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【Bu et Sports de combat】武の観点で見るイリスベク・ティレノフ。統一体=全体が繋がる

【写真】変な動き、下手くそ――では済まされない能力をティレノフは持ち合わせている (C)RIZIN FF

8日(日)に千葉県船橋市のLaLa arena TOKYO-BAYで開催されるRIZIN55で井上直樹と対戦するイリスベク・ティレノフ。
Text by Manabu Takashima

7月の広島大会で太田忍と対戦し、五輪銀メダリストの組みに対応し、打撃では圧倒。ヒザ蹴りでKO勝ちを収めた。決して、その打撃は綺麗ではない。いうとリズムが悪い。しかし、精度も低くなく何よりも軸が乱れないという印象を残した。井上はそんなティレノフの戦い方を「変」と表現した。

確かに変だ。棒立ちのような腹を見開いた構えをしていて、バランスが悪く不格好なパンチや蹴りを蹴るのだから。それでも前後50/50の重心をキープし、カカトをつけた前進運動は、その踏み込みを上への移動に変換できる。カカトを接地することで、骨盤や体幹の軸が出来上がり、地面からの反発力を上半身に伝えることができるのだ。

そのためには腹圧を高めて、重心を安定させること必要になるが、ティレノフの戦い方はそうしているに違いと思われるほど、姿勢が悪くなったり、相手と接触をしても体幹のブレが抑えられている。背中を丸め、腹を隠すような姿勢でなく。胸を開き、腹を適度に膨らませるような姿勢で、腹圧を高めることが腹に重心があることで、上半身の無駄な力みが抜けて打ち抜くパンチで止めるパンチで威力が増す。

これは武でいう全体の連動=チンクチ、その腹膜や骨盤周辺の筋肉や重視のコントロール=ガマクを連動させた動きではないのか――。ということで、剛毅會・岩﨑達也宗師にいティレノフの動きを解析してもらった。

MMAと武、剛毅會の手は同列ではない。ただし、武の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武の修練を積む選手が試合に出て武を意識して勝てるものではないというのが、剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは間、質量といった武の観点でイリスベク・ティレノフの強さを追求してみたい。

そこで岩﨑宗師の第一声で聞かれたのが、統一体という言葉だった。


――先日、岩﨑宗師にティレノフに感じた「変」な動きの要因――腹が中心に四肢が繋がっている。結果、軸が乱れないという個人的な印象をお伝えして、試合映像を4試合ほど確認していただきました。

「腹がどうこうというか、統一体ですね。基本、ティレノフはレスリングの人で。太田選手に組み負けないから、打撃の攻防になり、打撃で勝った。普通にしているだけだけど、そこは一つにまとまっている」

――ボクシング、キックボクシングを基準にすると、その打撃は「変」だとは思います。動きが独特で。

「彼の打撃は、ソビエト・ボクシングですよ。ソビエト・ボクシングの人は、全体的にまとまって腹が据わっているんですよ。キルギスや〇〇スタンって国の人達、所謂テュルク系の国の人達は」

――ソビエト・ボクシングの動画を確認すると、あのステップやパンチの打ち方も腹で四肢が繋がっているように感じました。そして軸が乱れない。

「ティレノフもステップから打つ時にバタバタすることがなく、変に距離を詰めることもないです。よくMMAでも打撃の試合でも見ていると、パンチも届かせようとする余りに前のめりになり、姿勢を乱すことが往々にあります。それは私もよく稽古中に注意することです。

ティレノフは送り足でヨタヨタ、イチ・ニ・イチ・ニと前に出ることもない。遠い間合いの時は後ろ回し蹴りとかしか蹴らなくて、パンチは短いパンチしか出していない。手を伸ばして、届かそうとすればするほど統一体ではなくなりますからね。

遠い距離では蹴りを多用。スピニングバックキックのタイミングと距離もしっかりとはまっていた(C)RIZIN FF

統一体とは全てが纏まった形であって、全体と言っても良いです。あらゆる動物がそうで、人間も本来は繋がって生まれてきているわけで」

――ハイ。

「パーツ、パーツでない。型で追及していることが、一つにまとまった状態にすることです。元々は人間も持っているんですよ。でもパンチを打とうとか、蹴ろうとかすると統一体ではなくなってしまう」

――繋がりがなくなり。突出してしまうというですね。

「ハイ。大体、競技というのは生きていく上で本来は必要ないモノです。動物で競技をしているのは、人間だけです。統一体でないことをしているのは、人間だけで。統一体でなく動いている動物は、人間しかいないわけです」

――ペットや家畜は、そうかもしれなくないですか。

「そうですね、それは。野生にはいない。特に競技のように打撃はこう、組みはこうとやると統一体ではなくなります」

――いえば野生動物が何かを捕食するとき、あるいは抗う時。縄張り争いをするときに、何かに突出した戦いなどなく、何でも有りなわけで。

「そうそう。だからソビエト・ボクシングにしても動作、パンチの起こりなどは全く統一体ではないです。だけど、体が一つに繋がっているんですよ」

――足で地面を捕えるわけですが、ここに下半身の力よりも腹から伝わっている方が姿勢が保たれる。それをティレノフに見たような気がしました。

「いや腹というか、全部ですよ。私は腹とは思わなかったです。全体的に手から足から、全体が伝わっている。腹に力をと考えると、その時点で腹だけ分離してしまうから」

――ハイ。そうですね、自分が感じていたのは腹から力を出すのではなく、腹を経由して四肢が繋がっているということだったように、その話を伺って思えます。それがティレノフに見た、腹で中心という印象でした。

