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【ADCC2022】77キロ級決勝。ケイド・ルオトロがミカ・ガルバォンを内ヒールで破り──全試合一本で優勝

【写真】双子でも、どこかタイの後塵を拝すという格が存在していたケイドだが、最年少ADCCウィナーの称号は両者の格の差を完全に埋めた(C)SATOSHI NARITA

17日(土・現地時間)&18日(日・同)にラスベガスのトーマス&マック・センターにて開催された2022 ADCC World Championshipが開催された。
Text by Isamu Horiuchi

ADCC史上、他のグラップリングイベントの追随を許さない最高の大会となったADCC2022を詳細レポート。第6 回は77キロ級の決勝戦のケイド・ルオトロ×ミカ・ガルバォン戦の模様をお伝えしたい。


<77キロ級決勝/20分1R& ExR10分2R>
ケイド・ルオトロ(米国)
Def. 11分51秒by ヒールフック
ミカ・ガルバォン(ブラジル)

18歳のミカと19歳のケイドによる決勝戦。ミカはケイドの双子の兄タイとは、一年前のWNOチャンピオンシップ決勝、今年の柔術世界選手権決勝で対戦。前者ではタイがミカの攻撃を遮断し続け攻防の少ない展開が続いた末、レフェリー2-1でタイの勝利。後者では道着を掴んで逃さなかったミカがポジショニングで圧倒して勝利している。が、ケイドとミカは今回が初対決だ。

準決勝までの試合ぶりと同様、スタンドで前に出るミカ。対するケイドは柔らかく動き、ミカの頭をいなしたり足に手を伸ばすフェイントをかけてゆく。

やがて距離を詰めたミカは、ケイドの左足を掴んでから左ワキを差す。ケイドは得意の小手に巻いての内股でカウンター。堪えたミカは自ら回転して上を狙うが、ケイドは一瞬早く旋回して上をキープした。本来、相手の動きに合わせて「後の先」を取るミカから、ケイドが後の先を取った形だ。

ハーフ上からがぶって必殺のダースを狙うケイド。ミカが防ぐと、ケイドは枕を取って顔を上腕で圧迫する。上半身を制されたミカだが、足を利かせてケイドを浮かせてオープンガードに戻してみせた。

さらにミカは内回りからインバーテッドで崩しにかかる。が、ケイドはそこにカウンターで飛び込むようにバック狙いへ。ミカは距離を保って防ぐものの、ケイドが上をキープした。ここまでの攻防、普段は相手の動きを切り返すミカだが、ケイドに先を行かれている。

ミカは足で距離を作ってシッティングへ。立ち上がったケイドはニースライスを試みる。ならばとミカが下からケイドの左足を抱えて回転して50/50で絡むと、左足に内ヒールを狙う。ケイドが回転して逃れるや、ミカはシットアップしてボディロックを作り──上を狙う。ケイドは体勢を立て直して、再び小手から内股に。きれいにミカを投げてみせたケイドが、またしても上をキープした。

クローズドガードの中から、ミカをリフトして立ち上がるケイド。やがてミカは下に降りてスピンし、ケイドの左足に絡んで引き出して肩にかける。そこからケイドの動きに乗じてヒザ固めの形を作ったミカは上を狙うが、ケイドは卓越したバランスで上をキープする。

ケイドはミカに足を絡まれながらも体重を預け、上から腕でミカの顔を圧迫してゆく。ミカは再びヒザ固めに入るが、ケイドはヒールでカウンター。逃れたミカは再びシットアップで上を狙うも、ケイドはまたしても小手からの投げで対抗。ここでミカは回転の方向を変えるが、ケイドはここも大きく旋回して着地し、決してミカに上を取らせない。

背中を付けるミカに対して、ルオトロ兄弟の代名詞である相手の足を踏みつけてのパスを見せるケイドは、やがてミカのオープンガードの中に入り、上から腕で顔を圧迫する。

下から足を絡め、ケイドの左足を引き出して肩にかけるミカ。ケイドは空いているミカの左足にエスティマロックを仕掛ける。それをやり過ごしたミカは下から外ヒールを仕掛けるが、ケイドは素早く反応して抜く。

50/50で右に絡んだミカは、今度は腹這いになってのストレートフットロックを狙うが、ケイドはここも回転して抜いてみせた。一回戦のラクラン・ジャイルズ戦同様、卓越した足関節への対応力だ。

