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【Road to ADCC】ノーギでの進化が止まらないムスメシが、ジオに快勝も切れまくり!!

【写真】試合内容には満足も、ジオ・マルチネスとのやり取りに憤慨していたマイキー──試合中の冷静さとまるで別人のようだった(C)ROAD TO ADCC

17日(土・現地時間)にテキサス州オースティンのJWマリオット・オースティンでRoad to ADCCが開催された。来年開催予定のノーギグラップリングの祭典=ADCC世界大会への前哨戦として位置付けられた、豪華きわまりないワンマッチ大会。
Text by Isamu Horiuchi

プレビュー第1回は、ノーギに専念して数ヶ月で急激な進化を続けるマイキー・ムスメシを、10th planet柔術軽量級エースのジオ・マルチネスが迎え撃った注目の一戦の模様をレポートしたい。

<66キロ級/20分1R>
マイキー・ムスメシ(米国)
Def. 6-0
ジオ・マルチネス(米国)

試合場に上がった両者。戦前から「尊敬する友人のジオと戦えて光栄だ」と友好的な態度を崩さなかったムスメシが握手を求めるが、「マットに上がったら友人だとは思わない。そもそもあいつはいつも偽善的に微笑んでいて気に入らない」と戦闘モードを取っていたマルチネスはそれを無視した。

試合開始。引き込むとペナルティを受けるルールだけに、ムスメシは頭を付けてのスタンドレスリングに挑む。が、体格に勝るマルチネスは前進して左でワキを差すと、体落としでテイクダウン。あっさりと倒されたムスメシだが、加点時間対開始前なので失点はなし。なおかつ引き込みのペナルティも取られずに下になることに成功したともいえる。

オープンガードをとったムスメシに対して、右にパスを仕掛けるマルチネス。エビで反応したムスメシは、すぐにマルチネスの右腕を両手で抱えると、あっという間に旋回して足をこじ入れてファーサイドのアームバーに。

回転して逃れようとするジオだが、その腕は完全に伸ばされてしまっている。強烈に極まっているように見えるがタップしないマルチネスは、強引に立ち上がりながら腕を引き抜いた。逃げられたムスメシは、すぐに下からマルチネスの右足に足を絡めて崩すと、左足にトーホールド狙い。

さらに内ヒールに移行して極めにゆくが、マルチネスは腰を引いて支点のニーラインをクリアして危機を回避、上に戻った。ここまで3分足らずだが、ノーギの練習に専念して5カ月のムスメシが恐るべき仕掛けのタイトさを見せつけている。

その後もムスメシは積極的に下から足を絡めては極めを狙う。が、この攻防は熟知しているマルチネスも防御しては足を取り返す展開に。ムスメシは内回りや外回りを狙うが、マルチネスは距離を取ってポジションは取らせない。ダブルガード状態で足を取り合うなか、何やらマルチネスがムスメシに話しかけ、ムスメシも応じている。

ムスメシは、2019年の世界柔術決勝でホドネイ・バルボーザを秒殺した強烈なストレートフットロックのグリップも用いて、内ヒール、外ヒールと積極的に仕掛け、また回転してのバックも狙ってゆく。

このムスメシのノンストップ・アタックに対して、マルチネスは守勢になりながらも、最初の腕十字以降は危ない場面に追い込まれることはまま時間が過ぎていった。残り4分半になったとところで、ダブルガードの攻防では押され気味だったマルチネスが立ち、右のニースライスを狙って前に体重をかけてゆく。

するとムスメシは後転するようにマルチネスを前に崩してから、すかさずベリンボロへ。

ここでついにマルチネスの背後に回ってクラブライドに持ち込んだムスメシは、ヒザをついたマルチネスの背中に登る。

足を一本フックされたマルチネスは回転して正対を試みるが、ムスメシはタイトにマルチネスの背中に密着。やがて襷掛けのグリップを作ったムスメシは、もう一本の足も入れてフックを完成。残り3分のところで先制の3点を奪った。

