけない。そのために日々を頑張っているので」

──昭和親父として、頭が下がります(苦笑)。

「競技を続けることは当然、楽しいだけではないです。今の僕は道場経営で生活を成り立たせているので、自分の実績も今後の経営に関係してきます。何より応援してくれる家族、生徒さんやスポンサーさん達の生活も僕が活躍することで豊かになってほしいし、自分の心も豊かになれるので競技を頑張りたいです」

──今年は1月にジョセフ・チェンに完敗を喫しました。自らの努力を否定されかねない敗北だったかと思うのですが、心を豊かにするのとは真逆で絶望感を持つことは?

「自分がジョセフの域まで達していないだけで、でも強くなっている実感があります。これだけ強い人がいるのだから、もっと頑張ろうという気持ちになりました。強い選手と肌を合わせられて良かったと思います。戦う舞台が世界になると、ああいう選手が揃っているので。現にジョセフはノーギだと過去一で強かった。ジョセフ・レベルの選手がADCCの世界大会に出る。そういう選手と日本で試合ができて、差も分かりました。そこをどう埋めていくのかという過程に今はいます」

──あの試合以降、森戸選手のグラップリングは技術的に変化しました。ラクランの足関から始まったグラップリング挑戦ですが、この競技自体に技術変遷が見られます。

「今では足関は必須科目です。主流の技術が代わり、その技術を修得していく過程はやはり楽しいです。強くなることが実感できるので」

──その成果を発揮する舞台が、 11月25日のADCCアジア・オセアニア予選です。

「ADCC世界大会は僕の目標とする大会の一つです。招待選手でもない僕は、そこに出るには予選で勝つしかない。もちろん、そこに賭ける想いはあります。そのために練習をしているので」

──その練習環境としては広島&岩国だと、首都圏のコンペ練習がある道場とはまた違ってきます。首都圏ではMMAファイターのプロ練習に参加する選手もいますし。

「練習環境の差はどう見てもあります。でも僕はこのジムを自分で起ち上げて、通ってくれる生徒さん、出稽古で来てくれる練習仲間──皆で強くなっていこうという気持ちでやっています。取り組み方次第で、練習環境の差は埋めていける。結果を残して、ソレを示していきたいという想いでやっています」

──アジア・オセニアニア予選、豪州、あるいは中央アジアからどのような選手が出てくるのか分からないですが、前回優勝の岩本健汰選手が優勝候補一番手だと思われます。東京やB-Teamで練習する岩本選手を相手にして、今の言葉を実践できるのか。大勝負ですね。

「う~ん、ADCCルールの実力でいえば向うの方が全然上です。ジョゼフに勝ち、ウィリアム、ダンテ・リオンという世界のトップと張り合える選手との試合を見ても、岩本選手はめっちゃ強いです(笑)。でも、そこに挑んでナンボなんで。やるからにはもちろん、自分の持っているモノを全部出して勝ちに行きたいです」

──岩本健汰になくて、森戸新士にある長所とは?

「柔術の極め。岩本選手もスクランブルが強いですけど、自分も意外と得意なので、そこで驚かせることもないことはない。そういうところでチャンスを創りたいです。僕はコロナの時に米軍基地での指導という仕事を失って、あの時に柔術を教えていた生徒さんの助けがあって、家族と生き抜くことができました」

──……。

「LEOSを創る前、結婚をする前、子供が生まれる前は自分のことしか考えていなかったです。今は柔術だと試合会場に仲間と一緒に行き、プログレスとか自分だけの試合でもセコンドで仲間が来てくれます。試合直前まで支えてくれて、応援してくれる家族や仲間の存在は、明らかに自分の力になっています」

──圧倒的な実力差があるケースを抜きにして、競り合った時にその想いが森戸選手のエネルギーになりそうですね。

「より一層負けられないという気持ちが大きくなります。試合前も娘の写真を見て……だから運動会にも行くし(笑)。奥さんから娘が『頑張ってねぇ』と言っている動画が送られてきます。道場の皆のメッセージを読んで、動画を見ると良い感じで緊張が取れて『やるぞ』と気持ちを切り替えることができるし。そんな皆のためにも頑張りたいです」

──では改めてADCCアジア・オセニア予選に向けて、意気込みの程をお願いします。

「ADCCアジア・オセアニア予選はレベルも凄く上がっていて、メンバー的にも過酷なモノになると思います。インターバルも短く体力的にも厳しいです。勝ち上がれば勝ち上がるほど厳しい状況になりますが、一つひとつ勝ち進んで──代表権を掴み取りたいと思います」

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