「腹で繋がっていると、剛毅的にはもう統一体です。だから『変』だとか、『下手くそ』っていうのは何をもってそう定義するのか。ティレノフのパンチは力が伝わっています。統一体とは全身の力が拳先に伝わっている……沖縄ではチンクチと呼ばれる状態ですね。綺麗に打ったところで、力が伝わっていない選手は多いです。だからティレノフは動作が大きくないと思います。

大きく打とうとか、捻ろうとか、腰で何とかしようと思えば思うほど、統一体ではなくなります。パンチを打つ、蹴るという時に運動力学を使い過ぎる。それが米国のボクシング、MMAかと。ディミトリ―・ビボル(キルギス出身ロシア人ボクサー。WBAスーパー、IBF、WBO世界ライトヘビー級統一王者)が『西側』という言葉を使うんですよ。これは完全にソビエト時代の言い方で。西側の体の使い方って言うことは、彼らは東側で違う体の動かし方がある。運動力学がソビエトと西側諸国は違うのでしょうね。

ただビボルにしてもパンチの打ち方は統一体でもなんでもないです。でも体の捉え方が西と東では違うような気がします」

――かなり難しい話になっていますが、一部に特化すると統一体ではなくなるということで。なぜかティレノフは統一体になっていると。

「私は今も朝の稽古の時に、頭の先から爪先まで繋がっているのか。そこを意識していますしね。力が伝わっているかどうか。例えばダブルレッグやシングルレッグを切ろうとして、その姿勢を取っても力が伝わっていない選手がいるなかで、ティレノフは普通にしていて、何か大きなリアクションがなくても重い感じがしました。太田選手が崩せないということは、重いということだと思います。

全身が力が繋がっているために、腰も重いか(C)RIZIN FF

まぁ使う技を見ても、どういう系統なのかは分からない。でも強いて言えば、やはりシェイドゥラエフに似ています」

――シェイドゥラエフに似ていますか!!

「似ていますね。打撃を臆さないところが。打撃を臆さないけど、実は組みの人。そして打撃のバリエーションはティレノフの方がシェイドゥラエフより多いです。だから、この選手はストライカーからすると一番厄介だと思うタイプの選手ですよ。打撃を臆さずやってくるというのは。同時に彼の蹴りもパンチも、組みの人の打撃です。最後は組めば良いという打撃で」

――組みが強いのだから、それで良いわけですね。怖がらずに組むことができるので。

「それで全然構わないです。相手が嫌なことをやるのが、MMAという戦いですから。打撃を嫌がっている相手に、組みに行くのは違いますけどね。攻勢点を取れるなら、組みの中で打撃を使うべきで」

――統一体であるからこそ、空振りをした時も他の部分が繋がっているから、その後の対処や姿勢が良いということはあるでしょうか。

「そこはティレノフから凄く感じました。彼もミスがないわけではないです。ただミスはしますが、少ない。余計な踏み込みはしないし、自分のなかの一つのまとまりを大切にして動いているように見えました」

統一体であるが故に軸が乱ぶれず、力が拳に伝わる。加えて空振り後の姿勢の乱れも少ない(C)RIZIN FF

――それを持っている人間はMMAを戦う上で強いですか。

「強いに決まっていますよ(笑)。逆に日本ではメカニズム的な連動が凄く重視されていて、実際に相手に効いているのかが置き去りにされているような気がします。ただし、ティレノフに関しては太田選手との試合や、それまでの試合でもまだ見せていないですけど、打ち負けた時にどういう打撃を使うか見てみたいです。あとは組みが強いダニー・サバテロと戦った時に、どうなるのか。

とはいえティレノフの強さは根っこの部分で、技術的なコトではないと思いますね。腹の据わり方だったり、心の有り方だったり。だから、そこがないと彼の動きだけを見ても、参考にならないと思います。とはいえトータルMMAという部分で考えると、井上直樹選手に分があるのかな……。どちらが腹を決めてくるのか。腹を決めた人間は強い。テュルク系と日本人は腹の据わり方は違うかと思いますが、リングの上でどうなるのか。この試合は本当に面白くなりそうです」

■視聴方法(予定)
11月8日(日)
午後12時45分~ ABEMA、RIZIN LIVE、RIZIN100CLUB、スカパー!

■RIZIN55対戦カード

<RIZINフライ級選手権試合/5分3R>
[王者]神龍誠(日本)
[挑戦者]トニー・ララミー(カナダ)

<バンタム級/5分3R>
井上直樹(日本)
イリスベク・ティレノフ(キルギス)

<バンタム級/5分3R>
福田龍彌(日本)
キム・スーチョル(韓国)

<バンタム級/5分3R>
鹿志村仁之介(日本)
太田忍(日本)

<フェザー級/5分3R>
アバイジャ・カレオ・メヘウラ(米国)
相本宗輝(日本)

<フェザー級/5分3R>
牛久絢太郎(日本)
リー・カイウェン(中国)

<ライト級/5分3R>
キム・ギョンピョ(韓国)
ヌルハン・ズマガジー(カザフスタン)

<ヘビー級/5分3R>
マック・パパリイ(サモア)
赤沢幸典(日本)

<フェザー級/5分3R>
鈴木博昭(日本)
千春(日本)

<バンタム級/5分3R>
中島太一(日本)
溝口司(日本)

<ライト級/5分3R>
雑賀“ヤン坊”達也(日本)
倉本大悟(日本)

<フライ級/5分3R>
濱田巧(日本)
関原翔(日本)

<フライ級/5分3R>
力也(日本)
木村琉音(日本)

<ライト級/5分2R>
ジェイク・ウィルキンス(日本)
山﨑弥十朗(日本)

<フェザー級/5分2R>
井上舜矢(日本)
マイティ・saw(ミャンマー)

<フェザー級/5分2R>
松本尚大(日本)
髙橋正親(日本)

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