【Breakthrough Combat02】安楽龍馬戦、Progressの伝道師=中原由貴「右腕を遊ばせている時間もあった」
【写真】MMAサイドから、ここまでProgress論が語られるのは初めて。今回に限らず、MMAと並行活動&継続参戦で、この世界観を広めていってほしい(C)SHOJIRO KAMEIKE
25日(水)に会場非公開&配信大会として開催されるBreakthrough Combat02で、中原由貴が安楽龍馬とのProgressライト級王座決定戦に臨む。
Text by Shojiro Kameike
Progress初戦となった10月の中川晧貴戦で勝利しただけでなく、このルールで戦うことの楽しさが試合中から溢れ出ていた。さらに試合後のインタビューでも、その楽しさを爆発させる中原。今回の取材で彼が語ったのは、まさにプログレスのコンセプトであり、MMAグラップリングに必要な考えでもある。「プログレスのルールって分かりづらいよね」と思っている方たち、ぜひ彼の言葉に耳を傾けてほしい。きっとMMAグラップリングの面白さと必要性が理解できるはずだ。
――試合前のインタビューから試合中、さらに試合後の解説席でもプログレスで戦うことの楽しさが伝わってきた中原選手です。まずは10月の中川戦で初めてプログレスルールを経験した感想を教えてください。
「最近のMMAで必要なスキル――単純な柔術でもなければ、単純なレスリングでもない。俗に言うMMAグラップリングという言葉で表されるような技術であり、ルールに則ってやらなきゃいけない。それが競技者にとって面白かったですね」
――その面白さは試合の中で、どのような場面に表れていましたか。
「プログレスも一本を取ることで試合が終わります。でもサブミッションオンリーと違って、上から殴れる位置にいるのであれば動かなくていい、というか(苦笑)。何より試合に出る競技者自身がコンセプトを理解していないと、試合はつまらなくなると感じましたね」
――おぉっ!
「サブオンリーはお互い取り合うコンセプトだと思うけど、ケージがあったりすると下になったほうも『極められなきゃいいや』って考えじゃダメですよね。立って取りに行くからこそ、上になったほうが動くシーンも出来る。パスしても得点に繋がらないところにも意味があるというか。プログレスは下が立つ前提でつくられているルールなのかな、と思います」
――プログレスのルールは、全てにおいてMMAを想定していると腑に落ちる部分はありますよね。
「はい。立ち上がって離れたら1ポイント――この1ポイントを、ないがしろにしてはいけないルールで」
――試合中も「MMAだったら、こう」と考えながら動いていたのでしょうか。
「そうです。もっとサブオンリーみたいな動きをしたかったけど、まずサイドに行ってもブリッジでも何でも返されたら相手にポイントが入ってしまいますよね。何か仕掛けられて、それを自分が防ぐために下になっても、相手にポイントが入ると考えたら……。
パスに行くメリットとリスクを天秤にかけた時、『これがMMAであれば俺は殴れるポジションだから、相手のリアクション待ちで良い』という場面はありました。相手が背中を見せたりして立ってきたところで、バックを取ったら自分にポイントが入る。だから『ちょっと動いてくれ』、『MMAだったら殴れるな』という意味も込めて、右腕を遊ばせている時間もあったんですよ」
――えっ!? どういうことですか。
「それが相手には伝わらなかったみたいで、ずっと背中を着けたままだったんですよね。向こうも展開をつくられるのが嫌だから、ずっと止まっていて」
――右手を遊ばせていた……中川選手だけでなく、視ているコチラにも伝わっていませんでした(苦笑)。
「アハハハ。ぜひ試合の映像を視返してください。2Rにトップを取った時、ハーフに行く手前で相手の足を押さえた状態で、右手を遊ばせているシーンがありますから」
――なるほど! 総じていえば、中川選手はグラップリングとして戦った。対して中原選手はMMAのグラップリングとして戦ったという印象を受けました。
「そう思います。僕自身もサブオンリーのような動きをしたかったけど、ポイントや壁レスの展開について考えると、思っている以上にサブオンリーに近い動きができなくて。だから自分がポイントを取ってから切り替えたんです。よりMMAのことを考えた動きに『あぁ、そういうことか』、『MMAに近い動きをしないと負けちゃうな』って思いました。それは、試合の途中から」
――ブラジリアン柔術は護身や、バーリトゥードで勝つための手順にポイントが与えられ、UFCを経て発展してきました。現代MMAにおいてはプログレスが、その意味を持っているとも思います。
「たとえばプログレスでは自分が足関節を取りに行って、足を抜かれて下になってしまうと相手に2ポイントが入りますよね。サブオンリーだと、そこでポイントは発生しない。MMAなら自分が仕掛けて下になると、今度は自分が殴られてしまう。試合をしているなかで、そういうプログレスのルールやコンセプトが、どんどん自分の中で消化されてきました。『あぁ、そういうことか』って、試合をしていて楽しかったです」
――その楽しさは試合中からも伝わってきました。おかげで視ている側も楽しくなるぐらいで。テイクダウンひとつとっても、それがレスリングのテイクダウンでも、柔術のテイクダウンでもなく。
