Column 「花の都のDREAM TEAM」後篇
【写真】2001年4月にグラン・トロフィーで誕生したドリーム・チーム。左から小川英樹、土田真也、後藤龍治、須田匡昇、桜井マッハ速人、和田拓也、稲田卓也、楠勇次。パリサンジェルマンの柔道クラブで大会前に稽古を行った。真っ赤なお揃いのTシャツは、INSPRITが日本チームの応援のために作製してくれたもの
※本コラムは「格闘技ESPN」で隔週連載中の『10K mile Dreamer』2010年7掲載分に加筆・修正を加えてお届けしております
文・写真/高島学
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日本人選手、7名。マッハはマストというヒベール氏の要請。マッハと修斗からはすぐに承諾を得られた。
が、その後フランク・トリッグを歴史に残る名勝負で破った彼の下に、UFCからオファーが届いた。それでもマッハは、「先に声を掛けてもらって、試合が決まっているから」と、この世界的に見れば名もなき大会出場を優先してくれた(その後、ゴング格闘技のインタビューでは、それが本意でなかったと打ち明けていたが……。当事者として、グラントロフィーに出たくないという発言は、一度して聞いていない)。
対抗戦に出場するメンバーは、過去の大会で結果を残している須田君と和田君に加え、須田君の同門の楠(勇次)君。さらに大道塾から北斗旗軽量級5連覇後、2年に渡り実戦の舞台から離れていた小川(英樹)選手、97年&00年の北斗旗重量級優勝の稲田(卓也)選手、キック界から柔道経験のある後っちゃん(後藤龍治)が、未知のルールに挑むことになった。
競技の枠を超えた戦う集団の誕生に胸が躍った。
【写真】この時点で北斗旗体力別、軽量級と中量級で7度の優勝。7カ月後の空道世界選手権軽量級を制している達人・小川英樹
現地に到着してからの練習で、小川選手は日本チームの全員を足払いで転がし、『達人』と称されるようになった。試合でも抱え上げてきた相手の襟をとり、34秒で一本勝ち。まさに達人振りを発揮してくれた。
稲田選手は、初めて素面に挑み、鼻血を滴らせ大苦戦も「アレしかできない」という腕十字で一本勝ちしてみせた。ただし、対抗戦で大道塾勢に並び、勝利できたのは和田君だけだった。その和田君は、本職の打撃系格闘家に決死の覚悟で組みついて倒し、ヒールホールドでタップを奪ったものの、「怖かった」と涙目になっていた。一方、日本人サイドの打撃の本職=後っちゃんは、投げ有りに自分のタイミングで戦えずスタミナをロス、結果、得意分野のパンチで打ち負け、判定負けを喫した。
楠君の対戦相手は、キックやサバットの世界王者で柔道四段、フランス勢の中心選手。必死にガードから腕十字や足関節を仕掛けるも、スタンドで圧倒され、左目を腫らして敗れた。須田君もヒザ固めを狙った際にヒザの靭帯を損傷、病院送りになってしまった。
対抗戦は3勝3敗、よもやの合計ポイント獲得数の差で、薄氷を踏む勝利となったが、スーパーファイトに出場するマッハの目は、怒気を含んだものだった。
「須田さんが病院送りにされたから」とマッハ。国別対抗戦、アウェイの地だからこそ、感じられる仲間意識というものだろうか。マッハはキックボクサーを相手に打撃でも優位に試合を進めて優勢勝ちした。
【写真】土田さんは、前年の大会からゴールデントロフィーに関わり、この後、古巣大道塾とゴールデン・トロフィーの交流に貢献した
無事大会を終え日本勢全員が、現地在住の土田(真也)さんに感謝の言葉を送った。土田さんは名古屋大学を卒業後、大道塾で活躍しながら、外国人部隊を志し訪仏。しかし、視力回復手術を受けていることが原因で、入隊を認められず、現地で精進を続けていた。日本チームの手足となってくれた土田さんのワンマッチ戦の勝利に、誰もが我がごとのように喜びを爆発させた。
大会当日の夜、その土田さんの顔が苦渋に歪んでいた。須田君が運ばれた病院に行きたいという、僕の要求に対し、ヒベールから「どこか分からない」という答が返ってきた。そんなバカな話はないと英語で詰め寄ると、親日家のヒベール氏の顔が一変、プライド高きフランス人の顔に戻り、何やら土田さんに伝えた。
『シェフは私だ。そんなこと指図される覚えはない』
土田さんが蚊の泣くような声で訳してくれた。出場選手の安全に関して、ケツをまくる行為は、格闘技に関わる身として絶対に許されるものじゃない。僕とヒベール氏の関係は、これで終わった。
翌朝5時過ぎ。苦い胸の痛みを抱えた状態で、オランダへ移動するためホテルをチェックアウト。玄関へ向かうと、大道塾の2人に呼び止められた。「良い経験をさせて頂きありがとうございました。道中の無事祈っています」という達人の言葉、遠慮気味に手を差し出し、深々と頭を下げてくれた稲田選手。
朝靄で真っ白のパリを歩きながら、「格闘技と関わったおかげで最高の出来事が時々、この身に起こる」と思えることができた。
あの日の朝の思い出が、不惑の年を過ぎても迷ってばかり、しょっちゅう心が挫けそうになる記者を、今も奮い立たせてくれる。
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