【Special】月刊、青木真也のこの一番:1月─その弐─ユーサップ・サーデュラエフ×今成正和
【写真】パスをすれば足関節はない。コロンブスの卵的なサーデュラエフの今成攻略方法だった (C)ONE
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ1月の一戦=その弐は1月20日、ONE64からユーサップ・サーデュラエフ×今成正和戦を語らおう。
──2018年度1月の青木真也が選ぶ、この一番。2試合目はどの試合になるでしょうか。
「今成さんとユーサップ・サーデュラエフの試合ですね。サーデュラエフは凄かったですねぇ、面白かった」
──サーデュラエフが完全に今成選手の足関節を防ぎました。
「1Rはパスガードをしまくって、サイドを取って足関節に入らせなかった。今成さんと控室が同じだったので、『寝技強かったですね』って話になったんです。
今成さんも自分の寝技が分かっていて、飛び道具が通用しなかった。それだけサーデュラエフの寝技が強かったです。ただ、こうやって考えると今成さんは寝技の強い選手に負けているんですよね。ビビアーノ・フェルナンデスとか。中村アイアン浩士やマイク・ブラウンにパスされているし。ブラウンはその後で極めていますけど。
とにかくガードをパスガードの攻防で越えられると、寝技としては話にならないです。寝技の寝技が弱いというのが露呈してしまった試合です。対して、サーデュラエフは寝技が強かったと」
──今成選手が足を取って抜けないときには、両足の間に座って自らの両足を差し出してサドルロックを組ませなかった。これも目から鱗状態でした。
「両足を入れて、今成さんの片足を掴んでいましたからね。MMAの試合でも寝技に造詣があるので分かっていてやっているんでしょうね。
実はサーデュラエフは一昨年にACB柔術でカイオ・テハと道着で戦って、負けたけど10分極められていないんです」
──それは凄いですね。「スタンドでバックも取られているけど、そこから極めさせていない。下からの関節技も極められていない。ヤバいですよ。体重差は少しあっても、カイオ・テハに取られていないって。
それは柔術が強いということ。サドルがどうこう以上にヤバいことです。柔術が強いから、初回のパスガードがある。分かりますよね? パスガードが強いって寝技が強いってこと。だから足関節ももらわない」
──あのマッチアップはONEのマッチメイカーのマット・ヒュームがそこまで考えて、今成選手を潰しにいったのかと勘繰ってしまいました。
「そこまで感じちゃいますよね。だって、他のONEの選手はアレできないですよ。あの両足を突っ込んだ状態だと、今成さんは殴ることもできないし。
あの状態になったら立ち上がるなりして、セットアップし直した方が良かったと思います。あのままだと絶対に極まらないので。ただ、今成さんに立つっていう選択肢はなかったのでしょうね。試合になると、足を取ったという状況にハマって攻め続けたいし。レフェリーもブレイクが掛けることができなかった」
──なぜ、そこまで寝技が強くなったのか。サーデュラエフにはそのイメージはなかったです。
「河津掛けの選手ですよね(笑)」
──ハイ、まさに。河津掛けから投げるロシア人を見ると、日本人選手が得意とする大内刈りとか、通じなくなるのかって……。
「でも、八隅孝平も天突頑丈を投げていますよ。その後、どうなったのかは言いませんが(笑)。サーデュラエフでいえば、シカゴに住んでいたから柔術をやっていたのでしょうが、それにしても3年前には岡嵜康悦に負けているんですよ」
──そこからモスクワのEFN系のジムで指導や練習をしていたようですね。
「豪州のジョーダン・ルカスっていう選手に勝った時、RNCの形でロールして上四方から片手チョークを極めたのも素晴らしかったし」
──首がもげるのかっていう怖いチョークでしたね。あの寝技を打撃の圧力のある相手に今後、できるのかという点も気に掛かります。
「そんなのどうでも良くないですか? あの独創的な技術があった。サーデュラエフが世界一かどうかなんて関係ないし、彼の持っている技術を楽しみたい。ただ、打撃の圧力がある相手にあのスタイルを貫けるのかというと、立ちレスは強いし、かなりの完成度の高さはあると思います。
で、またロシアかって(笑)。柔術まで究めてきているし、ロシア人と柔術の相性が良いのは……それがユーサップだからなのか。いや、あの寝技は怖いです。カイオ・テハと道着を着て戦って10分取られないって……。日本人の格闘家で、そんな選手いないですよ。ノーギでなくて、道着でそれができる。もう異常です」