【WJJC2017】ルースター級、奮戦・橋本はマルファシーニに一本負け。場外逃避が焦点の決勝
【写真】マルファシーニ×テハは瞬発力と持久力争いの精神戦=手に汗握るポイントゲームが展開された (C)MMAPLANET
1日(木・現地時間)から4日(日・同)にかけて、カリフォルニア州ロングビーチのカリフォルニア大ロングビーチ校内ピラミッドにて、開催されたブラジリアン柔術世界選手権=ムンジアル。
今年度における各階級、そして無差別級における競技柔術世界一を決定するこの大会。レビュー第2回は、橋本知之がブルーノ・マルファシーニに挑んだルースター級準決勝と、決勝の模様をお届けしたい。
<ルースター級準決勝/10分1R>
ブルーノ・マルファシーニ(ブラジル)
Def. by 腕十字
橋本知之(日本)
試合開始後、同時に引き込んだ両者。しかし王者マルファシーニは、迷わず上を選択してアドバンテージを獲得した。すぐに立ち上がったマルファシーニは、凄まじいスピードでダイブして橋本のズボンの尻を掴みながらのバック狙いに。橋本もすかさず反応して防ぐ。その後もマルファシーニは片足担ぎ等の攻撃を仕掛けるが、橋本は足を効かせて許さない。
さらに橋本は、マルファシーニの右足を引き出して肩に抱える形を何度か作ってく。対してマルファシーニは橋本の崩しに、素早く横に飛んで上をキープ。卓越した瞬発力とバランスを見せつける。橋本は得意のベリンボロも見せるが、マルファシーニも逆にベリンボロのカウンターを仕掛けてゆく。
残り1分。アドバンテージで負けており勝負に出る必要のある橋本は、足が絡んだ状態からシットアップして上を狙う。一瞬体勢を崩されたマルファシーニだが、すぐさま敏捷な身のこなしで上を取り返す。この攻撃で橋本にアドバンテージが入った。ただし、この動きの流れを止めないまま、素早くマルファシーニは橋本の頭側に移動。橋本もすかさずインバーテッドガードで反応するが、マルファシーニは一瞬で橋本の上半身を引きずり上げ、その足を殺して横についての抑え込みへ。難攻不落の橋本のガードをパスして見せた。
逃れようと橋本が背中を向けると、そこに乗じてマルファシーニはバックに回って決定的な7点目をゲット。これで完全に勝負ありと思いきや、なんとマルファシーニはさらにそこから橋本の腕を取り腕十字へ! 誰もが口をあんぐりさせてしまうような圧巻の連続攻撃で、世界王者が一本勝ちを果たした。
すでに明らかに勝敗が決しているにもかかわらず、狙う必要のないサブミッションを極めての完全勝利。UFCフライ級絶対王者デミトリウス・ジョンソンを彷彿させるような勝ち方で、マルファシーニが世界の頂点にふさわしい強さを見せつけた。
あまりにも強すぎるマルファシーニに対し、何度も攻撃の形を作ってみせた橋本の健闘は特筆ものだ。紛れもなく世界に通用する逸材であるこの若者が、今回の貴重な経験を経てどう変わってゆくか、今後も注目したい。
<ルースター級決勝/10分1R>
ブルーノ・マルファシーニ(ブラジル)
Def. by 4-4 アドバンテージ 2-1
カイオ・テハ(ブラジル)
マルファシーニを決勝で待っていたのは、やはりこの人。宿命のライバル=カイオ・テハだ。テハは準々決勝でヴィンセント・ングウェンに弓矢絞め、準決勝ではピニェーロをトゥーホールドを極めて一本勝ち。盤石の体勢で絶対王者との雪辱戦を迎えた。
お互いに引き込んで始まったこの頂上対決。マルファシーニはここでも迷わず上を選択してアドバンテージを獲得すると、凄まじいスピードで横に回ってのパスを仕掛ける。しかしテハもハーフガードで足を絡めてその侵攻を止めてみせた。
上でポジションを安定させたマルファシーニが、テハの腕を取ってストレートアームバーを狙うと、テハは体をずらして足関節の体勢に。ここでお互いにトゥーホールドを仕掛けてアドバンテージを取り合う。そのままテハは、マルファシーニの左足をアキレス腱固めのグリップで取る得意の体勢に持ち込んだ。
