キンボ幻想終焉、カラーノは地力をみせる
10月4日(土・現地時間)、米国フロリダ州サンライズのバンクアトランティックセンターでは、CBS&EXC『SATURDAY NIGHT FIGHTS』が行われた。
【写真】キンボ幻想は1年を持たずして完了。今後のEXCのカジ取りは、どの方向へ向う? (C)Tom Casino/EXC/CBS-SHOWTIME
本大会では、キンボ・スライス×ケン・シャムロックの一戦がメインイベントで予定されていたが、シャムロックが試合前のウォーミングアップでトレーニング・パートナーの頭がヒットし、目じりをカット。6針縫う負傷を負ってしまう。
ここでリングドクターは、「シャムロックは自らの身を守る上で問題がある。通常であれば45日間のサスペンションとなる傷」として、彼の試合出場を許可せず。同カードは大会直前で消滅してしまった。
「申し訳ない。キンボは、計量で背中を向けるという無礼なマネをしたから、本当に戦いたかった。俺は今でも戦える状態にある。だが、許しが出なかった」というシャムロック。そのため、EXCでは第4試合に出場予定となっていたセス・ペトルゼリを繰り上げ。急遽シャムロックの代役としてキンボと対戦することを発表した。
その一方で、「ファイトはファイト。戦い方は少しは変わるが、とにかく戦うだけだ」と対戦相手の変更に言葉少なげなキンボ。解説を務めたケンの義理の弟フランク・シャムロックは、「試合前にそんなハードなウォーミングアップをすることが信じられない」とCBS中継開始時に語っている。
知名度ではUFC殿堂のケン・シャムロックだが、代役となったペトルゼリは現代MMAの中でもまれたリアル現役MMAファイター。体格もシャムロックと大差なく、キンボにとってはリスキーな一戦となったことは否めない。事実、メインイベントで行われた一戦は、ペトルゼリの右ストレートを受けたキンボが前のめりにダウン。追撃のパウンドを防御の術もなく浴び続け、14秒での敗退。EXC人気を支えてきたキンボ、その幻想は完全に消え失せ、解説のフランクは「これがMMA」と語っている。
<第6試合 ミドル級/5分3R>
ベンジー・ラダッチ(米国)
Def.2R2分31秒/TKO
ムリーロ・ニンジャ(ブラジル)
UFC&IFLで活躍してきたベンジー・ラダッチ。自らのスタイルをフェイススマッシング・フーと名乗る。対するは前EXC世界ミドル級王者、日本でもお馴染みのニンジャだ。
試合は、ラダッチが飛びこんで左フック、右を返して試合がスタート。パンチを受けたニンジャは組みつこうとするが、片ヒザをついた状態で、顔面に右フックを受けて早くもグロッキー状態に。
大振りのラダッチのパンチと、態勢が崩れたニンジャのパンチが交錯し、両者ダウン状態に。ここでニンジャが素早くラダッチに組みつきテイクダウンを狙うが、がぶったラダッチはギロチンへ。首を引き抜いたニンジャは、距離をとってフライングニー。これを受け止めたラダッチは、テイクダウンからサイドを奪おうとする。
ガードからアームロックを狙ったニンジャは、ヒールフックへ。ヒザを押し、足を引き抜くことに成功したラダッチだが、ニンジャは再びハーフガードからヒールへ。内ヒール、外ヒールを繰り返したニンジャ、この試みは功を奏さなかったが、片足タックルにきたラダッチの上半身を潰し、チョークを仕掛ける。と、ここで1R終了の鐘が鳴り響く。CBSライブ中継は、激しいノンストップアクションで始まった。
2R、足技を織り交ぜてプレッシャーを与えるニンジャは、ラダッチをケージ際に追い込んで右ハイを放っていく。飛び込んでヒザ蹴り、さらにローを見舞うニンジャに、ラダッチの右ストレートがヒット。それでもローを蹴り込むニンジャは、胴タックルへ。小手投げで切り返すラダッチ、2Rもノンストップアクションは続く。