立ち上がって右でニースライスを作るケイドと、ハーフで絡むミカ。やがて試合は10分を経過して加点時間帯に入るが、両者とも最初からポイントはあまり気にかけていないようで、ケイドが上からプレッシャーをかけ、ミカがインバーテッド等で防いで反撃を試みるという攻防が続く。

ケイドの侵攻に対し、足を利かせて凌ぐミカは内回りしながらケイドの左足に両足で絡む。さらに右足も引き寄せて煽るミカだが、ケイドはミカの体の上に座るようにバランスを保つ。

柔軟な股関節を利して、自らの左足を下からケイドの股の間にねじ込むミカ。その左足が伸びてきたのを見たケイドは、それを瞬時に左ワキに抱えるとともに前にダイブして内ヒール一閃。ミカは即座にタップした。

会場が爆発するなか勝利をアピールするケイドは、「やられた」という表情のミカとハグして健闘を称え合い、歓喜のバク宙を決めてみせた。

世界最高峰の選手たちが集まるこの大会にて、特に強豪が勢ぞろいして最も熱い注目を浴びたのがこの77キロ以下級だ。そこで4試合全て一本勝ちという驚異的な内容をもって、19歳のケイド・ルオトロが史上最年少のADCC世界王者に輝いた。

実況のケニー・フロリアンからインタビューされて、満面の笑顔で「今の気持ち? アンリアルだ。言葉が出ないよ!」と答えたケイド。

(ミカと過去に試合している)兄のタイの経験は役に立ったのかという質問に対しては「それはものすごく大きかったよ。いくつもポイントを教えてくれたんだ。兄は何度もミカと戦っているけど、僕はこれが初対戦だったからね。ディアズ兄弟はこんなふうに言っていたらしいね。『まあアニキに何か具体的なアドバイスを頼めばなんか言ってくれたと思うけどよう、でもアニキはその前に『おめえ、あのクソ野郎をぶっ飛ばせよ!』って俺に言ったんだよ』ってね。とにかく今はホッとしているよ。そして最高の気分だ!」とジョークを交えて答えてみせた。

実際にこの試合においてケイドは、天下一品の反応速度を持つミカのカウンターのことごとく先を行き、決してミカに上のポジションを与えることがなかった。ミカの強さを誰よりも体感している兄の存在が、この勝利の鍵の一つだったのだろう。

そして、この新世代頂上決戦に唐突なエンディングをもたらした最後の極め。急速な技術進化とともに足関節のポジションのセッティング方法がどんどん洗練されてゆくなかで、それとはほぼ無関係に試合の流れの中でチャンスと見るや即座に動き、躊躇せずにダイブしながら極めてしまう反応力と発想の自由さは特筆に値する。逆に言えば、ダナハー以降「サドルや50/50でポジションを作ってからヒール」というプロセスが常識化していたからこそ、ミカはケイドの極めを予期できなかったのかもしれない。

加えて兄タイとともにONEと契約し、ルールは違うものの『グラップリングをDo Sportsから見る者も楽しめる競技にしたい』という彼らのアイデンティティが高い防御能力という下支えがあるなかで、フィニッシュに向けて大胆かつタイミングを見極める力を高めたかもしれない。

柔術ファンダメンタルを土台とした上で驚異的な強さを発揮するミカを、セオリーを超えた自由な動きで制してみせたケイド。ならば2人が道着着用ルールで戦ったらならどう展開になるのか。ルオトロ兄弟と、この敗北──黒帯取得以來からはじめての一本負けだ──を経てさらに強くなるに違いないミカとのライバル・ストーリーは、これからも見逃せない。

なお3位決定戦では、鉄壁のニーシールドでPJ・バーチの侵攻を防いだダンテ・リオンが、下からファーサイドの腕十字を見事に極めてフィニッシュ。

前回大会ではルーカス・レプリに一本勝ちして世界を震撼させつつも、3位決定戦でゲイリー・トノンのヒールで秒殺されてしまっていただけに、嬉しいメダル獲得となった。

■ADCC202277キロ級リザルト
優勝 ケイド・ルオトロ(米国)
準優勝 ミカ・ガルバォン(ブラジル)
3位 ダンテ・リオン(カナダ)

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