【Special】増刊、青木真也。ONE100総括─02─「自分のストーリーをコツコツとやっていくことが一番」
【写真】クリスチャン・リー✖ダギ・アサラナリエフの良さを日本に伝えることは難しいのか(C)KEISUKE TAKAZAWA/MMAPLANET
ONE100「Century」。ONEにとっての2度目の日本大会を青木真也の総括、第2弾。
北米での中継、アジアのマーケットを意識したなかで日本人選手として今大会をリードした青木は、大きな変化をもたらすには那須川天心やRENAといった地上波TVで活躍が知られたビッグネームの導入が必要だと言いつつも、これからに関しても、自らの半年を振り返りコツコツという言葉を何度も口にした。
<増刊、青木真也。ONE総括Part.01はコチラから>
──那須川選手、RENA選手という実弾をぶち込むことで変化を生むと、次から次へと実弾が必要になってくるのではないでしょうか。
「そうなるけど、毎回のように実弾を込めることはできないですよね」
──日本向けの実弾、あるいは飛び道具とともにONEがアジアで敷いてきたフォーマット、ONEの主要メンバーの知名度アップになるような地固めが同時進行で行うことが必要になってくるのではないでしょうか。
「日本の格闘技界は、そういう土台創りはやってきたことがないですよね。そうなるとインターネットで積み上げたものは、確実に返ってくるなって最近思うようになりました。Abemaの視聴者数、僕の試合の時の会場の雰囲気ってそういうモノだろうと。視聴数がそれほどなくても、同じことを伝え続けることで届く。それってコツコツとやる世界なんじゃないかと。直接リーチが掛かるので、平地に用水路で水を流すように一軒、一軒に届けている感覚がありますね」
──グローバルがやっていることは伝播方法がインターネットでも、その伝えようとするモノが違うと届いたモノの使い方が分からないという問題が起こりそうです。チャンピオンを並べることで、『凄い』と思われる国と比較して……、例えとしてペトロシアンの試合を日本のファンは見たかったのかと。同じモノが届いても、捉え方が違ってきます。
「そこはテレビショーだから、世界に見せるためのモノだと僕は思っています。ジャカルタ大会の前の方にインドネシア人選手が出場するのと同じだと」
──他の地域のローカルカードと、メインで名前のある選手を並べるのも結果的に同じベクトルになってくると。
「ハイ。今回、僕とホノリオ・バナリオの試合がセミで組まれたのは、つまりそういうことだと思っています。ローカルを考えたカードで、アジア全域で見せるというやり方ですよね。だから日本大会だと、日本人選手の需要があるだけ良いのかと思っています。
これが決壊すると、日本でやっているのに日本人選手の試合が組まれないようになる。そういうことだってONEの進路によっては起こることもあるだろうし。
ペトロシアンに関しては事実がどうなのか分からないですけど、イタリアやヨーロッパでその需要があるのか。正直、どこにどういう引きがあるのか分からない。そういうマッチメイクになっているということですよね」
──テレビで引っ張ることができた15年以上昔と直接比較できないものですが、PRIDEではミノタウロやヴァンダレイで熱狂できていた。ではオンラ・ンサン、アンジェラ・リーで盛り上がる可能性はあるのか。そして「英雄を創る」というリードだけではファンの気持ちを掴むことは難しいですし。
「日本でONEの良さが浸透するのは、難しいですよね。今回の大会でも仕上がりのような部分は、僕は見えていなかったです。ただ、ンサンが入場するときの盛り上がりって凄くなかったですか? 僕の試合の次だったけど、彼の入場っていうのは、アレは日本じゃない。ミャンマーの人たちが集結して盛り上がっている」
──まさにカビブ・ヌルマゴメドフを見に集まるロシア人、コナー・マクレガーを追いかけるアイルランドのファンですよね。ONEにとってオンラのような存在が新たな可能性になるのか。
「そこは分からないですよねぇ……。アンジェラとパンダの試合、クリスチャンとダギとか、日本人選手より凄いモノを見せていた。クリスチャンとダギなんて、もっと評価されて良いはずで。それを日本人ファンが味わうのは難しいという現状があるから、それは仕方ないんじゃないかな」
──仕方ないところから脱却しないと、伝えられないです。このままで止まってしまうと。
「クリスチャンのストーリーが伝わるようにするより、優先順位として日本人スターを創っていかなければならない現状があるじゃないですか。だからクリスチャンやダギで盛り上がるモノを創るのは難しい気がします。クリスチャンの今回の凄さを伝えるには、ダギの凄さを伝える必要がある。でも、そこまで手は回らないと思います。それなら日本人寄りになりますよね」
──日本人選手のプッシュって、底上げ感がないですか。現状問題として。底上げでないとすれば、ONEをリードする試合においての実力、見せるという部分でも際立った存在感を放つことができないと。なんというか日本大会以外でも、メインを張れるような。
「だから高島さんのいうONEの現状を伝えるようにするのも、日本人のスター選手を生む作業もコツコツやるしかないってことですよね。ただ、ONEの日本大会を視ている人が、他の大会を視ているかといえばそうじゃない」
──だからこそ、全員でなくても次のジャカルタ大会を視聴する人の数を増やす努力はすべきではないかと。じゃぁ、そうなるにはどうすれば良いのか……ということで、堂々巡りですよね。
「いや、まさに堂々巡りですよ。だから僕は自分のストーリーをコツコツとやっていくことが一番だと。それに僕の場合はいつ終わっても良いぐらい今、前の前にあることを一生懸命やるっていうスタンスでやっているから。このままじゃダメだとかはあんまり思えない。仕方ないじゃんって。それぐらい一生懸命やったんだと思います。
なんか、本当に全部なくなって一からやるつもりでないと、難しいと思います。だって、無理じゃない? 普通に考えて。選手側も伝えたいものもないし」
──ミャンマーのンサンや、フィリピンのラカイ勢は当然として、下手をするとタイのスタンプ・フェアテックス、あるいはリカ・イシゲ、インドネシアのプリシーラ・ガオール、マレーシアでのアギラン・タニらは何もないところからのスタートだったので、日本とはまた状況が違う。その状況で彼らは母国でのONEの実情を変えるパワーを持っている。
「平田は格闘技を一生懸命やっているけど、他のことはどうか。それはやっていないでしょう。でも、一緒に仕事をしたことがある人が一つ形になっている。格闘代理戦争から出てきた人が形になり、試合をして喜んでもらい、格闘技が生業になっている。その姿を見ると単純に嬉しいですよ」
<この項、続く>