ヒョードル撃破から38日、ファブリシオ・ベルドゥム
6月26日(土・現地時間)、エメリヤーエンコ・ヒョードルと対戦し、三角絞めから左腕を極めてタップを奪ったファブリシオ・ベルドゥム。あれから38日、世紀の番狂わせといわれた大勝利を挙げた彼が、カリフォルニア州シールビーチにあるアフリクション・ジムで再び汗を流し始めた。
【写真】盟友ヘナート・ババルと、力の入ったスパーリングを繰り広げるファブリシオ・ベルドゥム (C) MMAPLANET
ヒョードル戦の勝利、そして――これからを尋ねると、一つの勝利で、これだけ貫禄がつくのかと驚かされるばかり、一つ一つの受け答が自信に溢れるベルドゥムがそこにいた。
――前回ムンジアルの会場でインタビューさせたもらった時、ファブリシオ・ベルドゥムはヘビー級MMAファイターの一人でしかなかったのですが、今や最も重要なファイターの一人になりました。エメリヤーエンコ・ヒョードルを破って、人生が変わったのではないでしょうか。
「ヒョードルと戦う前に、僕が勝つと思っていたのは僕自身、家族、チームメイト、そしてコーチのハファエル・コルデイロだけだった。そして、試合後はみなが僕の力を認めてくれるようになった。これは、全てが変わったといってもよい変化だよ。
ただし、何が一番重要なのかは分かっている。それは試合前から僕を信じてくれたコーチ、チーム、家族だよ。ハファエルには本当に感謝している。彼は僕の全てを見ていてくれた。ケガもあったし、4月、5月と試合がずれて、集中力を失いかけたときも、ハファエルが注意してくれたから、ずっとシリアスにトレーニングを続けることができた。
6月26日以降、スペインにあるヴェルドゥム・コンバット・チームへの入門希望者も増えたし、セミナーの誘いも増えた。そして、インタビューも数多く受けるようになった。凄く嬉しいよ。新しく生まれ変わったみたいだ」
――それこそ大きなパーティが必要だったのではないですか。
「そうだね。ハリウッドで家族やチームの皆が揃って、大騒ぎをした。ヒョードルに勝った日は特別の夜だから、年に2度ほどしかない飲まない酒を口にしたよ(笑)」
――試合前にチャンスがあるとすれば、それは勿論グラウンドだと思っていました。ただ、トップから肩固め、あるいはバックをとってリアネイキドチョークなど、絞め技ではないかと予想していたんです。まさか、ガードからの仕掛けで一本勝ちすることは予想できませんでした。
「誰もヒョードルを極めたことはなかったからね(笑)。そして、誰もがパウンドの強さを知っている。全てはトレーニングの成果だよ。多くのファイターは試合に向けて2ヵ月ほどキャンプをはるけど、僕の場合は6ヶ月に渡ってキャンプを続けた。ハファエル、柔術コーチのハチーユ・コートがずっとトレーニングに付き添ってくれたんだ。
【写真】ババルとともに、コーチのハファエル・コルデイロを肩車。ハファエルとベルドゥムはシュートボクセ以来の付き合いになる (C) MMAPLANET
僕が勝つのはグラウンドしかなかった。だからこそ、あらゆる状況でどのように動くかを繰り返しチェックし続けた。スタンドで戦うつもりはなかったよ。スタンドはグラウンドへ導くための誘い水、戦う振りでしかなかったんだ。
ヒョードルはパンチで、僕をダウンさせたと思ったに違いない。でも、パンチは僕の顔を捉えていない。形として引き込むことになった。それこそ、僕が望んでいたポジションだったんだ。
僕は自分の柔術を信じていた。だからこそ、ガードで戦いたかった。正直、あんなに早く勝機が巡ってくるとは期待していなかったけど、だからこそ、このチャンスを逃してはいけないと思ったよ」
――1Rで巡ってきたチャンス、汗をかいていなかったことも勝利の要因ではないですか。
「そう、試合前から言っていたんだけど、一番勝機があるのは1Rだと理解していた。1Rはそれほど滑ることがなく、タイトに攻めることができるからね。
1Rのあの時点で、しっかりとトライアングルとアームバーのという、僕が得意としている形に入ることできた。首と腕を同時に守るのは、ヒョードルでも難しいことなんだ。首、腕と常にスイッチしながら攻めていたからね。
アレを仕掛けられると、対戦相手はどっちを攻められるのか、凄く混乱する。そして、ディフェンスが疎かになるんだよ」
――あの時、全ての力を使いきってもよいという気持ちで技を仕掛けましたか? それとも、逃げられた時のことを考慮し、力をセーブした部分もあったのでしょうか。
「100パーセント全力で仕掛けたよ。最大のチャンスだと思ったし、ヒョードルの強さも分かっていた。だからこそ、僕の柔術、僕の三角絞めを信じて、力を込めた。それに途中から、極めることができるって……、ヒョードルはタップをするか、失神するって確信を持てたからね」
――ヒョードルが鉄槌を落としたときも、キャッチしていた左腕を外すことなく、掴み続けていました。ヒョードルの拳を受けて、腕を離さなかったことが驚きです。
「顔を守るより、腕を攻め続けることしか考えていなかった。僕の顔は堅いから、少しぐらいは殴られても平気なんだ(笑)。一発、結構、厳しいのを貰ったけど、顔を守ることよりも、あのまま技を完成させることしか考えていなかったよ」
――この後は、ヒジの手術をして、しばらく実戦から離れると聞いています。次はいつぐらいに試合をしようと思っているのですか。
「まだ分からない。今は、この勝利に浸っていたいんだ。ようやく練習を始めたばかりだし。戦える時期がやってくれば、ヒョードルとのリベンジか、アリスター・オーフレイムの持つ世界王者に挑戦したいと思っている。ストライクフォースが望む試合をしていくつりだよ」
――ところでファブリシオがヒョードルに一本勝ちをした1週間後に、UFC世界ヘビー級選手権試合が行なわれ、ブロック・レスナーがシェーン・カーウィンに逆転の肩固めを極めて、最高に盛り上がりを見せました。
「レスナーは体が大きくてタフだ。ただし、テクニック的には未熟だ。僕がブロック・レスナーと戦えば、腕十字で試合を終わらせることができる。右腕に正しい腕十字を仕掛け、タップを奪ってみせるよ」
――なるほど、相当自信を深めたようですね。最後に日本のファンに一言お願いします。
「可能なら、10月ぐらいに、懐かしい日本を訪れることができないかと思っているんだ。僕にとってPRIDEは今もベストイベントだし、日本のファンのようにファイターを尊敬してくれる人々のことが忘れられない。
あれだけ多くの人々が、ファイターをリスペクトしてくれると、もの凄くモチベーションになるんだ。米国のファンも大歓声を送ってくれる。でも、日本のファンと同じではないからね。日本には10度ほど訪れたけど、もっと訪ねたい。次に日本に行く機会ができれば、僕がどうやってヒョードルを極めたのか、全てを披露するよ」