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【Bellator297】充実=ワジム・ネムコフ✖不可解な言動多発=ヨエル・ロメロ。世界LH級選手権試合展望

【写真】ロメロは試合内容は不安。試合後、どのようなぶっ飛んだことを話すのか──は楽しみ (C)BELLATOR

16日(金・現地時間)、シカゴのウィントラスト・アリーナにてベラトール 297「Nemkov vs Romero」が行われる。
Text by Isamu Horiuchi

バンタム級正規王者のセルジオ・ペティスに、現フェザー級王者にして元ライト級王者でもあるパトリシオ・ピットブルが挑戦し3 階級制覇に挑む試合をコメインとするこの大会のメインイベントは、長期政権を築く王者ワジム・ネムコフに46歳のヨエル・ロメロが挑戦するライトヘビー級タイトルマッチだ。

チーム・ヒョードルのメンバーとして日本のファンにも知られているネムコフは、2013年に祖国ロシアでMMAデビュー。2015年からRIZINに参戦し、同年大晦日のイリー・プロハースカとの大激闘(※1R10分終了時にネムコフが試合続行不可能となりTKO負け)等の記憶に残る戦いを見せた。

その後2017年にベラトールに移籍し、2020年8月にライアン・ベイダーを右ハイからのパウンドでTKOに下しライトヘビー級王座に輝くと、2021年~2022年には王者として参戦したライトヘビー級GPも制覇。防衛回数を3に伸ばすとともに、ベラトールでの戦績を9戦無敗(1NC)としている。


前述のベイターのほかに、フィル・デイヴィスやコーリー・アンダーソンといった元UFCのライトヘビー級上位ランカーをことごとく倒してサークルケージの頂点に君臨するネムコフ。UFCの同階級に突出した王者が存在していないこともあり、現在ライトヘビー級世界最強の座にもっとも近い場所にいるとされる選手の1人だ。

ちなみにプロMMAと並行してコンバット・サンボの大会でも活躍し、2014年に成田で行われた世界大会の100キロ以下級優勝を皮切りに、2019年の韓国・清州での世界大会まで合計4度世界王者に輝いている。

対するロメロも、フリースタイルレスリング85キロ以下級キューバ代表として1999年世界大会優勝、2000年のシドニー五輪で銀メダルを獲得したスーパーアスリートだ。2009年にMMAデビューし、Strikeforce参戦を経て2013年に36歳でUFCデビューを果たした。ミドル級で大活躍を見せたものの、2度にわたる計量失敗もありタイトルとは縁がなく、2020年7月に王者イスラエル・アデサニャに挑戦して敗れた後にUFCをリリースされてベラトールに移籍。

以降ライトヘビー級で戦い、初戦こそフィル・デイヴィスに敗れたものの、その後2連勝を飾り今回のタイトル挑戦にこぎつけた。

両者の現在の立場と年齢差を考えたらミスマッチとも取れるこのカードが、軽量級スーパーファイトを差し置いてメインとして組まれた大きな理由は、UFCで派手な活躍を見せてきたロメロの知名度にある。

その年齢からは通常あり得ないようなしなやかで若々しい身体を保ち続け、テイクダウンに加えて凄まじい爆発力の打撃をもってリョート・マチダ、クリス・ワイドマン、ルーク・ロックホールドといった歴代王者たちから圧巻のKO勝利を奪ってきた。

さらに当時ATTで一緒に練習していたホルヘ・マスヴィダルが、既に30代後半だったロメロは器具を使わず、もっぱら腕立て、懸垂、ジャンピングスクワットといった自重トレーニングを繰り返してその身体を保っていたと証言。常識では計れないロメロの肉体の神話をさらに強めることになった。

そんな驚異のロメロだが、極度に慎重な戦いぶりを見せることもしばしばだ。上述のアデサニャ戦では5R通してほぼ動かずに待ちに徹し、やはり警戒しながら戦った王者のローを被弾し判定負け。試合後のインタビューでは一転して──試合中には決して見せなかった──凄まじいテンションを発揮し「こんな試合は誰も望んでいない! ファンは一生懸命働いて俺たちの試合にお金を払ってくれているんだぞ!」と、自身の戦い方を棚に上げて激昂。

