【Special】米国カリフォルニア州のAOJで柔術修行から急遽帰国──丹羽兄弟「急に空気が変わりました」
【写真】すでにコスタメサから帰国している丹羽兄弟。AOJ名義の二人のテクニック映像や大会のハイライトがSNSにアップされるなど、ほんの数週間前までは順調な柔術修行に思えたが……。(c)NIWA BROTHERS
パン選手権とムンジアルに照準を合わせて昨年末に渡米し、AOJを拠点に練習していた怜音と飛龍の丹羽兄弟。ローカル大会では連戦連勝と、順調に見えた二人の柔術修行は、新型コロナウイルスの影響により不本意な形で切り上げ、帰国となった。
大会の中止、道場閉鎖など現地の状況をはじめ、国内ではまだ広く知られていないであろうIBJJF以外の柔術大会の盛況ぶりなど、二人が目の当たりにした米国柔術の今を、この機会に語ってもらった(取材は3月28日に実施)。
Text by Satoshi Narita
——2人の日本での拠点AXIS横浜の状況は今、どのような感じでしょう。
怜音 昨日まで普通に練習していたんですけど、この土日(28・29日)は休みにしました。今後どうするかはまだ未定ですね。
——米国から帰国したのが19日ということですが、ムンジアルの延期は17日に発表されましたよね。帰国はどのタイミングで決めたのでしょうか。
怜音 延期が発表される三日前くらいに、一旦帰ろうと決めました。もともと6月までいる予定だったんですけど。
飛龍 多分、ムンジアルも予定通り開催されないだろうと考えて。
——AOJが閉鎖されたのは?
飛龍 パンナムの中止が11日に決まって、翌週の16日から閉まっています。
——カリフォルニア州全体で外出禁止令が出されたのは19日ですから、二人がすでに帰国した後のことですが、それ以前、滞在していたコスタメサはどんな様子でしたか。
飛龍 パンナム中止が発表されたあたりから、急に空気が変わりました。スーパーマーケットで水やトイレットペーパー、除菌用のアルコールなんかがなくなって。
怜音 ただ、僕らがいた時は普通に街を歩けたし、まだそこまでひどくなかったです。日本へ帰ってきてから深刻になったと思います。
——空港で混乱などはあったのでしょうか。
怜音 いえ、ガラガラでした。急遽帰るような日本人や中国人ばかりで、フードコートも何軒か閉まっていました。
飛龍 飛行機もけっこう空席があって。CAの方はマスクをして、除菌シートもこまめに配られていましたね。
——そもそも2人が渡米したのは?
怜音 昨年の12月10日からです。実は、昨年の夏で大学を辞めたんですよね。米国で頻繁に練習したいと思って、年末からAOJに行こうと決めていました。
飛龍 僕はこの春で高校を卒業したんですけど、進学はしないと夏に決めて。12月から授業もなくなったので渡米しました。
——AOJでは特待生のような扱いで練習していたのですか。
怜音 ハイ。道衣やアパレルも提供してもらっています。
——特待生になるためには、何か審査があるのですか。
怜音 詳しいことは自分たちもわからないんですけど、僕らの場合はメンデス兄弟とメッセージでやり取りして、入れてもらいました。
——練習内容は?
飛龍 月曜から金曜までは同じスケジュールで、朝8時半から9時までがフリードリル、9時から10時半までがアドバンスクラス、10時半から11時半がコンペクラスでした。で、土曜日は朝のひとクラスだけという感じで。
怜音 平日は午前中の練習が終わったら家に帰ってごはんを食べて休んで。夜6 時からの練習もあったんですけど、そっちは行ったり行かなかったりでしたね。夜は練習がゆったり目で、スパーはやらない人もいたりするので。
飛龍 普段の練習はとにかくハードできつかったですけど、アドバンスクラスの最初の30分がフリードリルで、そこでギィがけっこうアドバイスしてくれるのがタメになりました。
怜音 ギィ自身ともよくスパーできたし。前回、出稽古に来た時はムンジアル後だったので、強い選手が母国に帰っていて、コンペクラスもなかったんです。でも、今回はパンナムやムンジアルに向けて選手が集まっていたし、コンペクラスも毎日あって、ハードに練習できました。同じ階級の選手も大勢いたので。
——滞在中の宿泊先は?
