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【Special】月刊、青木真也のこの一番:11月─その参─上久保周哉✖ムハメド・アイマン

Kamikubo【写真】キャリア7勝1敗1分、日本のトップグループと絡むことなくONEと契約を果たした上久保 (C)ONE

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ11月の一番、第3弾は12日に行われたONE81から上久保周哉×ムハメド・アイマンの一戦を語らおう。


──11月の青木真也が選ぶ、この一番。3試合目はどの試合になるのでしょうか。

「上久保周哉×ムハメド・アイマン……う~ん、それか安藤達也×南出剛……どっちか悩んだんですけど、上久保かなぁ。でも、僕はアイツと話が噛み合う気が全くしない。上久保と言葉のラリーができず、凄くたどたどしいモノになるかなって」

──いや話が噛み合う、噛み合わないが選考理由になるのは変なので、そこは忘れてぜひお願いします(笑)。

「南出選手も凄く鋭い選手だし、彼に殴りで勝った安藤は良かった。でも、上久保のONEでの連勝、あの環境を選んでいるというのも評価されて然りだし……。ただ、字幕が必要になって来るんじゃないかなって」

──でも上久保選手はアイマン戦のあと、シンガポールでEvolve MMAのトライアウトに挑んだ時は、雄弁になっていてabema TVのプロデュサーのMさんとは凄く打ち解けて話していましたよ。

「そうなんですかぁ。そうやって話してくれる云々なしにしても、まぁ面白いことをやっていますし、上久保にしますか。でも、アイツ怖いよなぁ。腹黒いところもあるし(笑)」

──TRY.Hスタジオの濱村(健)選手も暴走ステルス爆撃機と呼んでいます(笑)。

「ただ真面目な話、本当に異種ですよ。キャリアの積み方、そこに興味が集約します。パンクラスの下の方で試合をしていて、TTFに出ていたら急にアブダビのフェニックスFCでサーワン・カカイと戦うことになり、しかも飛んで。キャリアを絞らずにきて、東南アジアのアンダーとやっている。日本人初、実は新しいことをやっているんですよね」

──国内では戦績は少なくても、敗北も1度だけだったので東南アジアのこれからの国のファイターには圧勝するかと思いきや、上久保選手と彼らの試合を見て東南アジアの成長が感じられるような場面もありました。

「そう逆に漬けられるのかっていう場面もあって。グラップラーはグラップラーで、でもMMAにおけるグラップラーというよりも純粋なグラップラーなんですよね。一言でいうとMMAとの乖離が激しいグラップラー。そこが面白いです。

重心の掛け方が柔術なんです。ガードを取っている相手を抑えなくて、体を引いてスペースを作っている。コントロールする寝技ではなく、攻防する寝技。スパーリングをして、僕が下になった時の上久保の位置だと『お前、それ立っちゃうよ』ってなる。僕の提唱するMMAグラップル、ジェイク・シールズのアメリカン柔術ではないですよね」

──青木選手と上久保選手は、どのような接点があるのでしょうか。

「トライブで会うぐらいですね」

──会話は?

「ないです(笑)。試合を見てもらうと分かると思いますけど、距離間の取り方もおかしいし、寝技もおかしい。だから、試合前の選手とやっていて『そんなの試合でならないよ』って怒らせることがある(笑)。引きこんだりして、それじゃ殴られるだろって。そういう子ですよね。で、首をかしげている(笑)」

──首をかしげるのは想像できますね。

「アイツ、怖いでしょ?」

──慣れもあるかもしれないですが、最初は本当に話してくれませんでしたね。ただ会話が成立しないわけではない。慣れてくると、普段の話はまましてくれるようになって。ただインタビューはまあたどたどしい。でも、SNSでは能弁です。

「周波数が合うとかあるんでしょうね。で、周波数が合うと突然喋り出すって怖いじゃん」

──格闘技に対して、真面目で一生懸命な良い子ではあります。

「いや、絶対的に悪い子じゃないですよ。良い子。でも、怖い(笑)。そういうMMAと乖離している部分もあるし、周波数なのか。まぁ、正直……MMAファイターとしては、まだまだ拙いです。だからこそ、ここからのキャリアの積み方に対して主義主張があったり、思想信念があるのかは掘ってみたいですよね」

──ONEで育てるマッチメイクをしてもらえる。そういう日本人選手は現時点で、上久保選手だけです。

「それはきっと、条件面とかが高くないからでしょう。それでも今、あのレベルで戦わせてもらっているのは良いことだと思います。ただし、東南アジアも強くなってきているし、これから上の選手と当たるとバシッと斬られることもある。

海外のイベントで育ててもらえる選手は、本当に初めてですよね。そういうことができる大会が、ONE以前にはなくて。そこにハマったという点が面白いです。そして、これから第2、第3の上久保が出て来るのか。

正直ね、もう日本のMMA業界に御三家はいないんですよ。修斗、パンクラス、DEEPのチャンピオンになろうが、ステップアップができるなんてことはない。だから、そこを目指すよりも海外に出てしまう時代が来たのかもしれない」

──高校野球から日本のプロ野球でなく、メージャーリーグと契約し2Aや3Aで育てられるというような。

「そうですね。そういうのに近い感覚があって、その走りが安藤晃司であったり、田中(路教)さんだった。安藤もいち早くROAD FCからLegend FCへ行き。田中さんは修斗の新人王からPXCでチャンピオンになるというプロセスを選択した。

ただし当時それができたのは、安藤や田中さんは周囲に対してスペシャルな感じで、メチャクチャ腕に自信があった。だから周囲も彼らの選択を支持できた。それが上久保がやったように、これからは普通の選手がその選択をする時代になるのかもしれない。今はそれだけ市場が広がったということ。MMAというジャンルの成長ですよね。決して、日本人が頑張ったわけじゃないけど」

──なるほど。そういうことで11月度のアオキ・アワードの受賞は上久保選手に。そして、今月はabema TVで2018年度のアオキ・アワードの受賞選手も発表されるということです。去年の12月から今年の11月まで、10人の選手がアオキ・アワードを獲得していますが、果てして誰になるのか。

「高野さん(SARAMI)かも知れませんよ(笑)」

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