【ADCC2017】99キロ級 小澤を相手に強さ見せつけたプレギーサだが、決勝で涙飲む
【写真】準優勝のプレギーサは表彰台でも微妙な表情に (C)SATOSHI NARITA
9月23日(土・現地時間)と24日(日・同)の2日間、フィンランドのエスポーにあるエスポー・メトロ・アリーナで行なわれたアブダビコンバットクラブ(ADCC)主催の世界サブミッション・レスリング選手権。
2年に1度のノーギグラップリングの世界最高峰の舞台で行われた戦いは、20年近い歴史のなかレフェリングという問題が続いている。そんなアブダビの弱点ともいわれるルール施行の不徹底さが勝敗をを分けた99キロ級の決勝と日本から出場した小沢幸康の初戦の模様をお伝えしたい。
<99キロ級一回戦/10分1R>
フィリッピ・ペナ(ブラジル)
Def.6分24 by 腕十字
小澤幸康(日本)
いきなり優勝候補のプレギーサことペナと当たった小沢は、頭一つ背の高い相手に果敢にスタンドで前に出てゆく。それをいなしていたプレギーサはやがて引き込むと、シッティングガードから小澤を崩しにゆく。
ハーフガードに移行したプレギーサは、左手で小澤の右手首を掴みながら、内側に入れた右足をバタフライにして小澤を跳ね上げて崩す。次の瞬間プレギーサは左腕で小澤の右腕を抱え込み、ポストできない小沢の上になると、さらに右腕で小澤の左脇を差しながら完全に抑え込む。世界最高峰のスイープ巧者が見せた、隙のない理詰めの返しだった。
すぐにサイドについたプレギーサは、スクランブルを狙ったとことでバックを奪取。たすき掛けを作ってじっくりと攻撃に入る。小澤はチョークのディフェンスをしながらも体をずらしてゆくが、そこでペナは小澤の右腕を伸ばして腕十字。世界最高峰の戦いでは複雑な仕掛けを駆使し動き続けるプレギーサが、じっくりと戦い基本技術の完成度を見せつけ日本のトップグラップラーに圧勝。重量級における世界の壁の厚さを、改めて痛感させられる一戦となった。
プレギーサは次戦で、ロシアのアブドラクマン・ビラロフ(一回戦は2階級下の体格ながら重量級に挑戦してきたジェイク・シールズに苦戦しマウントを奪われかけたものの、終盤は体力差を活かして切り返しバックを奪い勝利)からバックを奪って快勝した。
翌日の準決勝でペナは、34歳ベテランの元柔術世界王者ラファエル・ロバト・ジュニアと対戦。本戦では低く構えるロバト・ジュニアからスイープを取りきれず、また延長ではテイクダウンで抑え切ることができなかったものの、終始攻撃の姿勢を見せたことでレフェリー判定勝利を挙げて決勝進出した。
別ブロックの準決勝では、前回大会88キロ以下級の覇者のユーリ・シモエスが、ジャクソン・ソウザ相手にシングルレッグからのバック奪取で決勝点を挙げて勝利。プレギーサとシモエスという、優勝候補本命二人による決勝戦となった。
<99キロ級決勝/20分1R>
ユーリ・シモエス(ブラジル)
Def. by 2-0
フィリッピ・ペナ(ブラジル)
試合開始時から引き込みがマイナスとなる決勝戦とあって、両者立ち技の攻防を展開。お互いテイクダウンのフェイントや、首を下げさせてのギロチンを狙うが許さない。
8分が経過した頃、両脇を差したシモエスはプレギーサの脇をくぐってバックに付く。そこから崩してのテイクダウンに行くと、プレギーサは(引き込みのマイナス以外のポイントは付かない時間帯のため)あまり抵抗せずに倒れ、サイドに付こうとするシモエスをエビで振りほどいてガードに。
この状態は、一見シモエスがまず先制攻撃に成功した形だが、プレギーサとしては、加点時間帯前にマイナスポイント無しになることに成功したともいえる。ここで仰向けになっているプレギーサに対し、シモエスは腹ばいになってその足を抱え込むと、マットとペナの背中の間に潜り込んで下になろうとする。つまり、シモエスもまた加点時間開始時点で自分が下になりたいということだ。普段猛獣の如くテイクダウンを繰り出すシモエスが、同様の激しさで無理矢理相手の下になろうとするその姿はシュールだった。
しかし、プレギーサも背中をしっかりマットに付けて下を譲らない。「立っている相手への引き込みはマイナスだが、最初から下にいる相手を上にする形で自ら引き込んでもマイナスにはならない」というADCC決勝ルールをめぐる、非常に珍しい形の攻防となった。
結局、加点時間帯になったところで、プレギーサが上を狙うとシモエスはそれを回避して立つ。下のプレギーサと上のシモエスで上下が成立することとに。ここでシモエスはすぐにプレギーサの足を取ってアキレス腱固め狙いに。プレギーサはそれを防いで上になるが、これはシモエスが技を仕掛けて下になったということなのか、ポイントは付かない。
やがて両者とも立ってスタンドの攻防に。頭を付けて積極的に前に出るシモエスは、残り5分を切ったところでシングルレッグ。体勢を崩されたプレギーサも、すかさずキムラグリップから後方に投げての切り返しを狙う。が、ガッチリとグリップを組んで防いだシモエスは、スクランブルからプレギーサの背中に。プレギーサもすぐに立ち上がるものの、シモエスはその背中についている。
チャンスを得たシモエスはプレギーサを投げようとするが、バランスを保たれる。ならばとばかりにシモエスはプレギーサの背中に飛び乗りつつ、その勢いで後ろに引き倒すことに成功する。そのまま抑えようとするが、プレギーサもすかさずエビで逃れて立ち上がる。攻防が止まらずノーポイントかと思われたが、レフェリーはここでシモエスに2点を与えた。
残り3分の時点で追い込まれたこととなったプレギーサは、しきりにテイクダウンを狙うもシモエスはがぶる。残り2分、またしてもがぶられたペナは、シモエスが首にかけてくる圧力に押されるような形で下に。マイナスが加算されるかと思われたが、ここはカウントされず。まだ上を取れば同点に追いつける可能性のあるプレギーサは、潜ってのスイープを狙うがシモエスは腰を引いて防御。結局そのまま時間切れとなり、シモエスが昨年の88キロ以下級に続いて2連覇を達成した。
世界最高峰のグラップラー二人が、特殊ルールを利用してポジショニング&ポイントを狙う戦略戦を展開したこの決勝。スタンドで常にアグレッシブに仕掛けてゆく姿勢が、シモエスに勝利をもたらすこととなった。ただ、抑えられる前に立ち上がったにもかかわらず、ポイントを取られたプレギーサには気の毒な結果だ。
最高峰の戦いで勝つにはルールを最大限に利用しなくてはならない状況下で、そのルールの運用に一貫性が欠けるとしたら、選手としては厳しいだろう。なお3位決定戦では、本戦・延長と終始両者譲らぬ攻防の末、ソウザがロバト・ジュニアからレフェリー判定勝ちを収めた。
■リザルト
【99キロ以下級】
優勝 ユーリ・シモエス(ブラジル)
準優勝 フィリッピ・ペナ(ブラジル)
3位 ジャクソン・ソウザ(ブラジル)
4位 ラファエル・ロバト・ジュニア(米国)