その後もマルチネスは動き続けるが、ムスメシは背中から離れない。一瞬マルチネスは体を捻って正対したかに見えたが、ムスメシがバックに付き直すとさらに3点が追加される。さらにマルチネスはムスメシを背に乗せたまま立ち上がって落とそうとするが、ムスメシの密着は解けず。

仕方なくマルチネスはダイブするように前転してのスクランブルを狙うが、ムスメシは背中から離れず。そのままムスメシがチョークを狙い、マルチネスが守る中で試合が終了した。

フックを解いたムスメシと向かい合ったマルチネスは、握手をしながらなにやら声をかける。ムスメシはそれに対して不満げに言い返し、さらにマルチネスのセコンドのエディ・ブラボーに挨拶する際にも、なにやら訴えかけていた。

放送席で勝利者インタビューを受けたムスメシは、怒りが収まらない様子で「僕は同じ黒帯としてジオのことをすごく尊敬していたのに、今日のマットでのあの態度には失望したよ。なんて品格がないんだ。試合前には僕がポルトガル語を話すことを馬鹿にして、僕がブラジル人みたいだとか、他の文化にリスペクトを表することを嘲笑った。あんな奴が黒帯だなんて、信じられないよ! いくら柔術のスキルが高くても、黒帯の資格なんかない!」とまくし立てる。

さらに試合中のやりとりについて聞かれると「僕は試合中は何も話してないよ。ただ奴がさんざんこっちを罵り続けたんだ。なんてアマチュアな態度だ! だから試合後に奴に言ってやったんだ。『僕は試合に勝つことにこだわりなんかない。僕らは次の世代に模範を示すためにやってるいんだ』ってね。奴の振る舞いは本当に馬鹿げている」とその興奮は止まらない。

続いてに試合展開について聞かれても「それは満足しているよ。僕にとってビッグチャレンジだったからね。レスリングをやらなくてはならないから、今までで一番大変だと分かっていたんだ。でもなんとかしたよ(笑)。序盤の腕十字は極まったと思ったんだけどね。ジオの柔術自体はインクレディブルだよ。若い頃からファンだったんだ。いつも応援していた。なのに変わってしまった。もう自分のフォロワーへの受けしか考えていないんだろうね。柔術のスキルはすごくリスペクトするけど、人間としてはゼロ・リスペクトだ。僕は下の帯の選手達が、この試合での彼の振る舞いを見ているってことが我慢ならないんだ。ありえないよ。こんな態度をジムで取ったら出入り禁止にされるべきだよ。トーナメントでも同じだ」と、結局マルチネスへの怒りを蒸し返してしまった。

そんなムスメシは最後に今後の展望について聞かれて「みんな、僕は来年のADCCに出る資格があるかい? 興奮しちゃってすまない。この5カ月、僕は文字通り1日も休まずに練習してきたんだ。そしてものすごく上達している。まだまだ課題はすごくたくさんあるけどね」と、前向きに語った。

一方、言われ放題のマルチネスも「いったいなんであんなに怒るんだ?」と驚きを隠せない様子だったが、さすがに黒帯失格とまで言われると「試合後には一緒にピザでも食うのもいいかなと思っていたけど、もうイヤだ。奴はフェイクスマイルの奥にある本性をさらけ出したな。だいたい奴はこれまで何回所属を変えているんだよ。俺の師匠はずっとエディで変わらない。そういうことだ」とグラップリングとは関係のないところで中傷しあうようになってしまった……。

両者の遺恨についてはさておき、ノーギに本格的に取り組んで半年と経っていないムスメシは、強豪マルチネスにも快勝。序盤にタイトな腕十字を極めかけた上、足の取り合いや回転してのバックの取り合いといったマルチネスの得意分野でも試合を支配し、至高の柔術ファンダメンタルとノーギの技術の融合がますます進んでいることを見せつけた。

同時にスタンディングレスリングや、ノーギにおいて極めきる技術等、さらなる向上の余地も見えたこの試合。本人が「これが達成できたら、僕はもうハッピーに死ねるよ」とすら語る最後の目標=来年のADCC世界大会制覇に向け、天才児の急速な進化を現在進行形で目の当たりにできる我々の幸運は、まだまだ続いてくれそうだ。


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