【ADCC2022】77キロ級。健闘と今後への糧、世界に挑んだ岩本健汰はJT・トレスにレフ判定負け
【写真】JTの特性は十分に分かっている。岩本の先制攻撃ゲームでなく、勝負に出た表れだったか(C)SATOSHI NARITA
17日(土・現地時間)&18日(日・同)にラスベガスのトーマス&マック・センターにて開催された2022 ADCC World Championshipが開催された。
Text by Isamu Horiuchi
ADCC史上、他のグラップリングイベントの追随を許さない最高の大会となったADCC2022を詳細レポート。まず第1回は77キロ級で世界王者に挑んだ岩本健汰のチャレンジの模様をお伝えしたい。
<77キロ級1回戦/10分1R&ExR 5分>
JT・トレス(米国)
Def.ExR Ref Decision
岩本健汰(日本)
しばしスタンドの展開が続いた後、岩本がシュートイン。JTはスプロールするが、JTの右足を抱えた岩本は上体を起こして両手でグリップを組むと、右足を引き寄せてテイクダウン。スクランブルを試みるJTに体を寄せてそれを許さず、そのままJTの両足を掴んだまま立ち上がってみせた。
JTは腕のフレームで距離を作って立とうとするJT。が、岩本はその右足を取って再びシングルでテイクダウン、再度JTに背中を付けさせる。まだ加点時間帯前とあって、JTは無理に抵抗をしていない様子だ。それを差し引いても、トップゲームでADCC2連覇を達成した絶対王者相手に、岩本がテイクダウンを先に奪い上のポジションを確立したのは特筆すべきことだ。
その後しばらく、パスを仕掛ける岩本と守るJTという展開が続く。積極的に左右に動き足を捌こうとする岩本だが、JTは脱力して落ち着いて対処する。その表情はきわめて冷静で、むしろ薄笑いを浮かべているようにすら見える。時折りJTは距離を作って立とうとするが、岩本はそのたびに体を寄せてJTを下にさせ続けた。
3分半経過時、クローズドガードの中で岩本が立ち上がると、ガードを開いたJTは一瞬で左腕にオモプラッタ。岩本が腕を抜いて距離ができた瞬間、すかさず立ち上がる。岩本はシングルで追うが、ここはJTが素早くスピンして切り、立ち上がってみせた。脱力して出力を抑えつつ、要所で切れ味鋭い動きを駆使して体勢を戻す緩急の使い方は、難攻不落の絶対王者ならではだ。
スタンドで首を取り合う両者。JTはまるで散歩でもしているかのような表情で、鼻呼吸で攻防しているのに対し、岩本はやや口が開いている。やがて5分が経過し、試合は加点時間帯に突入した。
ここで岩本はJTの右足に再びシュートイン。が、すぐに反応して岩本の頭を押し下げたJTは、スピンして足を抜くと岩本の背中に。襷を取ってそのまま岩本の体を返そうとするがJTだが、岩本は亀の姿勢で耐える。そのまま3秒が経過したので、もしこのまま下になっても岩本の失点はなくなった。
ここから体勢を起こした岩本は、体をずらしてJTの右足を掴んでシングルを狙う。が、試合序盤と違いJTは簡単に尻もちをつかず、落ち着いて岩本の首をコントロールし離れる。
試合はスタンドに戻ると、表情に疲労が見える岩本は再三右足めがけてシングルを狙うが、慌てずJTは距離を取る。残り2分。岩本のシングルを切ったJTが再び背後に。またしても襷を取ると、ゆっくりと両足のフックを入れてポイントを狙う。ここは岩本が防いで本戦が終了した。
インターバルがなく延長戦に入り、お互いスタンドから再開。全力で攻撃し明らかに体力が落ちている岩本に対し、JTは本戦におけるリラックスぶりから一転、ここからが本番だとばかりに臨戦態勢に入っている。さすがADCCルールを経験し尽くしたツータイムス王者、恐るべきペース配分の巧みさだ。
またしてもシングルに入る岩本だが、明らかに力が落ちており、JTに切られて背後を取られてしまう。まず襷を狙ったJTは、続いて岩本の股間に腕を入れて下半身から体を返すと、担ぎのような体勢で岩本の背中を付けさせて、ガードの中に入った。いったんポジションが止まってからなので得点こそ入らないが、岩本はこの試合ではじめて完全に下のポジションを譲ることに。
背筋を伸ばしてプレッシャーをかけてくるJTに対し、下の岩本はJTの右ヒザ裏に腕を入れると、ガードを開いて足狙いへ。が、JTは慌てずに体重をかけて潰してゆく。岩本は再びJTの右足に手をかけると、それを引き寄せて肩に抱えて、50/50で足を絡めることに成功する。岩本が右足を対角線に抱えたところで、立ち上がったJTは絡む岩本の右足を押し下げて右足を抜く。
次に岩本は下からJTの左足にデラヒーバで絡んで足を狙うが、JTは体重をかけて阻止する。
ならばと岩本は内回りでJTの右足に絡むと、再び50/50へ。が、JTは再び岩本の足を押し下げて対処。持てる技術を総動員して仕掛けている岩本だが、JTにことごとく潰されてしまう。
残り2分を切ると、上半身で低くプレッシャーをかけたJTは、岩本の右足を超えてハーフへ。ワキの下をくぐろうとする岩本だが、JTは体の圧力で潰す。それでもハーフからの潜りを試みる岩本だったが、バランスを保つJTは岩本の左腕をキムラグリップで捕獲した。
岩本が下から動くとJTは無理せずにグリップを離し、再び圧力をかける。後転するように岩本が仕掛けると、JTはその流れに乗じるように担ぎからサイドに回る。
嫌がった岩本が背中を見せるや、JTは瞬く間に背後につく。残り10秒。最後まで攻撃を試みる岩本は前転して動きを作ろうとするが、JTはすかすように上をキープ。最後まで大きなリスクは犯さず、有利な姿勢で試合を終えた。
本戦延長合わせて15分の熱闘の判定はJTに。絶対王者に真っ向勝負を挑み、あらゆる手を尽くして戦った岩本。先にテイクダウンを奪い、さらにその後もポイントを許さなかったのは大健闘と言っていいだろう。だが同時に、どれだけ攻撃を仕掛けてもJTのペースを崩せないまま体力を消耗させられ、結局その牙城を揺るがす場面は作れなかったことも否めない。
世界の頂のおそるべき高さと奥の深さを見せつけられた岩本だが、同時に今回、そこに迫る力を間違いなく持っていることを証明してみせたと言えるだろう。ここ数年世界的強豪との対戦をほとんど経験せずしてこの戦いぶりだけに、今後ワールドクラスの相手と鎬を削る経験を積んでいくことができれば、メダル獲得も夢ではないだろう。
さらにADCCだけでなくB-Teamと交流ができた今夏の経験を生かして、世界のグラップリングシーンに挑んで欲しいモノだ。