【Grachan63】メインの山田哲也戦へ、植田豊─01─「殴る、蹴る、投げる、極める。そういう単純なこと」
【写真】ファイトウィークの輪郭になっている植田(C)SHOJIRO KAMEIKE
6日(日)、東京都江東区のTFTホールで開催されるGrachan63のメインで、植田豊が山田哲也と対戦する。
Text by Shojiro Kameike
昨年5月、植田は原口伸とGrachan暫定ライト級王座を争い、判定負けを喫した。2010年にプロデビューし、2013年に一度戦いの舞台から離れたものの、2019年に復帰した植田。以降はベルト挑戦の機会が与えられながらも、チャンスをモノにすることができていない。そんな植田を取材すると、彼の中に悲観的な部分は一切なかった。まさに達観――ベテランがMMAの中で辿り着いた場所とは。
――本日はお仕事のお昼休みにインタビューの時間を取っていただき、恐縮です。しかも太陽が照りつけるなか……。
「いえいえ、大丈夫です。写真を撮ったら移動しますので(スクリーンショットを撮影後、日陰に移動)」
――ありがとうございます。試合を4日後に控え、今もフルタイムで出勤されているのですね。コンディションに影響を及ぼすことはないでしょうか。(※インタビューは2日に行われた)
「コンディションは至って普通ですね。良すぎず、悪すぎず。減量中なので節々が痛いところはあるますけれども、計量後に栄養を摂ったら治ると思います(笑)」
――2022年5月の原口伸戦以来の試合を迎えます。2019年に復帰後はコンスタントに試合をしたかったか、あるいは試合間隔を空けたかったのか。どちらでしたか。
「あぁ、もう1年以上の間隔が空いてしまっていますよね。復帰後はコンスタントに試合をしたいという気持ちはありました。でも怪我が多く――実はもう何年も前から、首のヘルニアが痛くて、練習もコンスタントにできない状態でした。だから今、首の痛みがない状態というのが本当に久々で」
――試合をしていない期間はヘルニアの治療に充てていたのでしょうか。
「治療自体は、何年も前から続けていました。さらに練習量を少し落としてみたら、首も良くなってきたんですよね」
――それは良かったです。しかし練習量を落とすと、「これで大丈夫なのか……」と不安になったりはしませんか。
「いや、不安にはならないですね。もともと相当練習するほうだったと思うので。正確に言えば、強度の高い練習を毎日やることを止めました」
――質も高く、量も多すぎたわけですね。
「はい(笑)。どうしてもガンガンやってしまう性格なので。でも年齢的なこともありますし(現在36歳)、少しは考えていかないといけない。だから『休むこと』を覚えました」
――なるほど。この期間に技術的な面など、他に大きく変わった部分はありますか。
「技術的な面というよりも――今まで練習しすぎてしまっていたり、試合も作戦を綿密に練りすぎてしまうところがありました。すると試合で考えていたような展開ではなくなると、対応できなくなったりする場面が出てきたりとか。そうなると相手とお見合い状態になったり、自分も手数が出ないまま試合を終えるということが多かったんです」
――……。
「だから今回も、それほど対戦相手の試合映像も視ていません。気をつけるべき点だけをチェックして、5分2Rただただ前に行くというスタイルに変えようと考えています」
――「試合で考えていたような展開ではなくなると、対応できなくなったりする場面が出てくる」というのは、復帰後でいえばどの試合でしょうか。
「前回の試合は、まさにそうですよね。もっと相手がプレスをかけてくると思っていました。でも相手が慎重に戦ってきて、自分としては『アレッ?』となってしまい……。そうなると、自分の動きも止まってしまうような試合が、今までは多かったです」
――予想と違う展開になると、自分自身の中で切り替えるのも難しかったのですか。
「難しくなっちゃうタイプでしたね(苦笑)。もう本当に、作戦を練りすぎて。おそらく会長(山﨑剛Me,We代表)も同じことを感じていて、今回の試合については細かいことを言われなくなりました。もちろん相手に関して気をつけるべき点は指摘してくれます。でも、そういうことは大雑把にインプットするだけで。あとは殴る、蹴る、投げる、極める――そういう単純なことをやれば良いと思っています」
――殴る、蹴る、投げる、極める。大雑把といいますか、もっとシンプルに考えたほうが良いという結論に至ったわけですね。
「ずっと僕の試合を見ていて、周りの人たちもそう感じていたでしょうし、僕自身もそう考えました」
――昨年5月の原口伸戦は注目のルーキーとベルトを賭けて戦い、敗れました。
「先ほど言ったとおり、内容は自分が考えていたものと違いましたよね。相手はもっとパンチを振って前に出て来ると思っていたら、ローでチョコチョコと攻めてきた。そこでワンテイクダウンを取られ、あとは自分のプランも総くずれになってしまいました。さらに相手のパウンドが自分の首に当たると、首が痛くて動けない状態になって」
――それだけ首のヘルニアも悪化していたのですね。結果、またもベルトに手が届きませんでした。
「ベルトどうこうよりも、チャンスを頂いてもモノにできていないことについては申し訳ないという気持ちがあります。周りのチームメイト、支えてくれている人たち、そしてチャンスをくださった方たちに対して。ただ、今は僕自身がベルトというモノにこだわっているわけではないんです」
――では今、植田選手がMMAを続けるうえで目指しているものとは何なのでしょうか。
「好きだから続けている――それだけですよね。もっと上手くなりたい、もっと強くなりたい。ベルトって、その先にあるものですから。ここ一番で自分の力を発揮できない、というのは格闘技だけの話ではなくて」
――というと?
「日常の中であったり、仕事の場面でも『まだまだ足りない。もっと上手くならないといけない』と思うことが多いです。格闘技だけでなく、人生全てにおいて大切なことじゃないですか。この先、自分自身のなかで納得できるところに至るかどうかは分かりません。でも好きなものだからこそ、納得できるところまで続けたいんですよ」
<この項、続く>
■視聴方法(予定)
8月6日(日)
午後1時00分~ GRACHAN放送局