ラダッチの右フックを受けたニンジャが、左ヒザを繰り出すが、ここでラダッチの左フックがヒット。ニンジャはバランスを崩し尻もちをつくと、その刹那、ラダッチはニンジャの両足を払い、強烈な右パウンドを顔面に落とし、そのままパウンドを重ねたラダッチ、ここでレフェリーが試合をストップ。ベンジー・ラダッチが、フェイススマッシング・フーにふさわしいTKOでムリーロ・ニンジャを破った。
■<第7試合 女子140ポンド契約/3分3R>
ジナ・カラーノ(米国)
Def.3R終了/判定
ケリー・コボルト(米国)
最強の美女戦士カラーノと、ベティちゃんを思わせる剛腕コボルトの対戦。カラーノのグラウンドスキルが問われる試合になる。
試合開始早々、胴タックルからテイクダウンを狙うコボルト。カラーノはヒザ蹴りを返し、簡単にテイクダウンは許さない。両差しの状態から、なかなかテイクダウンを奪えないコボルトは片足タックルに切り替えるが、ここで場内からはブーイングが起こった。
距離を取ったカラーノ、大ぶりのフックを放つコボルトに伸びのあるストレートを放つと、首相撲からヒザ蹴りを見舞う。ここで再び組みついたコボルトは、ケージにカラーノを追い込むが、ここでもテイクダウンを奪えないまま、打撃戦へ。両者の拳が交錯するなか、あっという間に3分間が過ぎ去った。
2R、開始早々、カラーノのパンチの連打、ヒザ蹴りがコボルトを襲う。必至の形相で胴タックル、両差しになったコボルトが距離をとって、パンチを放っていく。距離を取ったカラーノは、左ミドル、左ジャブから右ストレート、さらに前蹴りを放つが、クリーンヒットはない。
飛び込んでパンチからクリンチを狙うコボルトに、カラーノはヒザを突き上げるが、これは空振り。再び飛び込んだコボルトは、ここでテイクダウンに成功する。声を出しながら、パウンドを落としたコボルト。常識的に考えれば、この2Rはコボルトのラウンドだ。
右目の内側をカットしたコボルト、最終ラウンドも試合開始のゴングとともに飛び込んでテイクダウンを狙う。ジナ・コールに後押しされたカラーノは、ここでもテイクダウンを許さない。場内のブーイングにレフェリーがブレイク。コボルトはフックを振るいながら、前進。ニーを受けても、構わず組みついてテイクダウンを狙っていく。
ケージを背にしたカラーノはここでスタンドのチョークへ。もつれてグラウンドへいくと、首が抜け、残り試合タイムはわずか20秒に。前蹴り、左ハイ、前蹴り、ミドルを連打で試合終了を迎えたカラーノ。しっかりとカメラ目線で舌を出して笑顔を浮かべる。
打撃の攻防で上回り、コボルトのテイクダウン・アテンプトをほぼ防いだカラーノが29-28、30-27、30-27という裁定で判定勝ちを収めた。
■<第8試合 ヘビー級/5分3R>
アンドレ・オルロフスキー(米国)
Def.2R3分14秒/TKO
ロイ・ネルソン(米国)
活動停止したIFLの世界ヘビー級王者ネルソンと、元UFC世界ヘビー級王者オルロフスキーの対戦は、CBS中継にしっかりとアフリクションのテロップが入る中でスタートした。寝技の強さには定評のあるネルソンだが、当然スタンドのスキルはオルロフスキーが上。「ネルソンの試合はチェックした。チョークも足関節も怖くない」というオルロフスキー、やはり会場人気も抜群のものがある。
飛び込むネルソンに、ローキックを返すオルロフスキー。胴タックルで組みついたネルソンに反り投げを狙ったオルロフスキーだが、キャンバスについた瞬間にトップを奪われてしまう。そのままサイドをキープし、アームロックを仕掛けたネルソン。ボトムで暴れるオルロフスキーは、アームロックを外すことは成功したが、立ち上がることは許されない。
ハーフガードからアームロックを執拗に仕掛けるネルソンは、そのままパスガードに成功する。スタンドの攻防を望む場内はブーイング。と、ここでネルソンがサイドを取って関節を狙う状態にも関わらず、レフェリーはブレイクを命じた。
再開直後も、組みついてオルロフスキーをケージ際に追い込んだネルソン。差し返したオルロフスキーはヒザ蹴りをボディに見舞っていく。再びブレイクがかかり、ケージ中央で向き合うとオルロフスキーは左右のパンチを放っていく。ネルソンが右フックから、再び組みつくとそのまま1Rが終了した。