「相手がケージ中央での組手を嫌がっている感じがあったんですよ。自分としては、あそこで潜ってバックに回るとか、そういう動きも練習もしています。でも自分の思ったような動きができていないし、相手は腰が重い。
そう考えていたなかで1Rの終わりに、ポイントには繋がらなかったけど、ダブルレッグで押し込んで引っこ抜くことができたんですよ。だから次は方向を変えたら、キッチリ倒すことはできそうだなと思って。壁で戦えば、しかも下に行けば行けるんじゃないかと思って。その点についてはラウンド間に修正しました」
――ケージ際のダブルレッグでは、押し込んでいる時に低く攻めすぎることもなかったですね。
「あぁ、それはMMAならではというか。やっぱり頭を下げすぎると殴られるし、自分がジリ貧になることも見えているので。それは意識していたというか、壁レスをやる時のクセかもしれないです」
――次の相手はMMAを経験していないレスラー、安楽選手です。レスリングをやってくることはもちろん、柔術の技術も持っているでしょう。そんな安楽選手との試合で、MMAグラップリング以外の動きをすることもありますか。
「僕もその点に行き着きました。前回はグラップリングの試合だからと、練習仲間の中でも寝技が強い人のところに行っていたんですよ。普段の練習スケジュールを変えて、寝技を毎日やっていたんですね。でも実際の試合では、平場での上下の攻防は全くなく、ずっとケージ際にいたじゃないですか。
今回もオファーを貰った時、『じゃあレスリングの練習に行くか』みたいなことも言われました。でも今さら1カ月半、レスリングを頑張ったところで相手との差は埋まらないですよね(笑)。相手はずっとレスリングをやってきて、そんななかでも他とはモノが違う選手だから」
――はい。
「だから今回は練習スケジュールを変えることなく、MMAを戦う時のスケジュールで練習しています。MMAの試合をするつもりで」
――安楽選手はMMAを想定してプログレスの試合に臨むことはないでしょう。しかしテイクダウンを奪いに来る。グラップリングであれば、中原選手が下から足を取りに行くという選択肢もあります。
「それは僕の中で葛藤があって――たとえば相手はMMAファイターほど壁際のキープが強くない、と想定した場合の話ですけど。テイクダウンを取られる度に僕が立ちに行っても4-2、6-2とポイント差が開いていきますよね」
――加えて、どんどん削られてしまいますし。
「そうなんですよ。そこで自分は得点を捨てて、極めに行くのか。でも相手がガードの中に入ってきてくれなければ、そういうゲームにならない。『極めに行くなら、このシーンで』とか、僕の中でも何パターンかは意識しています。MMAとして極めるチャンスをつくりたいですね」
――MMAでは中央アジア勢をはじめ、レスリングが強すぎるファイターも多いですし。
「MMAを戦ううえでレスリングというのは絶対に、できなきゃいけない。できて当たり前みたいな選手がいるなかで、安楽選手みたいな実績のあるレスラーと、このルールで戦えるのは良い経験になります」
――MMAファイターの中原選手にとって、プログレスで戦う意義とは?
「やっぱり自分の成長を確かめることができるという点ですね。練習仲間とでも成長は感じますけど、向こうの手の内も分かっている。すると、ちょっと小細工すれば相手がやりたいことを潰せたりしますから。
プログレスはちゃんと勝ち負けがあるルールで、全く知らない相手に――普段からMMAファイターとして積み上げているものを、ぶつけてみる。自分は成長したいし、成長するための戦いだと思っています。ファイトマネーを貰っていて申し訳ないですけど(苦笑)」
――たとえば森戸選手のような柔術家と戦うことをイメージしたりしますか。
「もちろんです。普段からMMAのスパーリングでも柔術黒帯の方と練習させてもらったりするなかで、今までは相手が仰向けに寝技に誘ってきたら、自分は立っていました。でもここ1年半、2年ぐらいはガードの中に入っていくんです。最初は極められることもありましたけど、今は取られることも少なくなって。もしプログレスで、そういう柔術家と対戦することになったら、クソつまらないけど勝ちに行くゲームはできる気がします」
――今後は様々なタイプの選手との対戦を期待したいところです。その前に今回は、安楽選手とベルトを賭けて戦います。
「まぁ……ベルトは懸かっていますけど、今回は安楽選手に勝つっていうことのほうがデカいですよね。モノが違うので『次の試合、自分は何ポイント取られるんだろう?』と思っていますよ(笑)。安楽選手に勝って巻くからこそ、このベルトに価値があるんです」
■視聴方法(予定)
12月25日(水)
午後6時30分~ THE 1 TV YouTubeチャンネル
■Breakthrough Combat02対戦カード
<Progress暫定ウェルター級選手権試合/5分3R>
[王者]森戸新士(日本)
[挑戦者]北岡悟(日本)
<Progressライト級王座決定戦/5分3R>
中原由貴(日本)
安楽龍馬(日本
<バンタム級/5分3R>
吉野光(日本)
川北晏生(日本)
<ミドル級/5分3R>
イ・イサク(韓国)
アギラン・タニ(マレーシア)
<Progress68キロ契約/5分2R>
須藤拓真(日本)
中島太一(日本)
<Progress71キロ契約/5分2R>
城戸泰介(日本)
椿飛鳥(日本)
<フライ級/5分3R>
チェ・スングク(韓国)
古賀優兵(日本)