【M3 CUP08】キッズ&ジュニアとアマチュアに団体の壁は存在しない――奈良の初心者メイン大会に見る未来
【写真】幅広い世代の参加者、広い会場と多くの観客。そして裏方に徹し、撮影係で動き回る主催者――幾つも大切なものが見えた奈良のアマチュア格闘技大会だ(C)SHOJIRO KAMEIKE
11月3日(火・祝)、奈良県奈良市のロート奈良第二武道場でアマチュア格闘技大会『M3 CUP08』が開催された。
Text by Shojiro Kameike
奈良県の格闘技ジム『M3A FIT』代表のMIKE氏が自身のジムのスペースを使って第1回大会を開催したのが2023年3月のこと。第2回大会から会場をロート奈良第二武道場に移し、キッズ&ジュニアのカテゴリーもスタート。これまでアマチュアGladiatorやアマチュア修斗が共催されたこともある。
今大会のエントリー人数は300人、午前9時30分に始まった大会が終了したのは午後6時30分ごろ――なぜM3 CUPが奈良県内だけでなく近畿圏で最大規模のアマチュア大会に成長したのか。M3 CUPを通じて、日本のアマチュア格闘技大会の未来について考えてみたい。
大阪難波から近鉄奈良線の快速急行で約30分。大和西大寺を過ぎたところで平城京跡を通り抜け、近鉄奈良駅に到着する。その先に見えるのは、東大寺など歴史遺産を有する奈良公園だ。M3 CUPの会場、ロート奈良第二武道場があるロート奈良鴻ノ池パークまで行ける路線バスの本数も多い。それだけロート奈良鴻ノ池パークの利用者が多いということだろう。
ロート奈良鴻ノ池パークには武道場だけでなく、J3リーグに所属するプロサッカークラブ『奈良クラブ』の本拠地=ロートフィールド奈良があり、この日も奈良クラブ×ザスパ群馬の公式戦が開催されていた。他にもバスケットボールBリーグの『バンビシャス奈良』のホーム会場であるロートアリーナ奈良、野球場のロートスタジアム奈良(奈良市鴻ノ池野球場、ならでんスタジアム)、さらに陸上競技場やテニスコート、相撲場まで備えた一大スポーツ施設――それがロート奈良鴻ノ池パークだ。
当日はM3 CUP08と、M3 CUP KIDS&Jr.03の共催。午前中はキッズ&ジュニアのMMAと大人のグラップリング&柔術、続いて午後はキッズ&ジュニアのグラップリングと柔術、そして大人のMMAとキックボクシングがマット2面で並行して実施される。まず驚かされたのは参加している面々だ。
北川純(ゴンズジム)、生駒純司(修斗GYMS直心会)、田中寛之(直心会生野道場)、ウエタユウ(MIBURO)、今村豊(POLAR GYM大阪)、柴田MONKEY有哉(team KIZUNA)、獅庵(reversal gym osaka)、手塚基伸(シークレットベースドミネート)、松場貴志(パラエストラ加古川)、NavE(N☆TRUST)、そしてパンクラス大阪勢などなど――ここで名前を挙げることができていない方がいれば申し訳ない――そんな近畿圏のMMAを支える面々が、大人から子供まで多数のジム生のセコンドとして来場していた。
今年に入り、大阪でジムをオープンした内村洋二郎も仲間入りし、もちろんM3A FITからの出場者も多い。近畿だけでなく、岐阜コンキリオからも多数の出場者があった。それは柔術&グラップリング、キックボクシングでも同じだっただろう。これだけのメンバーが集まれば、どれほどのことが実現できるのか。「キッズ&ジュニアとアマチュアに、団体の壁は存在しない」そんな理想を目の当たりにした。
「初心者メイン、草野球やフットサルのように出られる大会」がコンセプトなだけに、アマチュアでも「公式戦」を行っている大会と比べれば、基本的に雰囲気は緩い。用具の不備による遅延や、自身の試合に遅刻をしても減点や中止はなく、相手側も笑顔で受け入れる。MIKE代表も「過去、会場に来ていない選手がいた時は困りましたけど、基本的には会場にいますから、呼び出せば来ます」と笑う。体重、防具、道衣などがしっかりしていれば問題はなく、MMAでもキックでもスポーツ用ではない普通のTシャツ着用でOK。それこそ「趣味」として出場できる格闘技大会だ。

