【Special】月刊、青木真也のこの一番:6月─その壱─ロバトJr✖ムサシからの「グラップリングの再考」
【写真】柔術でメジャー王座を──ムサシから獲得したロバトJr (C)BELLATOR
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2019年6月の一番、番外編に続き第一弾は22日に行われたBellator ES03からラファエル・ロバトJr✖ゲガール・ムサシの一戦を語らおう。
──6月の青木真也が選ぶ、この一番。最初の試合はラファエル・ロバトJr✖ゲガール・ムサシ、ロバトJrがベラトール世界ミドル級王座に輝いた一戦です。
「1Rに引き込んでから、上を取り返していて。やっぱりそこですよね、凄いなって思ったのは。それとムサシのローを利用したニータップ。結果的にバックも取っていますし、凄い好感度の高いファイトでしたね。彼がUFCのチャンピオンになるとか思わないですけど、ベーシックな競技柔術の下を取る人がここまでMMAでできるのかと」
──MMAをやるタイプにも思えなかったですからね。
「それでもあの世代の柔術家、グレイシー・ウマイタからサウロ・ヒベイロという系譜であったのかもしれないですね」
──ゲガール・ムサシに柔術ゲームで判定勝ちしてしまうことは、驚異ですね。
「初めて本物っていう言い方をしたら変ですけど、MMAの大御所とやって。ここで負ける試合だと思っていたので、逆にまさかですよね。引き込んで返す妙を見せて勝った。これは井上学選手がよく使う動きなんですけど、下になってからも上を取り返すという攻め。軽視してはいけないと思います」
──そこで判定勝ちしたということは、評価されたことになります。ここが評価されないと、MMAの試合であのような技術が見られなくなってしまうのではないかという怖さがあります。
「最近、皆が打撃っていうじゃないですか。ジャッジが打撃を評価するから、打撃をやるんだっていう風潮が広まってきて。それはラッキーだと思っています。だってグラウンド、組みのレベルって凄く下がってくる。だからテイクダウンでなくても、下になってからある程度触ることができれば上を取れちゃう。安易に打撃、打撃って言っているとそういうことになってしまうよっていう」
──対してラカイなどは……。
「そう、ちゃんとやってあのスタイルに取り組んでいる。実はできているってことなんです。それなのに寝技を軽視して、打撃ばかりやっているとMMAが弱くなるということがある。
この前、田村一聖さんがロータスに来てくれて、久しぶりに組んだんです。で、思ったのが待ちになってしまっていたということなんです」
──というのは?
「あれだけ組技が強いのに、組みが待ちの姿勢なんです。攻めのグラップラーだったのに打撃に自信ができたから、カットするグラップリングになっていた。そういうこともあって、グラップリングの技術って再考する必要があると思います」
──ONEなんて、テイクダウンの評価が低いのだから引き込んでもマイナス評価にしないで欲しいですよね。
「あぁ……そこはひっくり返して上を取り返せるからって思っちゃいます。そのコントロールをどのように評価されるのかってことですよね。引き込んで上を取り返すまでの時間を。上を取るまでに時間が掛かったら、相手のモノですけどね。いずれにせよ、寝技をしっかりとやらなくなると、寝技ができる人間は優位になりますよ。
ロバトJrの勝利っていうのは、バックコントロールまで行ったからだと思うんです。それかサブミッションまで行けているのかと。サブミッションの重要性も問われていきますね。
だから……そういう意味では、デミアン・マイアが五輪のようなレベルのMMAになっているUFCで、そこをやり続けている。マイアはそれだけで偉業だと思います。あとロバトJrはリマッチがあった時、どうなるのか……ですね」