そんな理解困難な言動もまた、ロメロの謎めいた魅力を増している。階級をライトヘビーに上げたベラトールでの試合でも、以前ほどの軽やかさは見られないものの、予測困難な戦いと言動は相変わらずだ。

移籍後初戦のデイヴィス戦は、またも積極性を欠く戦いの末に2、3Rにローを効かされてテイクダウンを許し完敗。が、試合終了後に大声で「3Rで終わりなのかよ! (=5Rだと思っていたのに) Fxxk!」と叫ぶ意外すぎるリアクションを見せ、さらに2&3Rは誰が見てもデイヴィス優勢だったにもかかわらず、ジャッジの一人がロメロ勝利とする謎スコアまで発生したのだった。

期待を裏切る試合ぶりに限界説が囁かれたロメロだが、45歳で迎えた次のアレックス・ポリジィ戦では、天賦の反射神経を用いたカウンターと爆発的な飛び込み打撃で何度もダウンを奪う驚愕のワンマンショーで大勝した。

続く3戦目のメルヴィン・マヌーフ戦ではまた慎重な戦いを見せたが、3Rにケージに追い詰めてテイクダウンで上を奪取すると、凄まじい威力のパウンドとヒジで仕留めた。圧倒的な瞬発力、そして──通常加齢とともに真っ先に衰えるはずの──反応速度をいまだに保持しているロメロ。これほど”freak of nature”(自然の気まぐれから生まれた異常種)という形容が相応しい人間もいない。

しかし王者ネムコフは、そんなロメロに「彼は人気やUFCでの実績が評価されてタイトル挑戦権を掴んだと思う。実力的にはデイヴィス、アンダーソン、ベイダーに次いでランキング4位ではないか」と厳しい評価を下す。さらに「年齢的に彼にはレスリングの攻防は重荷となるのではないか。だからロメロは自分と打撃で戦おうとすると思う。自分もそこで勝負してフィニッシュしたい」と自信を覗かせている。

並いる強豪たちを相手に、常に打撃で主導権を握り長期政権を築いてきた王者。長く鋭いジャブを起点に積極的に仕掛けつつ出入りに長けており、ロメロのカウンターが届く危険な距離に留まることはないだろう。遠い距離からの右のカーフキックも得意としており、かつてアデサニャやデイヴィスにローで削られたロメロにとっては、厳しい戦いになることが予想される。

ネムコフはデイヴィスやアンダーソンとの初戦ではテイクダウンを許し、防戦一方に追い込まれた過去がある。もしロメロが王者の予想を裏切ってテイクダウンに成功すれば、勝ち筋は大きく開けてくるだろう。

が、ネムコフは両者との再戦ではいずれも見事な修正を行ない、テイクダウン封じに成功して快勝した。2戦目で敗れたアンダーソンは「ネムコフは前回よりジャブの踏み込みを少し浅くし、そのぶん肩を伸ばしてこちらがテイクダウンしにくいようにしてきた」と王者のアジャストメントを称えている。

レスラー上がりの元UFCトップランカーをことごとく打ち破ってきた機動力に優れた王者──現在30歳で身体的にも絶頂期を迎えつつある──を、加齢と共に階級を上げたロメロが倒して押さえ込むのは容易ではあるまい。

が、かくも不利な状況であっても、人智を超えた能力の爆発を期待させるのがロメロだ。かつて日本で名前を挙げ──当時死闘を繰り広げたイリー・プロハースカとともに──今やライトヘビー級世界最強の一角を占める王者ネムコフと、世界で最も驚くべき身体の持ち主ロメロの激突。何か途轍もないことが起こるのか、それとも起こらないのかも含めて楽しみにしたい。

■視聴方法(予定)
6月17日(土)
午前6時30分~ U-NEXT

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