この星の格闘技を追いかける

【Special】J-MMA2023─2024、岡見勇信「やっぱり僕は自分が信じた武器をぶつけるしかない」

【写真】試合後に自嘲気味な笑みでなく、会心の笑みが見られたのは嬉しい限りだ (C)TAKUMI NAKAMURA

2023年も残り僅か、2024年という新たな1年を迎えるには当たり、MMAPLANETでは2023年に気になった選手をピックアップ──過行く1年を振り返り、これから始まる1年について話してもらった。
Text by Takumi Nakamura

J-MMA 2023-2024、第三弾は12月2日のプロ修斗公式戦「FIGHT&MOSH」でキム・ジェヨンに判定勝利した岡見勇信に話を訊いた。2023年の試合はこのジェヨン戦のみだったが、この試合に向けた取り組み、そして試合で見せた必死な姿は見るものの心に響いた。岡見がジェヨン戦で何と戦っていたのか。

■2023年岡見勇信戦績

12月2日 プロ修斗公式戦FIGHT&MOSH
〇2-1 キム・ジェヨン(韓国)


――キム・ジェヨン戦は約4年ぶりの勝利でした。試合を終えた時は率直にどのような心境でしたか。

「色んな感情がありましたよね。カード発表動画でも言ったように、ジェヨン戦は終わりを考えずに気持ちはフレッシュに新たな冒険に出る、終わりを見据えた戦いはよくないと思う試合でした。そういった意味で再スタートを切れるのか、それとも終わってしまうのか。そのどちらかという試合だったので、勝つことが出来てホッとしていますし、厳しい戦いでしたけど、自分がやろうとしていた前に出る姿勢は貫けたかなと思います。

そういうファイターとして大事な部分をオンラ・ンサン戦からずっと考えていて、その課題を自分に問う試合だったので、そこでなんとか…なんとか…なんとか……ファイターとして戦いきれたことがホッとした感じがありますね」

――試合そのものは打撃でプレッシャーをかけて何度もテイクダウンにトライするという展開でした。それを想定して練習にも取り組んでいたのですか。

「もちろん練習と試合は違う部分がありますが、まさにそういう練習をやっていました。どうしても経験や技術が増えると、そこに頼りがちになって、特に練習ではそうなってしまうんです。言葉は悪いけど小手先の技術でごまかしてしまうというか。決してそれが間違っているわけではないんですけど、自分がダメージを負わない代わりに、相手にもダメージを与えていない。でも試合としては上手く勝つ。いつからか自分もそういう練習や試合をするようになっていました。

僕自身、ンサン戦が終わって、いつからそうなったんだろう?と考えたら、2017年にUFCに復帰してから、特にそういう部分が出てきていたなって。この5~6年はファイターとしての本質的な部分が欠けた姿勢や練習をやっていました。だから今回のトレーニングキャンプでは逃げずに戦う姿勢を持つ。自分がダメージを受けるリスクもあるけれど、相手にダメージを与える。そこをやらなきゃいけないと思って、内藤由良と16オンスのグローブで、ヘッドギアなしの本気のMMAスパーをやってたんです。そのスパーが試合と同じような練習だったんですよ。試合中にも『これって由良とやったスパーのまんまだな』って思うぐらい。

由良はレスリングがバックボーンで動きも早いから、なかなかピュアレスリングではテイクダウンが取れないんです。だから打撃で前に出てケージに押し込んで押し潰して、MMAのレスリングで勝負しないといけない。その中間で組みつきに行ってもいなされるし、少しでも弱気な姿勢を見せたらやられるので、由良とスパーしながら勝つためには前に出ることがベストな選択だと感じていました。そういうシチュエーションが試合で何度も訪れたんですよね」

――例えば1Rに岡見選手がバックコントロールしようとして、グラウンドで下になってしまい、亀になって立とうとしたところでパンチを浴びました。結果的に立ち上がることはできましたが、ああいった場面でもキツイことをやるという練習が試された場面だと思いました。