2R、ネルソンは再び組みつきテイクダウンを狙う。ケージに押し込まれたオルロフスキーだが、首を切って、距離を取ることに成功する。パンチのプレッシャーでネルソンをケージに追い込んでハイキック、ストレートをヒットさせると、首相撲から左ヒザを突き上げ、左右のフック。直後に右アッパーを打ち込み、最後は右ストレートを完璧なタイミングでヒットさせたオルロフスキー。ネルソンが後方に倒れ込むと、レフェリーが試合をストップ。終わってみれば、横綱相撲でオルロフスキーがネルソンを下した、IFL×UFC世界王者対決であった。
■<第9試合 EXC世界ウェルター級選手権試合/5分5R>
【王者】ジェイク・シールズ(米国)
Def.2R3分47秒/腕ひしぎ十字固め
【挑戦者】ポール・デイリー(英国)
EXC世界ウェルター級選手権試合。いつになくシールズの挑発的な言動が試合前に目立っていた一戦は、そのシールズの左ハイでスタート。飛び込んで左ストレートを放ったデイリーに対し、シールズは遠い距離からの片足タックルを狙うが、これは切られてしまう。
距離を詰めて組み合いたいシールズは、二度目のチャンスでテイクダウンに成功すると、すぐにパスガード。デイリーがヒザを戻そうとした瞬間に、マウント奪取する。腰を押して、上方へ逃げようとするデイリーに対し、シールズは徐々に勢いのあるパウンドを落としていくと、エルボーを織り交ぜ、左右のパウンド。サイドに戻ると、直後にマウントへ移行し、今度は高い位置でポジションをキープ。パワフルなパウンドを落とす。
シールズは残り時間30秒で腕十字を仕掛けるが、腕を引き抜いたデイリーがパウンドで反撃、このままの態勢で1Rが終了した。
2R開始早々、左ハイを繰り出したデイリー。豪快なパンチを振るい、シールズのタックルを切ることに成功。引き込んだシールズは、ヒールフックからトップを狙ったが、寝技に付き合わないデイリーは、エスケープに専念。それでもテイクダウンにこだわるシールズは、ケージ際で組つくとそのままテイクダウン。またも直後にマウントを奪い、パウンドを落とすと、エルボー&パウンドで攻める王者に、フロリダの観客はブーイングを送る。
強烈なエルボー2発から、腕十字の素振りを見せたシールズ。ここで一旦、サイドに戻り、より良いポジションのマウントを奪い返す。と、ここで一気に腕十字へ。必死に暴れるデイリーだが、その肩をしっかりとホールドした完璧な仕掛けは、ローリングを許すことなくタップを奪うことに成功した。
グラウンドで鉄壁な強さを見せつけたシールズ。「次? ミドル級の王座も狙ってみたい」とコメントしたが、キンボ目当ての観客の反応は非常に少なかった。
■<メインイベント ヘビー級/5分3R>
セス・ペトルゼリ(米国)
Def.1R14秒/TKO
キンボ・スライス(米国)
割れんばかりの地元ファンの声援を集まるキンボ。ケージサイドには、ハルク・ホーガンが見守る中、メインイベントがスタートした。
いきなり飛び込んでパンチを狙ったキンボだが、ここでペトルゼリの右前蹴り、直後の右のショートストレートがアゴ先にヒット。そのまま前方に倒れ込んだキンボに、パウンドを続けるペトルゼリ。パンチを受けながら、ディフェンスもできず仰向けになったキンボは、マウントを許す形でパウンドを受け続けると、レフェリーが試合をストップ。わずか14秒のファイトとなった。
左目を二カ所カットしたキンボは、茫然自失。リスキーなファイトを受けてくれてありがとうというリングアナの問いかけに、「ここに来てくれた観客のみんな、ありがとう。俺は大丈夫、このままパーティーだ」という勢いのいいセリフは残したキンボ。ただし、リングアナの質問を遮ってキャットウォークへ歩を進める姿に、誰もがMMAの現実を見た思いがしただろう。
EXC人気を支えてきたキンボ、その幻想は完全に消え失せた。「これがMMA」という解説のフランク・シャムロックの言葉が、米国のカジュアルMMAファンにも、しっかり伝わってほしい。