飛龍 AOJのみんなが借りているアパートでルームシェアをしていました。
怜音 グスタボ(・オガワ)が僕らと同じ部屋で、同じアパートには昨年のムンジアルで青帯ダブルゴールドを獲ったヤスミン(・カッセル)もいました。
——滞在中は積極的に大会に出ていましたね。1月19日のJJWL(Jiu Jitsu World League)のオレンジカウンティ大会を皮切りに、翌週はNABJJF(SJJIFの北米組織)のAll Americas、3月8日にはJJWLのLA大会に参戦し、すべての大会でメダルを獲得しています。まず、JJWLのオレンジカウンティ大会は、怜音選手が茶帯フェザー級優勝、飛龍選手はライトフェザー級で、ワンマッチ決勝で優勝でした。
飛龍 あ、あの大会は2試合やったんですよね。——2人しかエントリーしていないのに、2試合ですか。
飛龍 JJWLのルールだと、ブラケットに2人しかいない場合は、3試合中2試合先勝したほうが1位になるので。
怜音 3人だとラウンドロビン方式、4人以上だと普通の勝ち抜き戦になるので、僕はそれで2試合戦って優勝でした。
——アドバンなし、ペナルティは相手にポイントが入る、腰から上に相手を持ち上げて投げ倒す“High Takedowns”は4ポイントなど、独自のルールがあるとは聞いていましたが、トーナメントの組み方にも違いがあるのですね……。試合時間は、茶帯は5分だったと思いますが(アダルト白〜茶帯5分、黒帯6分)、ルールの違いは影響しましたか。
飛龍 普通に極めることができたので、あんまり……(笑)
——では、大会の雰囲気は?(笑)
怜音 ローカルトーナメントなのにマット数が多くてびっくりしました。キッズやノーギもあって、朝から夜遅くまでやっていたし。
飛龍 マットが14面で、選手の数も観客の数も多かったです。
——14面ですか!? それだけJJWLが支持を得ているということなのでしょうか。
飛龍 いえ、単純に競技人口の多さだと思います。
——なるほど……。NABJJFのAll Americasでは、怜音選手はフェザー級、飛龍選手はライト級で優勝でした。階級アップの理由は?
飛龍 ライトフェザーで試合が組まれていたんですけど、相手が来なくて……。で、ライトの選手も同じ状況だったのでやりました。試合はバックからチョークを極めて勝ちました。
——JJWLのLA大会では、同門のリアム・モスと表彰台を独占しました。
怜音 あの大会では僕がリアムと準決勝で当たったので彼に勝ちを譲って、3位決定戦に勝利して入賞しました。2月23日にもIBJJFのサンノゼオープンがあったんですけど、茶帯の登録が間に合わなくて。パンナムは間に合ったんですけどね。ルースターとライトフェザーでエントリーして……。
——3月の初め頃はまだ、ここまで状況が深刻になるとは想像が付きませんでしたからね……。パンの中止が発表された時、AOJはどんな様子でしたか。
怜音 発表が現地時間の午後2時くらいだったと思うんですけど、その前から何か発表がある、多分パンが中止になるって話が出ていて。だから、練習には来るけどスパーには参加しない人もいましたね。AOJがクローズするまで、3日間くらい練習していたんですけど、中止の影響なのかコロナの影響なのか、参加者も減りました。
——大会再開の目処がつかない今はもちろんのことですが、パンの中止からムンジアルの延期が正式に発表されるまでの間も、モチベーションの維持は難しいものがあったと思います。
飛龍 パンとムンジアルを獲るために渡米したし、減量もしていたので……。米国で練習して自分がどれだけ強くなったのか、早く試したい気持ちがあるんですけど、今は柔術自体ができない状況だと思うので、逆に準備期間と捉えていきたいと思います。
怜音 フルタイムの柔術家として、帰国したこれからもモチベーションが下がらないように、しっかりと練習は続けていきたいです。道場が開けられなくなっても二人で練習できるし、一人でできるドリルやストレッチもありますし。
——この状況が落ち着いたら、再びAOJに戻るつもりですか。
飛龍 ハイ、行きたいですね。
怜音 延期になったムンジアルの開催がいつか発表されたら、1、2カ月前には入って、練習したいと思っています。