「あの場面は僕がバックをとろうとしたところで、ジェヨン選手に上手く重心移動されて、最終的に僕がバックをとられたんです。あの時に『これは簡単な試合にならない』と痛感しました。でもそれは試合前にジェヨン選手の試合映像を見た時点で、タフな試合になりそうだと思ったし、今回はバックステージがそこまで広くなかったのでジェヨン選手のアップを試合前に見かけたんですけど、入場直前までものすごくアップをしてるんですよ。本当に入場1分前までずっと対人練習をしていて、これはしんどくなるぞと(苦笑)」

――もしかしたらジェヨン選手も岡見選手とやるにあたってタフな展開になることを覚悟していたかもしれませんね。

「実はキム・ドンヒョンのジムで彼とは練習したことがあって、なんとなくやりづらい選手だなと思った記憶があるんです。案の定、1Rに自分がグラウンドで下になって、練習でやっていたことが出来ずに、パウンドをもらってポイントをとられましたけど、そこは冷静にやるべきことをやろうと。あの時点で改めてスイッチを入れ直しました」

――ジェヨン選手はこの試合のためにATTワシントンでも練習を行うなど、この試合にかける想いは強かったと思います。ファイトスタイルも含めて、岡見選手が取り組んできた練習が試された相手だったと。

「色んな相性もありますけど、どちらかと言えばジェヨン選手は僕が苦手としているブルファイター。どんどん前に出て殴ってくる。粘り強い典型的な韓国人ファイターで、こっちも絶対に気持ちが折れちゃいけない相手でした。まさに自分自身に課していたものを彼が対戦相手として立ちはだかってくれたと思います」

――試合を見ていて感じたのは、岡見選手は対戦相手のジェヨン選手だけでなく、自分とも戦っていたんじゃないかなと。事前のインタビューで岡見選手が「自分に克つ」という言葉を口にしていたので余計にそう感じました。

「確かに自分と対話している時間が長い試合だったと思います。身体はキツかったんですけど、意外と頭は冷静だったというか。今回は客席の声や言葉もはっきりと聞こえてきて、それも聞きながら自分と対話ができました。今まで戦ってきたイベントと会場の大きさが違う部分もあると思いますが、しんどい展開の中でも色んな言葉が入ってきました」

――まるでキャリアの浅い・若い選手が先輩に煽られて何度もテイクダウンに入る。そんな光景にも見えました。

「ホントにその通りです。それを自分で自分にやっていましたね。試合後にも言った通り、ダメージとは違う部分で本当に身体がしんどかったのですが、だからこそ自分で自分に檄を飛ばしていました。今回は試合に勝つのはもちろん、自分の弱さに負けたくないという気持ちがすごくあったんですよ。

僕は格闘技を通じて常に自分の弱さと向き合ってきて、試合を楽しめる選手がうらやましいんです。試合前に堀口(恭司)くんのYouTubeチャンネルを見たんですけど、彼は試合前日もすごく楽しそうにしているし、計量後にみんなでご飯を食べて『よっしゃ、行くぞ!』みたいな動画をアップしているんですよ。僕はあれにすごく感動して。本当の意味で世界で勝っていく男ってこういうマインドなんだなと思いました」

――堀口選手のYouTubeを見て、そんなことを感じていたんですね。

「もちろん堀口くんも色んなプレッシャーや感情はあるだろうけど、リアルにあの動画のまま試合に入って、勝ち負けはあっても素晴らしいパフォーマンスを発揮するわけじゃないですか。しかもそれを世界のトップレベルでやるわけだから、本当にすごいと思いますよ。彼と比較すると、僕はそこまで試合を楽しめないし、ずばり彼は自分とは違う人間だなと思います。だからこそ彼のような選手から吸収したいこともあるし、今回は試合が近づくにつれて、自分を追い詰めすぎずに楽な気持ちで楽しむべきなのか?とか、色んなことも考えました。