ここからテハは一度立ち上がって2点を奪い逆転。さらに下向きで額をマットに付けてのアキレス腱固めなどの攻撃を繰り出す。それをやり過ごしたマルファシーニも逆に上になって2点を加算し、ポイント2-2、アドバンテージ2-1で再逆転してみせた。
その後テハはアキレス腱固めのグリップを取ったまま横に回転し、50/50ダブルガードの体勢に。この階級では長身を誇るテハの足は曲げる余裕があるが、背の低いマルファシーニの左足は伸びていてそこまで自由が効かない状態となっている。恐るべき瞬発力を誇るマルファシーニの動きを、体格の特性を活かして封じるテハの頭脳的なポジショニングといえるだろう。
その後テハはこの体勢を保ったまま、額をマットに付けてのアキレス腱固めを狙ったり、体をずらしてヒザ十字狙いをほのめかすなどして終盤まで試合を持ち込んでいった。
残り2分、テハは再び上を取って4-2と逆転すると、アキレス腱固めのグリップを保ったまま再び寝てダブルガードに。このままの状態を試合終了までキープすれば勝利という状況を作ってみせた。テハが入念に描いた妥当絶対王者のシナリオが、着々と進んでゆく……
残り1分。上を取り返さなくてはならないマルファシーニは、50/50で足を絡められたまま強引に片足で立ち上がるが、テハもすかさず立ち上がってケンケン相撲に。そのまま両者もつれてポイントにはならず。背中を見せかけたテハに対して、マルファシーニは再び上体を起こしてバックを狙う。
テハが反転して向き直ると、マルファシーニが低くテイクダウンを仕掛けるような状態となった。ここでテハは一瞬の判断で背を向け、離れようと場外方向にダッシュする。そうはさせじとマルファシーニはそのテハの両脚を掴んで引き戻すが、レフェリーは場外ブレイクを命じた。
時計は残り時間30秒で止まり、道着を直す両者。果たしてレフェリーは、この一連の動きをどう判断するのか。攻防の中でテハが動いた先が偶然場外だったと考えるか、それともテハは意図的に場外逃避したと考えるか。前者の解釈ならマルファシーニが獲得するのはアドバンテージ止まりで、テハがリードをキープすることになり、後者ならマルファシーニに2点が追加されて再々逆転となる。
拮抗している両者の実力を考えた場合、残り時間でどちらかがポイントを奪う可能性は非常に少ない。つまり、事実上今年の世界の最軽量級の頂点を決めることになる判定は──
レフェリーはテハの行為にペナルティを示し、マルファシーニに2点を与えるジェスチャー。この裁定が下ると同時に、テハは困惑と失望が入り混じった表情に。ここまで極めて周到な戦いぶりで、マルファシーニの驚異の瞬発力と反応速度を誇る封じ込めてきたテハ。リードしたまま場外ブレイクに持ち込んでミッション完遂と思いきや、一転その全てが崩れ去ったこととなる。
意図的に場外に逃げたと判定されてしまったが、真相は本人のみぞ知ること。ただし、あの場面で上を譲らないためには、あの方向に動くのは自然なこと。たまたまその先に場外があっただけ、という解釈は十分成り立つように見えた。昨年の準決勝のジョアオ・ミヤオ戦でも勝負どころで脱兎のごとくダッシュして距離を取り、露骨なポイントゲームを展開したことの印象なども、この判定に響いた可能性もあるかもしれない。
試合再開後、マルファシーニに襲い掛かったテハは飛びつきガードからハイガードを作るが、マルファシーニは背筋を伸ばして距離を取って離れる。すぐに立ち上がってテハが追いかけてきたところで、マルファシーニはすかさず座り込んで、減点なしでテハの片足に絡むことに成功。結局残りの10数秒をガードでやり過ごしたマルファシーニが、昨年に続いて宿命のライバルを下した。
究極の身体能力を持つ絶対王者を、その宿命のライバルが極めて高度な頭脳的戦略と技術を駆使して追い詰めた頂上対決は、最後はそんな両者の力さえ及ばない領域=レフェリーの判断で決着。あまりにもドラマチックな、世界最強決定戦だった。
■リザルト
【ルースター級】
優勝 ブルーノ・マルファシーニ(ブラジル)
準優勝 カイオ・テハ(ブラジル)
3位 橋本知之(日本)
3位 ルーカス・ピニェーロ(ブラジル)