【Special】月刊、青木真也のこの一番:6月─その弐─マーチン・ヘルド×カラン・ポッターからのぉ……
【写真】青木の話はヘルドのグラップリングから、カラキャニャンのグラップリングへ。そして── (C)ACB
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ6月の一番、第二弾は6月16日に行われたACB88からマーチン・ヘルド×カラン・ポッターの一戦からの──MMAの楽しみ方。
ロシア、中国、そしてUFCやグラップリングをここまでなぜ熱く語るのか──これはある意味、青木が投げかけるJ-MMA界へのアンチテーゼでもある。
<青木真也のマーチン・ヘルド×カラン・ポッター論Part.01はコチラから>
──しかし、このACB JJ14は道着では75キロのタイトル戦でルーカス・レプリがダヴィ・ハモスを破り、60キロのタイトルマッチでジョアオ・ミヤオがアリ・ファリアスに勝っている。そんななかでMMAファイターがノーギに出場している凄まじいグラップリング大会ですね。
「そういう大会に招聘されている橋本(知之)選手は、素晴らしいですよ。あとACB JJで見ていて、MMAファイターのグラップリングって奥ゆかしさが出ていて凄く面白いです。ディエゴが凄くグラップリングができるとか、ラソフがあんなにレスリングができて堅いとか。ユーサップ・サーデュラエフがカイオ・テハと柔術ができるなんて、意味不明じゃないですか(笑)」
──メタモリスのブレンダン・シャウブではないと(笑)。
「ハイ(笑)。だから、試合から取り組み方が見えてくるんですよね。どんどん深い方向に行くけど、ACB JJって凄く面白いですよ。ジョージ・カラキャニャン、負けましたよ。ロシア人のムハメド・ココフって選手に」
──ACBでフェザー級タイトル戦線に出て来る前の選手ですね。そことカラキャニャンをやらせてしまう。
「しかも、カラキャニャンがギロチンで負けましたから。トップでパス狙いにギロチンを作られて一本負け。カラキャニャンがギロチンを取られるって、それはかなりの懸案事項ですよ。僕、実際にカラキャニャンとランチョクカモンガでスパーリングをして、強かったですから」
──ミレニア柔術で。
「取れなかったです。取られることもなかったけど、強かった。そのカラキャニャンが取られるというのは……ロシアの伸びは怖いです。ロシアの格闘技が強い方向を目指して、どこまでいけるのか。そこも気になりますね」
──9月のモスクワ大会からどう転がるのか。UFCの契約選手は一番多いのが当然のように米国で、次にブラジル。実はロシアはもう3番目に来ているんです。英国やカナダより多い。モスクワ大会が成功して、ロシアでのイベント開催が増えれば……。
「もっと増えると……ちょっと怖いですよ。ロシアってあれだけの土地があって、経済圏を確立できている。そこにヨーロッパを巻き込めば、世界進出なんてする必要がない。中国のように自分たちの土地に十分な市場がある。
そしてUFCでは、ついに日本が中国に勝てなくなってきています。あの体があって、どんなスポーツでも本気になれば強い中国がUFCでMMAに本気になるのか」
──先ほど言われた話だと、中国は国内に強大な市場が存在するのでUFCとか本来は気にする必要はなく、強さも世界一を目指すレベルでなくても、ファイターは食っていけます。
「そう、それでいえば怖いのが……ROAD FCが中国マネーで資金を増やした一方で、僕らが面白かったロードFCの鎬を削る世界観がなくなってしまった。そうなると、ロードFCで鎬を削ってきた連中や、もうロードFCを通らず強さを求める選手達が日本に流れて来ますよ」
──DEEPのソン・ジンスやHEATのオク・レユン、キム・ミュンギュのような。
「もう実際に強くて結果を残している。向うで吸い上げられることがないから、日本に流れてくる。ロードよりTOP FCやAngeles Fightが質実剛健的な場所になり、一時期のキム・スーチョルやイ・ユンジュン、チェ・ムギョムみたいにそこで力をつけた韓国人が日本にやって来るようになる。こういうロシア、中国、韓国の事情を読んでおかないと」
──いやぁ、面白い。
「面白いですよね!!」
──いや、青木選手が面白い!! 青木選手がここまで選んだ一番に付随して、色々な話をするというのが、今の心情を表しているのだなと感じます。
「えっ、どういうことですか?」
──この話の幅の広がりは日本のMMA界が今ONE一色になりつつあることに対して、すでに違う見方をしている。その表われではないかと。
「だってONEだけになると、MMAは絶対につまらないですよ。これだけ国内がONEだけになってくると、そのONEにいるフィリピン人ファイターの良さとか、そういうモノさえ見えなくなってくるじゃないですか」
──その意見は分かります。ONEの知名度が上がるのは有り難いことですが、日本人が頂点を目指すのとは違う魅力もありますからね。
「ONEの良さってフィリピ人ファイターの独創性の高さであり、誰も掘っていなかったカザフスタン人ファイターとか使っていたことでもあると思うんです。エジプシャン・トップチームなんてのを呼んできて、東南アジアが成長すると、もう弱すぎるから呼ばれなくなったとか(笑)。
妙にレスリングはできるけど、弱すぎて危ないだろう……みたいな(笑)。そういうのもONEの面白さであって」
──ただ、その面白さというのは……。
「そうですね、あくまでもUFCがあってこその世界観なんですよ。UFCのシンガポール大会で中国人は日本人選手より結果を残している。そこを見て、ONEを見るからONEも面白くなるんです」