僕も戦績的にただ勝つだけだったら、たくさん勝ってきました。そのなかで本当の意味で勝つ、楽しむ、実力を出し切っていいパフォーマンスを見せる…そういうものを求めて、自分の弱さとも向き合って、それを克服しようとしてきたんだなと思い起こして。だから今回は絶対に自分の弱さに勝つ・絶対にそこをクリアすることが大きかったんですよね。それが分かりやすく言えば前に出ることだったし、それがトレーニングキャンプで取り組んだことです」

――岡見選手のようにキャリアを重ねると「この団体のベルトが欲しい」や「この相手に勝ちたい」という外的な目標だけでなく、それ以外の部分で何を目標にして戦うかも大事になると思います。岡見選手の場合は弱い自分に勝つことがそうだったと思うし、僕はまさにMMAがそういう競技だと思うんです。MMAは局面が多くて色んなことをやる必要がある分、言い方を変えれば妥協する・諦めるポイントも多いじゃないですか。

「確かにそうですね」

――だからこそMMAで勝つためには自分の弱さと向き合うことが必要で、今回の試合で岡見選手が見せてくれたものこそMMAの強さの追求だと感じました。

「僕は打ち合う・殴り合うことが勇気だとは思っていないし、弱い自分が出てきたときにMMAは色んなことができる分、誤魔化しが利いてしまう。練習でもごまかす方にいってしまいそうになるんです。でもそうじゃないだろ、と。今、自分がやっていることが次の相手や目指している選手に通用するのかと。格闘技は対人競技だから、相手に軸を置いてしまうと、練習相手のレベルによってやりたいことができちゃうし、誤魔化すのも簡単なんです。

でもそれで試合に臨んだ時に。相手のスキルやレベルが高ければやってきたことが通用しない。そこがMMAの難しいところで、どこに自分の軸を置くかが大切なんですけど、やっぱり僕は自分が信じた武器をぶつけるしかないと思うんです。結局そこで通用しなかったら相手が強かったと認めるしかないし、そこをぶつけずに誤魔化して戦うことが自分の弱さだなって。練習相手には誤魔化すことが出来たけど、試合で競った相手にトライしたら通用しない。それが逃げだと思うんですよね。

だったらこれが岡見勇信の武器だと思ったものを全力でぶつける。それが通用しなかったら、それは相手が強いということ。それをぶらさずに練習にも試合にも取り組んで、上手くいかないこともあったけど、自分がやろうとしていたことは多少できたかなと思います。自分の武器を相手にぶつけること、それが自分にとって勇気だったと思います」

――試合後に岡見選手のX(旧)を見させてもらったのですが、MMAPLANETのコラムでも振れた客席からの「こんな試合が見たいんじゃないぞ!」という声の主は岡見選手を長年応援している方の声だったそうですね。

「実はそうなんですよ。僕がデビューして2~3年目、UFCに出る前から応援してくれている方で、それこそUFCのブラジル大会にも来てくれて。だから僕の弱いところを知ってくれているから、あえてああいう言い方で檄を飛ばしてくれました。僕も試合中に誰の言葉かすぐに分かりましたし、言葉だけを聞くと野次のように聞こえたかもしれませんが、愛を持って接してくれている方の言葉です。でもああいうコラムを書いてくれた髙島さんの想いも嬉しいし、あの試合に対するみなさんの気持ちが嬉しいです」

――2023年を勝利で終えることが出来ました。この一戦にかけていたと思うので、先のことは考えていなかったと思いますが、来年はどんな試合をやっていきたいですか。

「今はまだそこまで深くは考えてはいなくて。今回の試合をやってファイターとしての新しい景色が見られたと思うんですよ。今までとは違う景色が見られて、新しい自分と出会えることが出来た。こうやってみたいとか、これをやったらどうだろうという色々なイメージもあります。次はいつどこで戦うということは考えず、僕もただ試合をやればいいというキャリアでもないので、また自分と向き合って身体を創って、その時にふさわしい舞台や意味のある相手と戦いたいと思います」


PR
PR

関連記事

Movie