【Special】月刊、青木真也のこの一番─番外編─弐─カーフキック「楽をした結果がMMAにおけるカーフ」
【写真】ムエタイをこよなく愛し、組み技がずば抜けている青木にとってカーフキックとは (C)TITAN FC
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2021年1月の一番──は3試合とも話してもらった。が、ここで青木が「話題にするのは恥ずかしいですけど」と──カーフキックについて語り始めた。月刊、青木真也──今月は2度目の番外編としてカーフキックについて語らおう。
「話題にするのは恥ずかしいですけど(笑)。今、カーフキックって流行っていますよね」
──ハイ。大流行です。記事でもタイトルにカーフを持ってくればPV数が上がるパワーワードになっています。
「ただ、飯村(健一)さんとも話していたんですけど、カーフって理屈上はミドルで腕を蹴っているのと一緒だよなって」
──というのは?
「腕を蹴っている方が、ダメージがあって。例えばシャーウス・オリヴェイラとか、あのレベルでミドルで相手の腕を蹴ると、腕は折れてしまうんじゃないのかって。足より腕の方が弱いじゃないですか」
──ハイ。
「カーフだとカットできるけど、腕はできないから。カットしないからカーフはあれだけ効かされて。だからミドルを腕で受けていると、それは腕が行ってしまうだろうって僕は思っています。
そういう部分でいえば、シャーウス・オリヴェイラはマイケル・チャンドラーとかには一番相性が良いかもしれないです。しっかりとミドルを蹴ることができる選手というのが」
──腕のブロックはカットではない。その通りですよね。ならスウェイで避けないと。
「ハイ。カーフってカットされると、骨を蹴って自分が痛めちゃいます。だから裏の筋肉を蹴っている」
──Calf(脹脛)であって、Shin(脛)キックではないです。
「まぁ危ない技ではあります」
──ただ、私はMMAというのはレスリングも一要素で踏み込むスタイルというのがある。だから前足でカットしづらい。ボクサーでもそうですよね。クラウンチングの。それが、最近は立ち技系でカーフで決着がつく試合があると聞いて、驚いたんです。なぜカットしていないのか、不思議で。
「それはもうK-1はローキックとパンチだからなんです。蹴りを掴んじゃダメで。手で受けろ──回し受け、もしくはカットというルールなんです。
そして、カーフがそのルールの穴が生んだ攻防です。だって蹴りをカットするより、受けてパンチで行った方が勝てるから。しかも3分3Rだし、余計にパンチでいきますよね。ボクシング&ロー、魔裟斗がまさにそうで。あの影響を受け、引継ぎ──カーフキックになったと思います。
と同時に今、MMAでこれだけ知っているはずなのに、なぜ付け焼刃的にカーフを使い始めて決まるのか……それは構造的な問題で。ワイドスタンスでテイクダウンを切ってパンチ、もう組まない。近距離でソレをやっているから、構えの構造でカットはできない」
──組まない。ガツガツの打撃戦をしない。だから距離的にもカーフになると剛毅會の岩﨑達也さんも言われていました。
「あぁ、確かに。結局、楽をした結果がMMAにおけるカーフになったと。クリンチをしたら貰わないんです。でも、暫らくもらう人が出続けるでしょうね」
──ハイやミドルが綺麗な選手が、そこまでカーフを蹴る必要があるのかという試合もありました。他で組み立てられるだろうと。
「そうなんですよね。だから楽しちゃっている。で、また誰かが足を折って下火になるんじゃないですかね。
カーフを蹴っても基本はミドルとハイが上手な選手が、しっかりと蹴りで試合を支配できると思います。パンチ&カーフだと、組みが強くないといけなくなってくる。結果、そんな甘いモンじゃないってことですよ。これからはカーフに対して防御もそうだし、構え自体が変わって来るでしょうね」