高阪剛インタビュー “日本は今踏ん張らないと”
SEG体制時代のUFCでは、あのホイス・グレイシーを追い詰め、日本でも大きな話題となった“怪物”キモから勝利を挙げ、“世界のTK”の名を全米に轟かせた高阪剛。その後も、UFC定期参戦を実現させ、RINGS KoK、PRIDEを舞台に活躍。現在は選手を引退し、解説者として国内のDREAMやWOWOWで放送するUFC大会をファンに分かりやすく伝えている。
【写真】“高阪剛公式ジム”ALLIANCE-SQUAREの壁に飾られているUFC18(vsバス・ルッテン戦)のポスターの前で。主催はSEG SPORTSとなっている (C) MMAPLANET
そんな高阪に聞くMMAPLANETインタビュー。その内容は、現行UFCにみるMMAの状況から、世界における日本MMA界の位置づけ、これから挑戦する日本人選手へのエールに至るまでと多岐に渡った――。
「ちょっと手が付けられなくなってきた」
Interview by 川頭広卓
――昨年から日本でもUFCの放送が再開され、解説をされている高阪さんですが、2008年の海外MMA事情を振り返って、率直にどのような感想を持たれていますか?
「まずはUFCも含めて、特にアメリカですけどね。ちょっと手が付けられなくなってきましたよね。やっぱり選手の絶対数が多い。あとはその中で、(選手が)目標とするものがハッキリしている。UFCでチャンピオンになるっていうところに向かって、ローカルの大会から実績を積んで、次の大会へと出ていく。UFCという頂点に向かい、ステップアップをしていくという流れが確立されていますよね」
――これまでも、高阪さんが海外MMAの映像をなんとか入手されては、熱心にご覧になっている姿を何度か目撃しておりましたが、日本のファンからすれば無名であっても、強い選手がどんどん出てきますね。
「自分は試合しか観てないですけどね。実は今年やりたいなと思っていることの一つに、現地の強い選手がいるジムや道場へ、練習に行けたらいいなって思っているんですよね」
――それは本当ですか!
「興味があるのは、練習環境なんですよね。技術を盗んだり、習ったりというわけではなくて。あとは雰囲気。例えば、ATTなんて柔術黒帯の選手や総合のチャンピオンクラスが何十人もいる。普通、そういう選手が固まるとまとまらない筈なんですよね。味付けが濃すぎて(笑)。
ひょっとしたら全く別々にやってるのかもしれないけど、チームとしての役割分担がどうなっているのかといった部分なんかも気になりますよね」
――そうですね。彼らの試合を観て、「一体、どんな練習をしているのだろう?」と感じることが少なくありません。
「思うに、練習自体はそんなに変わらないと思うんですよね。例えば、アジリティ・トレーニングとかも、映像で観る限りはそんな特別なものではないだろうし、陸上選手やサッカー選手等が行っているフィールドトレーニングを取り入れたりということだって、ごく普通にやっていることですからね。
でも、それをどういう環境設定の中でやっているのか。そこに興味があります。そうじゃないと、そんなに強い選手が出てくる筈はないですから」
――環境設定ですか?
「そうですね。なんていうのかな、ある意味、上に向かって這い上がろうとする貪欲さからくる吸収力。語弊があるかもしれないけど、向こうの選手は欲に対して素直ですよね。お金であったり、名声。ちゃんと言葉にして“チャンピオンになったら、何万ドル稼いで家族を養う”っていうってことは、目的意識がハッキリしている証拠だと思うんですよ。
欲の強さが表にドンドン出ていくところなので、ある意味、スキップできちゃうくらいのものがあるんじゃないかな」
――では、日本人選手についてもお伺いします。2008年、UFCに出場した日本人選手はトータルで負け越す結果となりました。今後、選手に求められる資質というのは?
「単純に強くなる、試合に勝つっていう気持ちの持ち方は当たり前の域に達している訳ですから、その次に進むために何が必要なのか?
根本のところから考えなければいけない時期にきてますよね。もちろん、UFCだけじゃなく、今年DREAMにきたエディ(アルバレス)の試合を観ても、ガツガツする度合いや熱の違いが出ている。根本的な気持ちの持っていきかた。これをもっとハッキリさせる必要がありますよね」
――また、宇野薫選手がゴング格闘技の誌面で“UFCへの挑戦”を明言しました。素晴らしいキャリアを持っていても、リスクを背負ってハングリーに挑戦する姿は、本当に応援したくなります。高阪さんは、どんな言葉を掛けますか?
「宇野は特にそうなんですけど、自分がそういう場面にいけば強くなれるっていうことを知ってるんですよね。強くなりたいから、厳しい世界に自分から飛び込んでいく。そうなると、ハッキリいってやるしかない。
今の気持ちを大事にしてやってほしいなって思いますよね。技術的なものでいえば、宇野くらいの選手になると、今持っているモノをいかに組み合わせるかだけだと思うんですよ。例えば、野球で強気のピッチングなんていいますけど、一球ではなく、何球も畳み掛けることによって強気の姿勢がバッターに伝わる。畳み掛け方というところでも、強気の姿勢があれば強い技を出していけるようになる」
――なるほど。さて、高阪さんがアメリカに拠点を移し、キモと対戦したUFCからもう10年が経ちましたね。純粋に強さを求めてアメリカへと渡った高阪さんにとって、今の日本格闘技界はどのように映りますか?
「今は頑張りどころですよね。選手、主催者、ともに今踏ん張らないといけない。今のアメリカ、特にUFCに限っていえば、選手の層がメチャメチャ厚いですからね。しかも通用しなければ容赦なく契約を解除されたりする。
厳しい世界だから当たり前ですけど、日本の格闘技界はまだそこまでいけていない。厚みという部分。個人競技ですけど、周りにどれだけ絆の深い仲間がいて、尻を叩いてくれるか、危機感を持たせてくれるか。選手には、それぞれが持つ役割を果たしてほしいという気持ちもあるんですよね」
――その中でも、少しづつですが、アメリカへと渡って腰を据えてMMAを学び、挑戦しようという選手も出てきています。高阪さんも選手から相談されることがあると思いますが。
「誰であろうと、単純に選手としてなら、“ドンドンやれ”って思いますよ(笑)。
もし一対一で相談されたら、二つ返事で行けっていいますね。日本の格闘技界を盛り上げたいと言う気持ちも強いんですけど、分かってはいても、自分は根本的な部分はやっぱりファイターなんですよね。だから、日本人選手にはどんどん挑戦を続けて強くなってほしいです」
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