【NEXUS23】MMA初陣。河名マスト─02─「UFC、海外で戦いたい。五輪を目指していたように」
【写真】グレコローマンレスリングの経験は十分過ぎるほど十分。MMAに生かせる部分も十分にある。と同時に河名はレスリングとグラップリングは別モノと考えているように、グレコの実績がMMAの実績になるほど簡単には捉えていない(C)MASUTO NAKAMURA
25日(日)、東京新宿区のGENスポーツパレスで開催されるネクサス23で、プロデビュー戦を迎える河名マストのインタビュー後編。
Text by Shojiro Kameike
2020年の東京オリンピック出場を目指していたが、その夢は叶わず。それでもレスリングを続ける意思を持っていた河名だが、コロナ禍でレスリング界が動きを止めた。その時、MMAジムを借りて練習を再開──ふとしたきっかけで、ミット打ちを行い、彼の人生が変わった。
河名にMMA転向に至った経緯と、プロデビュー戦への意気込みを訊いた。
<河名マスト・インタビューPart.01はコチラから>
――レスリングのグレコ59kgキロ級で2020年のオリンピックを目指していたとのことですが、オリンピックの予選は前年に行われます。その結果は……。
「2019年末の全日本選手権で負けて、東京オリンピックの出場権を得ることはできませんでした」
――では、それがMMAに転向するキッカケとなったのでしょうか。
「いえ、そこからもレスリングを続けたいとは思っていました。2024年のパリ五輪を目指すまでのモチベーションはなかったんですけど、やはりレスリングはやりたいと思って」
――それがなぜMMAを始めることに?
「コロナ禍でレスリングの練習する場所も、試合する大会もなくなってしまったんです」
――……。
「職場はもちろん、大学(専修大学)でも練習できない時期がありました。それでもレスリングをやりたいと思っていた時に、大学で同期だった中村倫也が本格的にMMAを始めると知って。それで聞いたところ、MMAのジムならレスリングの練習のために、マットを貸してくれるということで。最初は長南亮さんのTRIBE TOKYO M.M.Aのマットを借りて、練習させていただいていました」
――それはレスリングの練習ですよね。MMAではなく。
「レスリングです。MMAといっても、年末の大会をテレビで見るぐらいで、そこまでガチガチのファンではありませんでした。だから、MMAをやろうとは思っていなかったです」
――しかし、MMAを始めることになったのは……。
「一度ミットを持っていただいて、打撃をやってみたんです。そうしたら、ミットを打つのが気持ち良くて(笑)。このままレスリングの試合に出る機会がないのであれば、MMAもやってみたいと思いました」
――ただ、河名選手は当時、クリナップのレスリング部に所属していました。レスリングを辞めるということは、クリナップも退社しなければいけなくなるのですか。
「そうです。クリナップの社員としてレスリングをやっていて、試合に出て勝つことで給料を頂いていましたので」
――ということは、MMAを始めるため会社を退社することに、収入の面などで不安はなかったのでしょうか。
「僕自身は、そんなに不安はなかったです。弟(河名真偉斗、2020年全日本選抜選手権 男子グレコローマン60kg級3位)には、『バカじゃん』と言われました(笑)。といっても、反対されたわけではなくて。親も同じでした。母親に電話で伝えたら、『好きにすればいい』という感じで。父親にも母から伝わって、父からも特に何も言われなかったですね」
――そして……MMAに進むことになった、と。
「MMAをやろうと決めたのが、去年の夏ぐらいですね。そこで中村倫也とか、TRIBEでは佐藤天さんに相談していたんです。佐藤さんは専修大学の柔道部で、部活は違いましたが大学の先輩でしたから、いろいろ相談に乗っていただきました。それで、同じレスリング出身の八隅考平さんのジム『ロータス世田谷』で練習してみたらどうか、と」
――そのような経緯があったのですか。
「もともと松嶋こよみ選手が専大レスリング部で練習していたことがあって、その時に聞いたことがあったんです。『ロータスの月曜日のプロ練はスゴいですよ』って」
――松嶋選手はMMAPLANETのインタビューでも2019年6月のクォン・ウォンイル戦の前に、2カ月ほど専大レスリング部で練習していたと言われていましたね。
「そうなんです。当時は松嶋選手が言っていた意味が分からなくて。それで、練習させていただきたいと八隅さんに電話したら、『では月曜日に来てください』と」
――いきなり月曜日プロ練に(笑)。
「そう聞いて『あれ、松嶋選手が言っていたのが月曜日だよなぁ……』と思い出しました。実際に行ってみると、北岡悟さんや青木真也さんといった方々がいて」
――練習に参加して、いかがでしたか。
「5分で何本取られたか分からないぐらい、メチャクチャ取られました(笑)」
――意外と、明るく振り返りますね。
「やられて当然だと思いますよ。もともと僕の中でも、レスリングとグラップリングは全く別モノ、と思っていましたから。レスリングは『倒されちゃダメ』という競技なので、どうしても重心が低くなってしまいます。グラップリングとは、そこから違っていて」
――最初からその意識を持っていれば、受け入れ方も違うのでしょうね。
「それほど自信もなかったですし。やられてショックは受けましたけど、『これは無理だ……』といった悲壮感はなかったです。その時点で、もうMMAをやるという気持ちも固まっていたので。今年の3月までクリナップとの契約があったので、契約期間が終わって4月から正式にロータス世田谷の所属になりました」
――そして7月25日、ネクサスのジェイク・ウィルキンス戦でプロデビューすることとなりました。
「ジェイク選手は以前に練習したことがあるんですけど、組み力やパワーで劣っているとは思いませんでした。でも、その時すでにMMAを経験していて、MMAのテクニックでは相手のほうが上でしたね」
――ジェイク選手は、2019年の全日本アマチュア修斗選手権ライト級で優勝していますから、その時点でMMA経験の差はあったでしょう。
「そこから自分も打撃や、パウンドの打ち方も練習してきました。もともとレスリングとグラップリングは別モノだという考えが強かったんですけど、今は自分のやっていたレスリングの動きを、MMAに生かせるようになってきたと感じています」
――MMAを戦ううえで、どこに目標を置いていますか。
「やるからにはUFCをはじめ、海外で戦いたいと思っています。レスリングで、オリンピックを目指して戦っていたように」
――河名選手が目指していた東京オリンピックはコロナ禍で延期となり、河名選手のMMAデビューと同じ時期に開催されることになりました。
「……そうですね。レスリングで一緒に練習していた仲間が、東京オリンピックに内定しました。彼らが世界のトップ選手と戦おうと練習している姿を見ています。それを見て自分も新しいスタートを切って、その目標に向かって頑張らないといけない、という気持ちになりました」
――そのMMAデビュー戦では、どんな試合をしたいと思いますか。
「デビュー戦なので、派手な試合をしたいとも言えないし、そんな試合ができるとも考えていません。この期間で練習してきたことを、試合で出す。当たり前のことですが、それが一番ですね。あとはケージに立つと、どんな景色が見えるのか楽しみです」