【on this day in】4月20日──2010年
【写真】名門一家に育った──その環境は普通の人間には分からないモノあるに違いないけが、カイロンは全くクロンと違う雰囲気を醸し出している(C)MMAPLANET
Kayron Gracie in Gracie Barra America
@カリフォルニア州アーヴァイン、グレイシー・バッハ・アメリカ
「TVに出た歌舞伎役者や2世タレント&議員たちの醸し出す空気感に対し、家内は面白い表現をする。『この人、ボンボン贅肉がついているね』と。別に太っているわけはない。ただ、自分たち一般庶民がする苦労や心配事をこれまでの人生で経験したことはないんだろうな──という雰囲気をその身に纏っている。家内は見たまま口にしているのだろうが、心が人一倍小さな僕は『ぼんぼん贅肉』の持ち主を斜めに見てしまう。芸能界や政界でなく格闘技界にも名門一族なんていう、どこかの貴族や王族にしか用いられない言葉が常について回る人々がいる。カーロス&エリオの世代から、3世代、そして4世代目が第一戦で活躍し始めたグレイシー一族だ。父にIBJJFとグレイシーバッハ総帥カリーニョスを持つカイロンを初めて見た時、彼はまだジュベニウに出場していた。口を開いて、緊張感のない顔に『大丈夫か、この子?』と感じたのは多分に妬みが混じってのモノ。それから5年後、カイロンが黒帯のパン選手権で優勝した直後にバッハの総本山で話を聞いた。名家の嫡男はシビアな世界に生きている。親の威光は政界ほどマットや畳の上では力を持たない。MMAも柔術も世界中に広まっているので、父や叔父の世代より、ずっと厳しい戦いを強いられる。それは同い年のクロンも同様だ。ただ、カイロンからはクロンが発散するような、戦う一族のピリピリさは、一切感じられなかった。ばかりか、同世代に『クロンがいてくれたおかげで、負けても騒がれることなく勝てば喜ばれる居心地の良い環境で戦えた』とまで言ってしまう。育ちが良い格闘家。妙な気負いはない。それでも彼にはグレイシーの姓がついて回る。技でなく、諦めない心を父親から一番教わったというカイロン。クロンはMMAを選択し、カイロンは柔術に留まっている。どちらも茨の道だ。全てを受け入れ、畳の上には一人で向かう。ボンボン贅肉の下には名門の血が流れ、戦う遺伝子が受け継がれている。そんな覚悟が物静かなカイロンから感じられた」
on this day in──記者生活20年を終えた当サイト主管・髙島学がいわゆる、今日、何が起こったのか的に過去を振り返るコラム。自ら足を運んだ取材、アンカーとして執筆したレポートから思い出のワンシーンを抜粋してお届けします。