出場資格は「格闘技経験2年未満」だが、たまに柔道やレスリングの競技歴の申告忘れもあるという。そんななか「これは2年未満じゃないだろう」と思われるような、内容で会場を沸かせる試合もあったが……MIKE代表が確認したところ、格闘技経験は8カ月だったという。レベルがヤバい
重要なのは、初心者でも安心して試合に臨める安全性であり、その点も大会中にレフェリー同士が何度も「今のストップは早かったか、遅かったか」を確認し合っている。出場者がレフェリーへ、ストップの裁定に不満を漏らすシーンも見受けられなかった。ただただ、大人たちも短い試合時間のなかで、全力で手を出し合い、試合を終えて笑顔で握手や抱擁し合う。
「趣味として出場できる格闘技大会」としての雰囲気を象徴していたのは、大人のMMA&キックボクシングのルール確認が行われたあとだった。出場者はもちろん、セコンドや観戦者からも拍手が起こったのだ。公式戦であれば、選手も試合直前にそのような余裕はないかもしれない。主催者だけでなく、参加している全員でつくる大会――普段は記者としてプロ・アマを問わず公式戦を取材して続けている身ではあるが、その拍手を聞きながら思わず笑みがこぼれた。
日本格闘技界の歴史を考えると、こうした初心者向けアマチュア大会を「興行」として、入場料を取って開催してきたケースも少なくない。見たい人がお金を払って見るだけなら、特に問題はないかもしれない。しかし安全性を確保せず、ただ格闘技の一つの側面ばかりを強調し、かつ選手側に危険なリスクを負わせるばかりの大会が存在するのも現実だ。
MIKE代表は言う。
「観戦も多いから、よく『観戦料を取らないの?』って言われるんですよ。でもお金を取ったら、これだけの人数が見に来てくれることはないから。エントリーが300人いれば、セコンドや観戦まで含めたら1000人ぐらいになります。その人数が奈良でご飯を食べて帰ってくれたら、それで良いんです」
MIKE代表によれば、M3 CUPは行政から「町おこし」としても期待されているという。初めてロート奈良第二武道場の使用について行政に相談した時、当初はあまり反応が良くなかった。しかし行政に認めてもらうための活動と、何度か大会を重ねることで信頼も得てきた。この点は名古屋市でNagoya Fight Fesを開催する坪井淳浩GSB代表に、名古屋市の管轄である若宮広場の使用について訊いた時の回答と一致する部分がある。
「(懸念は)何もないですよ。別にコンテンツは何でも良くて、大切なのはその場所を正しく使うこと。近隣に迷惑をかけず、大会が終わったらキチンと清掃する。そうしていけば、ずっと続けることができますし、何よりも続けることが大事ですから」
この日、大会会場の外を上半身裸でうろつく選手はいない。ごみを散らかすこともない。子供たちがはしゃぎすぎれば、大人が注意する。そのためには大人が、子供たちに自身の背中で見せていかなければならない。誰かにオラつく必要もない、ただ格闘技を楽しむ空気が存在していた。
MIKE代表は「こういう大会を奈良でやっていることが凄いでしょ」と笑う。では、奈良でしかできないことなのか。他の地域でもできるのではないか。そう考えた時、M3 CUPの継続は確かにロート奈良鴻ノ池パークという施設の存在に依るところは大きいかもしれない。しかしこのような施設が、他の都道府県にないわけではない。しっかりと大会が運営され、行政と協力できれば開催の見込みはある。
「他の地域からも『M3 CUPを開催したい』という声を頂くんです」とMIKE代表。と同時に「M3 CUPでなくてもいい。日本全国でこういう大会が開催されてほしい。ウチも選手を出したい」と言う。すでに各地で、大規模アマチュア大会は幾つも開催されている。もちろんプロやアマチュアの公式戦が存在しなければ、格闘技が発展していかないことは分かっている。そのなかで、こうしたアマチュア大会のネットワークも広がってほしい。キッズ&ジュニアとアマチュアに、団体の壁は存在しない格闘技界を目指して。



























